見習い騎士の活躍(後編)
※今回もオラシオ目線の話です。
僕らは騒ぎを起こした八人を捕縛する事に夢中で気付かなかったが、その騒ぎの最中に国王陛下が襲撃されたらしい。
とは言っても、攻撃自体はニャンゴが作った盾に遮られて、届きもしなかったそうだ。
「騒ぎを起こしていた連中は、これで全員か?」
「はい、我々が確認した者は全員捕らえました」
捕らえた八人を引き取りに来た正騎士コルソン・シャヌエルさんに、僕らを代表してルベーロが対応している。
「こいつらの騒ぎは、おそらく直後の襲撃の陽動だと思われるが……気付いていたのか?」
「最初はただの喧嘩騒ぎだと思っていたのですが、同期が全員を捕まえろと言い出したので……」
「その同期というのは誰だ?」
「はっ、自分であります!」
コルソンさんに問われて、ザカリアスが名乗り出た。
「どうして陽動だと気付いたのだ?」
「はっ、最初は陽動とは気付きませんでしたが、争っているのに殺気というか、相手に対する憎しみのような物が感じられず、変だと思ったのです」
子供の頃から武術に馴染んできたザカリアスからみると、ぶつけあっている言葉も具体性が無いし、下手な芝居を見せられているように感じたそうです。
「それで捕らえてみようと思ったのか?」
「いいえ、捕らえなければならないと思ったのは、争っているはずのこいつらが、チラチラと空を眺めていたからです。今回の視察は、一般市民には知らされていないと聞いております」
言い争いをしている最中に、相手ではなく空を見上げるのは確かにおかしいが、それを見て視察に関係していると直感したザカリアスは凄いと思う。
「なるほど……いや、良く見ていたな。そうであれば、こいつらの行動は間違いなく陽動だ」
「し、知らねぇ! 襲撃とか、陽動とか……何の話か分からねぇ!」
騒ぎを起こした八人のリーダーだと思われる男が喚いたが、コルソンさんにジロリと睨まれただけで黙り込んでしまった。
「知っていようがいまいが、貴様らのやった事は国王陛下を襲撃する手助けだ。正直に話さないというのなら……」
コルソンさんは右手で手刀作り、自分の首をポンポンと叩いてみせた。
つまり、首を断って処刑するという意味だ。
ザカリアスに抵抗すれば斬ると言われた時もビビったのだろうが、正騎士から処刑だと言われるのとでは恐ろしさの度合いが違っているのだろう。
八人はガタガタと震えだして、中には泣き出す者もいた。
この中には、少し前に行われた貴族の公開処刑を見た者もいるかもしれない。
それ以外でも、残虐な犯罪を行った者は公開で斬首される。
そうした処刑を一度でも見たことがある者にとって、正騎士のこの仕草は冗談では済まされない恐ろしさなのだろう。
「他に、何か気付いた事はあるか?」
コルソンさんがザカリアスだけでなく、僕らにも視線を向けて尋ねると、トーレがすっと右手を挙げた。
手振りで促されると、トーレは悲しそうな表情で口を開いた。
「こいつら、パラシオス伯爵領の出身だと思います」
「訛りか?」
「はい、自分もパラシオス領の出身なんですが、ちょっと独特な訛りがあるので……」
「そうか……」
「手前、同郷の人間を売りやがったのか!」
「黙れ! 騎士候補生として厳しい訓練を受けている者を、貴様らのような犯罪者が非難する資格など無い!」
八人のリーダーらしき男が喚き散らしたが、コルソンさんに一喝されて震えあがった。
自分も同じ身の上だから良く分かっているが、騎士候補生の訓練は本当に厳しい。
たぶん、僕もトーレやザカリアス、ルベーロと一緒じゃなかったら心が折れて、田舎に帰るしかなかったろ思う。
捕らえた八人の護送は、王族による視察が終わってからとなった。
国王陛下が襲撃されたにも関わらず、視察は中止とならず続けられるそうだ。
正騎士による聴取が行われている間にも、上空をニャンゴとバルドゥーイン殿下が通り過ぎていった。
