4話
本日1話目。
食事の中身を書きたかったのに、"こいつ"のせいで書けなかった。
楽しんでいただければ幸いです。
「やぁ、お嬢ちゃん。若いのに1人かい?」
イレイシアが座って食事を待っていると、食堂にいた1人の老人が話しかけてきた。
「こんにちは。ここ1ヶ月は1人旅ですね。そういうあなたは?」
「長いこと、気楽な1人旅さ。薬師のロレド、聞いたことないかい?」
「・・・すみません、ないです。」
「そりゃそうだ。今考えたんだから。」
老人は、そう言って呵呵と笑う。ややあって不審げなイレイシアの視線に気づき、笑いを収めると、改めて名乗る。
「からかってすまんね。儂は薬師のデロル。そう知れた名前でもないがね。」
「デロル、さん。・・・もしかして、逆から発音してロレドですか?」
「おっ、分かるのかい。すごいねぇ。多分初めてだよ、それが分かったのは。ま、ロレドと名乗ってみたのもお嬢ちゃんが初めてだがね。」
そういって、また笑い出すロレド改めデロル。イレイシアは、胡乱な目を再び向け、闊達なご老人だ、という当たり障りのない感想を思い浮かべながら口を開く。
「私のことは、お嬢ちゃんではなく、シアとでも呼んでください。」
「そうかそうか、おじょ、おっといけない。シアちゃんか。覚えたぞ、うん。」
そんな話をしていると、食事ができる。どうやらデロルは、イレイシアの少し前に注文していたようで、2人分が席に運ばれた。
「おっ、儂らは連れに見えるのか。どれ、1人で食べる食事ほどつまらんものもあるまい。一緒にどうかね。」
イレイシアが構わないと返し、奇妙な老人との食事が始まった。
「なるほどぉ。お嬢ちゃ、失礼失礼。シアちゃんは魔術士として冒険者をしているのか。いやぁ、1人では大変な場面も多かろう。どうだい、ここは1つ儂の薬でも買って、戦力を増やさないかい?」
「・・・一応、聞きましょうか。」
「うむ。儂の薬はな、飲んでいるとなんと、体が丈夫になる。風邪を引かなくなる。風邪を引いてもすぐ治る。すごかろう?」
「そうですね。」
段々と疲れて、反応が淡白になってきたイレイシアを全く気にせず、デロルは話し続ける。今やイレイシアは、早く食事を終えて寝ることだけを考えていた。
「シアちゃん。疲れたなら、無理に反応せんでもいいぞ。儂は自慢じゃぁないが、ある村の案山子に1日中話しかけて、暇を慰めたこともある。」
「その言い振りで、自慢にならないことってあるんですね。」
「うむ。世の中は広いからのう。」
「多分そういうことじゃない・・・。まあいいです。私は食べ終わったので、部屋に戻ります。」
「お、そうかそうか。こんな老体に付き合ってくれてありがたやありがたや。また機会があれば会おう。」
「では、失礼します。」
やっと解放されたとばかりに足早に食卓を離れるイレイシア。丁度夕食時に差し掛かり、食堂には人が集まり始めていた。そういう意味でも、席を立つにはいい頃合いだったのだろう。イレイシアは、食事で疲れたことに違和感を抱きながら、部屋へと戻った。
部屋に入ったイレイシアは、扉を再び施錠する。そして、部屋に備え付けの家書を手に取る。ある頁を開き、魔術を使う。身を清める、という行為に含まれる内容を全て代替できるその魔術により、イレイシアはさっぱりとした。
「・・・ふぅ。なんか、疲れちゃったな。あのご老人のせいだ。たぶん。」
そう呟いたイレイシアは、1つ首を振り布団にくるまる。少し早い気もしたが、明日のためイレイシアは眠りについた。
夜半、イレイシアは急に覚醒し、飛び起きる。呼吸は荒く、激しい動悸がしていた。
「夢・・・。また、あの時の・・・。」
イレイシアは、悪夢を見ていた。かつての自分に起こった、否自分が起こしたことの想起。そう遠くない頻度で繰り返し見る夢だ。イレイシアは、嫌な気分を必死で無視しながら、呼吸を整えて目を強く瞑る。そして、どれくらいの時間が経ったのか、再び眠りにつくことができた。
