B034.魔王シマ工作
「だから、寝るって言ってるだろう。」と新魔王に就任してからの俺がやるべき事はゲームからのログアウトである、無論これは寝たフリして情報収集や根回しを開始する為である。
「あ、先輩が夢の世界に逃げるっす!」「お兄さんが寝るなら私も寝ますねー。」「10代で連日徹夜はよろしくないからもう休め…。」「徹夜を続けると寿命が縮む気がしやすからね。」「お疲れ様!」と仲間達と別れの挨拶をしてログアウト。
興味本位で手に入れた魔王位を放り出した愛微笑を叩く事は流石にしなかった、仲間に売られた感はあるが、あいつなりの評価と解答がこれならば悪意は無いのだろう。周囲が笑い話にしようとしているのもそれが理由だろうが。
ナイトウィンドさんに丸投げしなかったのはあの人は人見知りらしいし、本当に大事な人間に責任を押し付けたくないという身内に甘い考えだろうな、所詮同い歳だしな愛微笑。
前魔王の愛微笑が怠った、というよりも強制出来なかった魔王としてのやるべき仕事は4つ、根回しと方向性の決定と軍事訓練と経済操作及び支配である。
ギルドマスターという支配階級なんだからそれくらいやれよと思うプレイヤーは多いものの、それを実際に出来るプレイヤーは恐ろしく少ない。だってこれほぼ仕事だもん。
しかも規模がでかい、部活動やサークルとかそういう規模ではない、100単位の人数が関わる。
これに税金や法律とゴマすりが加わると自営業と変わらないらしい、とカラシさんも以前言っていた。
俺はログアウトを宣言しゲームを抜けた途端HMDは被ったままで、コミュニケーションツールSympaxiに魔王就任の経緯と挨拶とこれからの抱負をそれらしく箇条書きにしなければならない。
戦略に関しては既に一部の指導者層には見えているので書く必要はないし、書けば機密漏えいをネタに叩かれる。「次はここを攻めるぞ!」と大きく宣言して許されるのは戦国時代までである。
そう考えると愛微笑の心が折れる前に軍事訓練になるイベントを開催しておけば良かったな、そうすればこのまま傀儡魔王政権のまま勝利も敗北も無い戦いが続く対人MMOのあるべき姿が続いたろうが。
とはいえ手を抜くと間違いなく負ける、かといって全力でいけば勝てるかもしれないがゲームはバランスを失い、マギラ3は大規模なバランス調整が行われるかゲーム自体がお金にならないと見られてサービス前に滅ぶ可能性がある。
世界の命運は君の双肩に託されている!しかも役割は魔王。なんてこった、早く勇者は俺を殺しに来いよ、そうすれば世界崩壊の責任は勇者になるからな。
めでたしめでたし、とは世界の終わりであるのが物語の常だ。
噛み砕くとRPGのよくある設定で地上世界で魔王と人間が争っていて片方が勝ち過ぎると創造主が介入して来てストーリーを台無しにするアレだよ!あの状況一歩手前にまで持ち込んでしまう可能性がある。
そもそも、二大勢力で争う設定に無理があるんだよ、カラシさんも「二勢力の対人MMOが長生きした例は少ない。」と昔言っていたし。どうすればいいんだこれ。
うーん、うーん、そうだ!と俺は閃きを受けた後にそれらしい挨拶と抱負をSympaxiに書いた後に横になり目を瞑ろううとしたが「お兄ちゃん歯磨き!」と妹に襲撃を受けたので渋々これを承諾。
アホ過ぎる魔王もありなんじゃないかなーと洗面所にて俺は隣で歯を磨く妹を見てふと思った。
起きる!朝食!ライスでございますか母上、食べるのに時間がかかるんですよ。え?喧しい黙って食え?ハイハイ。二階へダッシュ!お外に遊びにいかないの?母上!そりゃー世界の運命を握っていますからね!過去の偉人からは「私が眠るとみんな死んじゃう」という名言がございますが、私がログインしないと世界が滅んじゃうなんて状況もあるんですよ。人生はいつファンタジーが訪れるか分からないものですよ!
