第三話 二人分の身分
「メイファは荷を第二倉へ。ソウガンは受領の記録を詰所へ」
入構してすぐ、二人は引き離された。
(——来た)
想定していた。それでも、相棒の姿が視界から消えると、背中が薄くなった気がした。
第二倉では、帳面を抱えた受領係が待っていた。
五十がらみの、目の細い男。指が墨で黒い。——数を数えて生きてきた指だ。
「荷箱十二、油甕四、薬箱……三? 目録は二だ」
「事故の詫びで予備を足した。門で使者が説明済み」
「ふん。……封印の欠けは」
「谷へ落ちたとき割れた。積み直しは私がやった」
「経由は」
「石門関の先で一泊の予定が、落石で一日ずれた」
受領係の筆が、止まった。
「——当直の引継ぎは、誰から受けた」
(……知らない)
メイファが出発前、誰と当直を替わったのか。そんなもの、遺品のどこにも書いていない。
シエンは、苛立った顔を作った。
「そういう帳面仕事は、そっちの仕事でしょう。私は荷を運ぶだけ」
「お前は毎回そう言うが、毎回答えてただろうが」
(——毎回、答えてた)
知らない過去が、足元で口を開ける。
シエンは肩の包帯へ、わざと手をやった。
「……悪いけど、頭がまだ働かない。谷へ落ちたとき、頭も打った。覚えてることと覚えてないことがある」
「事故、事故って、便利な事故だな」
「便利なもんですか」
声に、本物の怒りを混ぜる。
「二人、死にかけたのよ」
——嘘では、ない。本物のメイファとソウガンは、実際に死んだのだから。
受領係は、しばらくシエンを見ていた。
「……医者には見せろ。数は預かる」
筆が動き出す。
だが男は帳面を閉じる前に、隣の若い兵へ低く言った。
「当直簿を持ってこい。外部到着の記録もだ。——照合する」
(……始まった)
シエンは倉を出るとき、縄を二重掛けにした荷箱を、入口近くへ積み直した。
『当直を訊かれた』の合図。
しばらくして、詰所の方から、荷板を長く一度打つ音が聞こえた。
——『照合が始まっている』。
ユエンにも、同じ網がかかっている。
(答えを、揃える。全部の矛盾を、事故へ集める。……それしか、ない)
シエンは水桶を借りる振りをして、詰所の脇を通った。
開いた窓の奥で、ソウガンの声がする。
「——だから、当直の乱れは事故のせいだと言っている。荷が谷へ落ちた。監督は頭を打った。予定はすべて一日ずれた。疑うなら、荷車の壊れた車輪を見に行けばいい。縄と予備の軸で縛った応急の細工が、そのまま残っている」
(……車輪)
本当に、残っている。二人で直した、本物の細工が。
嘘を守るのは、いつも本物の欠片だ。
詰所の記録係が、渋々と筆を置く音がした。
シエンは水桶を抱えたまま、荷箱を二度打った。
——問題ない。今のところは。
だが、すれ違う兵たちの視線が、少しずつ長くなっている。
疑いは消えていない。ただ、結論を保留されているだけ。
(長居は、できない)