「あっ、ニャンゴとバルドゥーイン殿下だ」
「君はエルメール卿と知り合いなのか?」
二人を見上げていて、思わずつぶやいてしまった言葉をコルソンさんに聞かれてしまった。
「はっ、自分はエルメール卿と同じ村の出身であります」
「ほほう、エルメール卿の幼少期を知っているのか?」
「はっ、村の学校に通うようになってからですが、同じ年の者が自分を含めて四人しかおりませんでしたので、仲良くしてもらっていました」
「ほほう、幼少期のエルメール卿は、どんな子供だったのだ?」
「はっ、とても大人びていて、頭が良く、正義感が強くて、それでいてイタズラ好きでした」
コルソンさんは、周囲を警戒しつつも、僕の話を聞きたがった。
「いったい、何をどうしたら、あのように安定して空をとべるんだ」
一定の間隔を開けて、またニャンゴは二人の王族を乗せて僕らの上を横切っていった。
かすかにブーンという音は聞こえてくるが、それ以外の音はせず、空の上を滑るように進んでいく。
捕まっている八人も、縛られて他にやる事が無いから空を見上げていた。
「いいなぁ……俺も王族に生まれれば、あんな風に気楽に空を飛べたのになぁ……」
「貴族ばっかり良い生活しやがって」
「くそっ、貧乏人に生まれたばっかりに……」
捕まった八人の愚痴を耳にしたコルソンさんが口を開いた。
「お前らは何を聞いていたんだ? 今、王族を乗せて空を飛んでいるエルメール卿は、お前らと同じ貧乏な平民の生まれだぞ。そうだよな?」
「はい、ニャンゴは自分で魚とか蛙を捕まえて食べてたし、学校に通わないで薬屋のカリサさんに弟子入りして、薬草採取で稼いでました」
ニャンゴの家は、僕の家よりも貧乏で、ニャンゴの服は二人の兄が着古してボロボロになった物ばかりだった。
村長の孫のミゲルにいつも揶揄われていたけど、ニャンゴは服なんか稼げるようになってから買えば良い、大事なのは中身だと言って気にもしていなかった。
「でも、俺らはあんな特別な魔法は使えない。俺らだって……」
「ニャンゴは空属性だよ」
「空属性……どうやって……」
「さぁ、僕も知らないけど、ニャンゴが人一倍努力を続けてきたのは間違いないよ」
ニャンゴが空属性だと知ると、殆どの人が驚く。
空属性は、ちょっと空気を固められるだけで、それも脆くて使い道のない属性だと言われてきた。
でも、ニャンゴは空属性だと分かった『巣立ちの儀』の当日にも、魔法を使って嫌がらせをしてきた冒険者を懲らしめていた。
「どんな環境でも諦めず、自分の夢に向かって努力をし続けてきたから今のニャンゴ・エルメールが出来上がったんだ。自分の境遇に不満があるなら、自分で何とかする努力をしなきゃ行けなかったんだよ」
「そんなの、今更教えられたって遅いだろう……」
騒ぎを起こした八人は、がっくりと肩を落とした。
たぶん、自分たちのしでかした事の重大さは理解しているのだろう。
国王陛下に対する襲撃を補助したとなれば、間違いなく死罪だ。
どういった事情で王都へ来たのか分からないが、たぶん故郷での生活に嫌気が差して出て来たものの、働く場所も得られず、転落の一途を辿ったのだろう。
その時、八人のうちの一人が口にした言葉を思い出した。
「もしかして、君たちは反貴族派?」
僕の言葉を聞いて、何人かが顔を上げ、逆に他の者は目線を逸らした。
その行動は自分たちの素性を語っているのと同じだ。
「なるほど、まだこんな連中が巣食っているのか……」
八人が反貴族派の残党と知って、眼光を強めた。
「処刑されるのが嫌なら、洗いざらい知っていることを話せ、嘘をついたり、隠そうとすれば、お前たちの未来は閉ざされると思え」
八人はコルソンさんの言葉を神妙な表情で聞いていたが、彼らに待っている未来は厳しいものとなるだろう。
僕らは手柄を立てたのだろうが、そんなに歳が離れていないと思われる八人の未来を奪ったのかと思うと、変な罪悪感を覚えてしまった。