虹彩認証、顔認証通過、物悲しいオープニング曲のアレンジはスキップ!
「オラアアアアア!インしましたおはようございます。」「…おはよう。」「あ、魔王たんインしたお!」「ごいすー(玉座)」と今日からはテンションを上げていかなければならない。何、ゴールデンウィークと共にベータ1は終わる、さすれば俺も世界も救われん。全力で走り抜ける、ただそれだけだ。
「先輩、魔王っぽい仕事を早速してくださいっすよ。」とロドリコが茶化しにくるが、無論そのつもりだ。「仕事1、根回し。」と俺は高らかに宣言する。「就任演説とかそういうのの前に根回しかよ、ビータ君はカラシのおっちゃんに毒されすぎだな。あ、俺も用事あるんだよ!」とがりるんさんが発言。
「では、裏世界の秘密会合に行って参ります。」と俺は外部チャットツールより『マギラ3ちゃんを救う会』のチャンネルへ参加した。
*ビータさんが入室しました*
ビータ:おはようございます。
カラシニコブ:挨拶は不要だ、お前等はこのゲームをどう思っている?
エールート:私個人としては造形は3が好みですがシステムは2の方が好きですね。
アルカントス:私は2でエルフと蜜月の時、3でエルフと凄惨なバトル。その両立が好ましいですな。
アドミラル:2では長年バランスは取れていましたが、3は難しそうですな。
らりょーおー:3は指揮官の有無でゲームバランスがかなり偏る。ユーザーの統計的には魔王軍に社会人と年寄りが多く、学生若者は覇王軍で冒険者ロールをする傾向が強い。
ハッチマン:裁定者?とはいいませんがスポンサーの動きは悪くないですよ、人間観察には良い場所だそうです。
カラシニコブ:ハッチ、そういう闇が深すぎる発言は自重しろ。
*がりるんさんが入室しました*
がりるん:カラシのおっちゃーん!覇王軍にもキャバクラ作ってくれよ。あ、提督もいるんじゃん。
カラシニコブ:おい、お前どうやってここのアドレスとパス割った?
がりるん:そりゃー良い子にしてお星様にお願いをしておけばなんとかなるもんさ。
エールート:私、就職活動に差し支えるログは残したくないので帰っていいですか?
カラシニコブ:がりるん、要望は検討しておくから黙れ。
がりるん:んじゃヨロシクー、ローパーの出入りは勿論有りでおなしゃす。
アルカントス:ゲーム内でゲーム内通貨使用でのそういった店は風営法は通るんですかね。
カラシニコブ:現実のカネにならないなら警察や税務署の奴等は来ないよ。
*がりるんさんが退出しました*
エールート:話の腰を折られましたが、私としてはどちらでもいいのですがラスボス同士で何か意見は無いのですか?覇王様と魔王様。
ビータ:まず、俺は最年少かつ経験も浅いからアドミラルさんと戦って勝てるかというと、完全に種族特性と数の集中という基本戦術で挑むしか勝ち目はありません。
アドミラル:ビータさん率いる魔王軍と戦った場合、我々は海上及び沿岸部以外での勝ち目はありません。お互いの指揮能力は既に大体割れていますからね。
カラシニコブ:バランスは取れているのか?
ビータ:魔王軍は圧倒的に指揮官不足です、理由は魔王軍というモンスターマニアや悪役体質ばかり集まった結果です。二大勢力大戦というよりも、ロールプレイの方向性で戦力評価が変わるのではないという見方になります。
アルカントス:過去にそういうゲームはいくつもありましたね、カラシさん。
カラシニコブ:ああ、同じ種族の二大勢力制は長生きしても。ヒーローVSヴィランは何時の時代もヴィランが負ける。そうなればゲームオーバーだ。おてあげー。
ハッチマン:その為に覇王軍なんてヒーローっぽくない設定にしたらしいですが、もう少してこ入れが必要みたいですね。
ビータ:ハッチさんは開発とコネがあるんですか?