翌朝。イレイシアが目を覚ますと、想定よりも少し早い時間だった。今度は悪夢を見ずに眠ることができ、少し安堵しながらイレイシアは身を起こす。ぐっと伸びをすると、身支度を整え始めた。
身支度を終え、軽く携行食を食べたイレイシアは、宿の出入り口へ向かう。1階まで下り、食堂を通って外へ行こうとすると、一番扉に近い位置に1人座っている者がいた。
「あ、おはようございます。デロルさん。」
「ん?あぁ、おはよう、お嬢ちゃん。」
それだけの言葉を交わし、側を通り過ぎようとすると、呼び止められる。
「お嬢ちゃん。」
そして、少しの逡巡の後に口を開く。
「正しいことをするのは、難しい。正しさの基準は人により違うからだ。自分の決定を貫くのは、難しい。周りと関わって生きているからだ。自分の力に振り回されないのは、難しい。多くの場合、自分が思っているより強大だからだ。」
まるで、何かを知っているかのような言葉に、イレイシアは瞠目する。
「っ!あなた、は。」
「いってらっしゃい、お嬢ちゃん。大きなことがきっと、君を待っている。」
イレイシアは何かを言いかけ、それを飲み込んで身を翻す。最後に見えたデロルの表情は、悲しいようで、寂しいようで。
そして、喜んでいるようだった。
昨夜から自分に一挙に迫ってきた様々な想いが、心の中でないまぜになりながら、イレイシアは組合へ向かう。
「おはようございます。」
「あ、おはようございます。」
既に〈蒼の爪牙〉は揃っており、ガルトと何やら話していた。イレイシアの挨拶にトーラが返すと、他の3人も挨拶をする。
「早速ですが、皆さんは準備はできていますか?」
「はい、問題ないです。」
「えぇ、問題ないわ。」
「ん。」
〈蒼の爪牙〉の返事を聞き、イレイシアはガルトに視線を向ける。
「いつ始めていただいても、構いません。既に、必要な人間には知らせてありますからな。」
ガルトの応えに頷くと、イレイシアは改めて一行を見回し、口を開く。
「では、始めましょう。」
「王の目たる我が眼。王の言たる我が口。王の手足たる我が体躯。卿の名誉をもって、尊き我が王に代わり、命と成す。」
そして、口から流れ出すの呪文のごとき文句。
「目標は、当該魔洞内にて発生している魔的現象の消滅。当時案に際し、無制限の戦力解放を以下4名に認めます。イレイシア・マグス・スザロアリア、トーラ・フイ、ライカ・ヨドス、レノイ。監督者は魔導卿イレイシア・マグス・スザロアリア。」
呆気にとられる〈蒼の爪牙〉。イレイシアは、少し笑って言う。
「すみません、驚かせてしまって。私が十分に動くため、必要な手順なのです。」
そして、笑みをおさめてイレイシアは言う。
「では、行きましょうか。」
一行は組合を出て、魔洞の付近まで歩を進めた。道中の会話は少なく、打ち合わせなどもなく歩いてきた。トーラは、そのことに多少の不安を抱えていたが、微妙な空気を破って問いかけるほどではなかった。各々が、それぞれ別の何かを考えながら歩いていると、ふとレノイが足を止める。
「レノイ、どうした?」
「気配。」
「気配・・・?俺は、そんなに感じないけど。イレイシアさん!」
トーラが呼びかけると、前を歩いていたイレイシアが振り返る。
「おそらくは、境界を超えて所謂神威でも溢れているのだと思います。私の境界は、周囲に影響を与える程度のものを通さないようにしてあるので、空気をつたいある程度漏れ出ているのでしょう。」
イレイシアの口ぶりから、然程問題はないと悟り、トーラとレノイが力を抜く。一行は再び魔洞へ向けて歩み始めた。
お読みいただきありがとうございます。
爺さんの正体もさることながら、イレイシアの正体も気になるところ。どうやら偉い人みたい?
それはそうと、蒼の爪牙の子達にも名字がちゃんとあるのです。
よろしければ、ブックマーク、評価等々お願いします。m(_ _)m




