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ギルマスワークス!外伝.戦場の花を捕まえて  作者: 真宮蔵人
人外魔境に咲く花
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B032.人食い華の初仕事

『天魔広報です。魔王様率いる精鋭とスケルトン及びハーピー亜竜の連合軍はノースマンホームであるヘヴシンキの完全破壊に成功。しかし、占領には及ばず敵経済に大打撃を与えるに留まりました。続報です、魔王軍大手ギルド『DDD』がラットマン及び獣人のホームである『地楽園』上に要塞を作ることにより制圧を完了したという情報が入りました、これによりラットマン及び獣人は新規キャラメイクは不能種族になり、更には敵の首都攻撃への橋頭堡を確保した事になります。悲報ですが、ネレイド及びマーマンのホームは敵海洋ギルド『黄金のシロッコ』による幽霊船閉塞という作戦により失地、これによりネレイド及びマーマンは現在新規キャラメイクが不可能になりました。これに対して魔王軍首脳部は緊急会議を招集…。』


青と紫の中間色に包まれた静かな部屋、今は特別会員のみが入れる様に設定しているらしく、天井にぶら下がるファンタジーに不釣合いなミラーボールは動きと光を止めて、嬌声も艶やかな娘も無い静かな時間である。


「へぇ、魔王軍にはラジオがあるのか。」とカウンター席に座る緑髪の美しいエルフ女が琥珀色の液体の入ったグラスを傾けながらカウンター上の片隅にある四角い箱から流れ出るニュースに耳を文字通り傾けた。

そのエルフの隣に座る初老のオークは「覇王軍は寡頭制かつ秘密主義だからこういう情報は無いらしいですね、指揮官が優秀で分業出来ているなら独裁傾向の方がうまくいきますから。」と相槌を付く。

更にオークの隣に座るのは漆黒の体と触手と一つの眼とトゲだらけの口を持つアブホスという物体。

これも一応中の人がいる為に二人の話題に加わろうとする、無茶な発言ではあったが。

「なあエールート、俺はこの店の通常営業時間は出禁食らってるけどさ、エルフ主催のキャラバクラ作ってくれよ。これは間違いなく受けるぞ、俺の『輝く触手』と『ダークマター』を賭けてもいい。」とエールがなみなみと入った木製ジョッキを触手で器用に持ちながらその禍々しい口の中へ注ぎ込む。

「貴方のレアドロップアイテムなんていらないです。そもそも私達はエルフらしいエルフである事が第一です、それが崩れるならば覇王軍からも手を切りますよ。ましてやクラブなんて…。」とエールートはチラリと部屋の隅の座席に腰掛けるフードで身を隠す集団に視線を向ける、エルフギルドマスターであるエールートの護衛戦士達は各々の獲物に常に手を掛け、いつでもこのモンスタークラブを切り抜ける備えがある。

「じゃあ、エルフ居酒屋!」「駄目です。」と不毛な掛け合いが始まる瞬間に。


そこへ新たな入店者が加わる、それは大柄なハーピー男と大柄な古傷だらけマーマン男であった。

「ほー、これがヨグちゃんの『初』職場ですか。」とハーピーのハッチマンは少し驚きながら店内を見回す、「ぎょぎょ!クラブのママンになってしまったんですか姐さん。ちなみに私はマーマン!」と心に七つの傷を持つと自称しマッスルポージングをするマーマンの男Sevenchar。

彼等の入店を見てエルフの護衛達は更にピリピリとした殺気を放ち始めるが、

それを見たエールートは「フィートス、マイルズ、ヤーズ、諦めましょう、どうせだからゆっくりしていいんです。注文も好きな物を頼んでもいいんですよ。」と目を瞑りながらグラスの中で転がしていた琥珀色の液体を飲み干した。本作の飲食物も勿論フレーバーである。

「あ、ここの内装は俺が作ったよ。だって設計図は描けてもマリッドの姉御にそういうセンス無かったんだもん。」と暗黒触手はドヤ顔?で自分の仕事を誇る。

「マリッド、ああ、『いんぺりある苦労する』の怖いお姐さんか。へぇ、あの人が設計図ねえ。人は見かけに寄らないものだね。」とハッチマンはリュートを取り出しもの悲しげな曲を演奏し始める。それに合わせてSevencharがハミングで合わせる、これが結構うまい。



通常営業時間に溜まった使用済みグラスを無言で洗い磨きながら思う。

こいつらを見て思う、敵味方が争う振りをしていて、一部では敵も味方も無いこれが世界の縮図?