ハッチマン:いえ、開発よりもっと上ですよ。普通の暮らしをしたいなら知らない方が良い話です。
エールート:この回線切ってエルフの里に篭りたい。
カラシニコブ:現実にエルフの里は無いぞ。
エールート:エルフを求めて卒業旅行に西洋諸国をバックパッカーとして回ろうと思うのですが。
カラシニコブ:だからいねえつってんだろ。むしろいるとしたらアメリカだよ!
エールート:あれはむちむちしてるから駄目です。
アドミラル:ハハッ、ネットゲーム歴戦の将帥達がこんなフランクな人達で驚きましたよ。
ビータ:ワールドオートバランサーシステムって奴は実装出来そうにないんですかね?
アルカントス:戦況と戦死判定の統計を集計して弱い種族のステータスを底上げを常時監視とこっそりパッチを当ててバランスを取るAIっていうあれですか。
ハッチマン:バランサーAIは完成しているけど使われていないんだよ。
ビータ:なぜです?
ハッチマン:スポンサーが人の醜さを生で見たいからじゃないかな?そもそもMMORPGはお金になるコンテンツじゃないんだ。これは人間がゲームに感情移入をし過ぎて、格差が起きた時に是正しようとする願いから起こる現象の結果であり、俺TUEEE無双の人が増えすぎると弱い人やプレイ時間の少ない人からの妬みでユーザーが足を引き合いゲームから離れるからさ。
ビータ:では、PvEだけにすればいいんじゃないでしょうか?
カラシニコブ:そうなるとスリムフォンアプリでええやんって話になるんじゃよ。
らりょーおー:人間同士を色々なパターンで争わせる、それが目的なんでしょう。
エールート:帰っていいかな?
アドミラル:話が難しい方向に行ってますが。昔からこんな感じなのですか、貴方達。
カラシニコブ:いやー簡単にネットゲーム楽しめる時代に戻りたいわー。
エールート:何年前ですかそれ。
アルカントス:30年以上前じゃないですかな。
ビータ:としよりのはなしはうんざりだー(棒)今を楽しんでる子供達の身になってくださいよ。
エールート:そうだそうだー。
アドミラル:では、新魔王殿。早速これからの戦略をお聞かせ願いますか?
ビータ:ラスボスに攻略法を聞かれるとは思わなかったですよ。
アドミラル:私もラスボスがもう少しもやもやっとしたモノになるかと思っていたのですが、あの時急降下爆撃を仕掛けてきた勇敢なドラゴンが私のラスボスになるとは思いませんでしたよ。
カラシニコブ:双方間違いがある、ラスボスはお前達人生にはまだ訪れていない、それは現実で迫るものだ。
らりょーおー:カラシで中ボスだったのか、社会怖いからノーザンライツに就職しようかな…。
ハッチマン:大歓迎ですよ。共に世界の終わりと始まりの時を見ませんか?がキャッチコピーですが。
エールート:あーやしー。
ビータ:話が脱線しています、戦略なのですが。まずは領土の線引きをしませんか?ここが自分達のナワバリ、シマとか決まってないとこちらの戦力集中が出来ないんですよ。
アドミラル:魔王軍としてはその方が都合が良いでしょうが、現状こちらが集中攻撃をされた場合は首都の防衛すら危ういですからな。
ビータ:そりゃー勿論、次の目標はそっちの首都狙いですからね。
アドミラル:ですよねー。
カラシニコブ:うーん、んじゃボード上の戦争は魔王の優勢か、それじゃワシ等はアドミラルに加担する事にするわい。
エールート:エルフは保留とさせて頂きます、援軍要請を承諾して手薄になった里を魔王様に全力で襲われたらたまったものではありませんからね。
アルカントス:エールートの思考は本当にエルフそのものですね。オークは要塞から援軍を魔王軍へ送ります。ロールは遊撃と扇動、どちらでも構いません。
ビータ:ありがたいです、こちらとしては領土の線引きの決定とカラシさんの引きこみが不可能なのが分かれば問題ありません。後、こちらはD兵器を使用する用意が出来ました。
カラシニコブ:D兵器使っちゃうんだ、このゲーム終わったかもわからんね。
アドミラル:報復D兵器が制空権を取れていない現在ではこちらが高コスト運用になりますので、ゲームバランスを著しく損ないますが、早々とゲーム有終の美を放つ花火を使うと?
ビータ:こちらとてあんな物は使いたくない。では、D兵器の使用は相互禁止で条約を結びますかね?
アドミラル:仕方あるまい、アレはあまり世間受けも良くないからな。
らりょーおー:ふむ、カラシの裏切りを前もって封じるのも悪くない判断だな。
よし!言われた通りだが、カラシさんを半端に引きこんで裏切られる事も、こちらが用意出来ていないD兵器の使用もこれで禁じた。今、魔王としてめっちゃ働いてる気がする、なんか違う気もするけど。
ビータ:後はベータ1の終了まで数日ありますので、お互いの為に軍事演習を行いませんか?首都の攻防戦は先延ばしにしたいので。
アドミラル:いいのか?時間があればこちらは魔都を攻める準備が整ってしまうが。
ビータ:はい、世界征服は目指さない魔王ですので。日時は今日のコアタイムの覇都北西沿岸部、地楽園の北、連山とコビット庄の東にある丘ではいかがでしょうか?
アドミラル:ネレイドとマーマンの祖国奪還はしなくて良いのか?
ビータ:情報を聞く限りはこちらも統制が無いと攻略不能ですので、こちらは統制、そちらは時間と資材が欲しい。ウィンウィンって奴じゃないですか?
アドミラル:そのまま地楽園を奪ってしまうかもしれないぞ?
ビータ:無理でしょう、覇王軍は内陸だと弱すぎます。それに一番怖い勢力は奪還なんてする人じゃありません。
らりょーおー:カラシは確かにそういう事しないな。
カラシニコブ:リテークとかボランティアじゃん、ワシはある物を有効活用する主義で得ようとする主義ではないわい。
ビータ:覇王軍の砲兵キャラがカラシさんのギルドに集中した時点でアドミラルさん、そちらの内陸侵攻の難易度は格段に上がったんです。その人は薬にも毒にもなる人なんですよ。手遅れになる前に距離を置いた方がいいです。では、俺はゲームに戻ります、また。
アドミラル:忠告ありがたいが、少し遅かった様だ…。次は戦場で会おう。
ビータ&エールート&アルカントス&らりょーおー:ご愁傷様です。
カラシニコブ:ぐふふ。
*ビータさんが退出しました*
「疲れるなぁ、次は魔王軍HQその拡大及びギルド勧誘の活発化誘導か。外交から内政ターン突入、と。」と俺は呟くと。
「先輩、お疲れザマアっす。」とにこやかに笑うマミーが近寄ってきたのでファイアブレスを吹きかけてやった。
・設定 D兵器 竜心爆弾
竜炉を連結しエルチウム容器内で同時暴走爆縮させる事により起こる反作用で爆発させる戦術爆弾。
製造に必要なスキルと材料はシビアだが、ベータの時点でそれを揃えるのはまず不可能である。だが、出来る人は居た様子だ。
・雑談
こいつら談合しすぎだろ、と思われるが実際のMMORPGにおいて談合はどのゲームにも必ずある。知らないならばそれは不幸であり幸せであると思う。当事者にはもうなりたくない。
ギルドや勢力のリーダーになる様な活動的な人間が敵国へ大使館的な回線を設けないはずがない。
ちなみにその談合した勢力がどこかにみんな一緒で暮らし始めるとそのコンテンツは終了である。