わっち、いや、私の現実ははっきり言ってしまえば箱入り娘であった。

世間の事なんて全然知らない、遊ぶお金は親がいくらでも出してくれた。学校には通っていたものの成績やら将来がどうだこうだ言われたことも無い、自分の家が資産家だと気づいたのは14歳の頃になってからだ。

その当時、私は悩んだ。私が生涯死ぬまで優雅に暮らす事は出来るらしいし、更なる資産や名声を作る為に良い所の家へ嫁いだり、しなくても良いと親に言われた。何せ血のつながりは分からないが優秀な兄や姉もいた。それに比べて自分の能力?なんだろう、学校の成績は悪くは無いがこれといって情熱的になれる物は無かった。

部活動、文芸はさっぱり分からなかった。運動系は少し面白かったが、チームワークが必要なものがあり、テニスやゴルフといった個人スポーツも私の体は良い結果を出せる程の性能は無い、私の一族種族特性が金儲けだったからだろう。

金の力で入った良いらしい大学に通う、表向きの友人はいっぱい出来たし男共は物凄い勢いで擦り寄ってくるが、はっきり言って面倒臭い。

私は独り広い自室で一度ぽつりと本音を呟いた「獣の様に生きたい。」。それは自由なのか野蛮なのか分からない道ではあったけど、あの頃の環境に嫌気が差していたのは確かだ。

いっそ家を出て独立して、見知らぬ土地で見知らぬ生活をして、誰にも知られる事無く死んでいく。


じゃあ、どうしよう。とあれこれ合理的かつ金銭面は最低限確保するというワガママな考えで新生活プランを練っている時に、『おめでとうございます、貴方は当社ゲームのタイアップハードウェア抽選に当選しました。』という怪しいメールを受け取った。

世間で流行っているVRMMORPGに手出ししてみようかしら、という考えが一時期あって、それに応募した記憶はあったけれど、いざ当選と言われても困った。

しかし、後日きっちりHMDとハンドコンソールとフットペダルも付属されてきたのだから本当なのだろう。

お金持ちにタダでハードウェアを送り個人情報や口座やカード情報を抜いて悪用するつもりかしら?とは少し思った物の「まぁ、それでもいいか。秘書がなんとかするわ。」と思いながら私は書きかけの新生活プラン机にしまい、HMDをかぶりハンドコンソールへ指を通した。


そのゲーム、マギラ2開始当初はその世界の輝きに驚いた、そして何より驚いたのが人々の顔であった。

私は資産家の末娘、現実で会う人々は皆が作った笑顔で、テレビは教育に良くないと見る事が許されず、インターネットも規制の入った回線のみであった。

しかし、表情を反映するゲームと宣伝されたマギライゼーション2は知らない事だらけの世界であった、顔、価値観、そして何より本当の戦いがそこにはあった。本当の戦いとは、本気の勝負と不真面目な応戦とセコイ絡め手とサディスティックな追撃とマゾヒスティック逃避行が入り混じる戦いだ。

スポーツは現実やEスポーツに限らず、頂点を目指す戦いなので、あれは試合という物である。

しかし、目の前には戦争があった。何より素晴らしいのは人を倒しても自分も倒されても誰も懐がたいして痛まない所だ。

実際に戦争が出来るのは日本においては既に仮想世界のみで、現実で戦地に向かった人は現地人に囚われて国家に身代金を要求されるだけだという事は十数年前から散々言われていた事だし、自衛隊も別に戦闘はしない。だが、その人々の戦いへの情熱は仮想世界へ向かっていたのがよく分かった。「この国は元より戦争ばかりしていた国だよ。」と後に出会った悪魔はいつか私に囁いた。


その悪魔は私がマギラ2でPvPにハマり始めた頃に現れた、天帝☆黄龍。ふざけた名前であるが決闘を何度も挑んでも勝てなかった、まず動きが人間じゃない。つまり人間じゃないモノだと私は認識する事にした。そして、ギルドへの勧誘をしに来たらしいこいつからの誘い文句の決め手はたった一言であった。

「獣の様に生きたいんでしょ?」とこいつは何処から私の心を盗んだのだろうか。

それからしばらく彼等と共にマギラ2という仮想世界を敵に回して戦った、栄光の日々?いや、あれは狂気の日々であった、何せ基本制服は半裸に変な兜だったからねえ。

そんな日々と本物の悪魔も今では見当たらない、「悪魔は新しい魂を求め旅立った、そういうものだよ。」と仲間のハッチマンはマギラ3の序盤で口にした。



「だーかーらー!なんでローパーがこんな差別されなきゃいかんのよ!」

「そりゃあ、ローパーなんて種族選ぶからですよ。」と初老のオーク、アルカントスがアブホスのがりるんをなだめているが、オークプレイヤーも似た様な性癖扱いされているので通じるモノがあるのだろう。

「がりるん、せめてカラシのおっちゃんに頼むか、オークギルドでクラブでも開いて貰ったら?」とハッチマンが妙案を出す。「開国してくださいよー。」とSevencharが意味不明な発言をしているが、こいつは元々そういう奴だ。

「オーク女のキャバクラってどうなんでしょう?」とアルカントスが右に座るエルフへ尋ねると、「私なら間違いなく行きませんね。」と焼き鳥を頬張りながら答える。エルフって肉食べたら駄目な設定でありんしたが…。あ、でも某ゲームでは肉しか食べないエルフもいたらしいでありんすな。いいのかな。


しかし、よく考えると、わちの家の回線はどうやってマギラ2と3に繋げているのだろう。まぁ、単純に悪魔との契約による力だと思っておきんすか。

「おおおオークキャバクラあああ!…微妙。」「失礼ですね、オークにも美人はいますよ。」

はぁ、と溜め息を付いたがりるんは「カラシのおっちゃんに頼むか、所でマギラ3ちゃんを救う会の事は知ってるか?」と言った瞬間にアルカントスの腕とエールートの耳がピクリと固まった。

「あ、それトップシークレット。」「駄目ですよ、エルフの護衛さん巻き込んじゃいます。」とエルフとオークの頭領は口元に人差し指をさしがりるんの口封じを試みる。

「ちっ、じゃあ乗り込むしかねえか。」とがりるんは怖い発言をするが、

「普通に笛吹きドワーフのカラシニコブとは連絡は取れないんかや?」とわっちは尋ねると。

「あの人の回線と情報交換量すげえよ、だって会話する為に面会予約アポイントメントあるくらいだもん。」とゲームらしからぬ返事をした。

「カラシのレベルって今いくつくらいでしたか。」「確かまだ16くらいでしょうね。」

「ハハッ、自分よりまずは組織の強化を狙うのはアルカントスさんやエールートさんも十八番おはこでしょう。」とギルドマスター達と元サブマスは不在のドワーフをネタに酒を飲む。


「私はエルフがエルフらしければいい、覇王も魔王もどうでもいい。」「私もオークがオークの矜持を持てていれば特に無いですな。」「じゃあ俺もローパーである事に。」「がりるん、よくまだハラスメントでBAN(アカウント削除)されてないね。」と秘密クラブは話の花を咲かせるが、

「所で、次の大戦はどこだと思う?エルフの里?それともお互いの首都?」とがりるんが発した一言にエールートが「どんな手を使ってでも里は守りますよ。」と鋭く応えた。

「怖いなあ、となると次は覇都と魔都が戦地だね。」とがりるんが言うと。

「魔王覇王、内陸と沿岸部に勢力が分かれつつある現状、立地的に都が襲われるのは仕方ないですね。」とエルフは矛先を逸らしにかかり。

「大河ジャイアントブラッドを遡る戦艦を量産する国力の確保が覇王軍には必要で、魔王軍はそもそも統制が必要になる。いやはや、生々しい戦況になりましたな。」とオークの頭領も他人事である。


「エルフもオークも大手の部類なのに責任感ねえなあ、ところで魔王軍2位のギルド『DDD』はどうだ?そろそろ天魔からの政権交代あるでしょ?」とがりるんが魔王の交代を示唆するが、「DDDのギルマスって確か、俺は666の兵隊を従えて魔王に君臨するぜ!って言ってた人ですよね?」「ええ、ギルドの最大メンバーは500人までしか入らないのにそう言った人です。」「なんだ、変わってもまた馬鹿魔王かー。」「現魔王は貴方の身内でしょう。」「そうは言うがなあ。」



「お客さん方、そろそろ夜の営業が始まる時間でありんす。本来は居てはいけない貴方達はお引取り下さい。ウチの女子衆も戻ってきんす。」と、わちはこの集会を掃きだしにかかる。

このメンバーで堂々と残って良いのはアルカントスとハッチとスカーでありんすね。

エルフの集団と触手は店を出て行くが、がりるんが護衛のエルフ娘の足に触手を伸ばそうとしてぶった切られてるのが少し見えた。

その後、魔王軍の三人はもう少しここでゆっくりしていく予定みたいでありんすが、わちは数年の付き合いであるハッチとスカーに一つ尋ねてみる。

「ハッチ、スカー、わっちは今まではただの殺戮ニートだったけど。今は仕事してる気がしんす、どうりゃ?」と。

「私のやってた仕事とは違うけど、自分で仕事だと思えば仕事なんじゃないかな?」

「アラクネのタキシード姿いいよね。」とこいつらも外世界の人ではありんせんしたな。


・設定 大河ジャイアントブラッド

ワールドマップ南東にある大森林グリーンジャイアントは倒れた人の形をした大森林であるが、その左手首にあたる部分には川が流れている、その川が魔都ハイロンのすぐ南を流れる川と合流した後には北の大湖へ注がれる。この大河ジャイアントブラッドに対して覇都東が川に接しているので魔都ハイロンとは川により繋がっている、河川を遡上そじょう出来る戦艦を建造可能ならばハイロンは覇王軍からの攻撃を受ける。

川の合流地点南辺りにエルフの里エルブンケルンがあるので、エルフの里はかなり危うい立地である。


・余談

ハッチマンとア・ヨグが組んでいない理由はヨグが重量過多で運べなかった為。

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