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69 買い物日和

7月から火曜と金曜の週2投稿へと変更されます。

詳しくは活動報告書をご確認下さい

 翌朝、朝食を済ませた俺は賑わい始めた王都の広場へと繰り出した。

 目指す場所は、街で一番大きな本屋だ。色々と気になる本はあるが、魔法書コーナーへと足を踏み入れた。

 整然と並ぶ古めかしい背表紙たちが独特の圧迫感を持って迎えてくれる。


(身分証決済もできたし、昨日は自力で松明に火を灯すこともできた。今の俺なら、きっと魔法そのものを使うことだってできるはずだ……)


 そう自分に言い聞かせ、俺は棚から『ファイヤーボール』と『ブースト』の2冊を手に取った。

 2冊の本が立ち読みされないように掛けられた束縛魔法が禍々しく放たれており、まるで俺まで魔法に掛けられてしまうんじゃないかという錯覚を覚える。

 レジへと向かう途中、ふと目に留まった『王都の歩き方』という本を見かけた。初めてリースと一緒にここへ来た時目に入った本だ。


(これのお陰でこの世界の王都も丸い形をしているっていうことを知ることが出来たんだよな)

 

 俺は王都の歩き方も一緒に購入しようと決めた。ファイヤーボールとブーストの魔法書は1冊につき5万ゼル、ガイド本は1000ゼルだ。俺はレジで支払いを済ませ、店を後にした。


 魔法書をアイテムバッグへ収納し、暫く歩いたあとベンチに腰を下ろし、『王都の歩き方』をぼんやりと眺める。

 リースへの贈り物を選ぶのは慣れてきたけれど、ふと、いつも支えてくれている他の三人のことが頭をよぎった。


(リースばかりじゃ、なんだか不公平だよな……)


 俺は「お土産・雑貨」の特集ページを指でなぞりながら、彼女たちに似合いそうなものを探す。

 ミリアなら、あの新調した家具に合う落ち着いた色のランプ。いつも身だしなみに気を配っているセレナさんには、使い心地の良さそうなクッションがいいだろう。ルカには……小物をよく無くしそうだから小物入れにしようかな?


「よし、これにしよう。……いや、あんまり豪華すぎると逆に気を遣わせるか? これくらいなら、普通だよな」


 方針が決まれば行動は早い。俺は先日、ミリアの家具を購入した大型家具屋へと向かった。



 ◇ ◇ ◇


 店に入るとすぐ、ほのかな木材の香りと共に、以前接客してくれた店主の女性が声をかけてきた。


「おや、また来てくれたのかい? ありがとう。今日は何を探しているのかな?」


 大きなフサフサの尻尾と、頭の上にある狐の耳が特徴的な彼女は、相変わらず人当たりの良い笑みを浮かべている。


「仲間たちに色々プレゼントをしようと思ってな。落ち着いた色味のルームランプで、何かオススメはあるか?」

「ルームランプならこっちだよ。案内するね」


 彼女の揺れる尻尾に導かれ、俺は色とりどりの明かりが灯るコーナーへと足を踏み入れた。ガラスや金属など様々な装飾が施されたランプが、薄暗い空間を幻想的に照らし出している。


「白色だと少し眩しすぎる気がするんだ。オレンジ色の光で、少し可愛い感じの物はあるかな?」

「なるほどね。ちなみにそのランプは、どんな風に使う予定だい? ただのインテリアか、部屋全体を明るくしたいのか、それとも一部分だけを照らしたいのか」


 そう問われ、俺はミリアの新調した部屋の広さを頭に思い描いた。


「イメージとしてはランタンのように、ある程度の範囲を照らせるものがいいんだ。寝る前の落ち着いた時間とか読書の時間に使ってほしくて」

「それなら……」


 店主は顎に手を当てて少し歩き、足を止めた。そして自信ありげに商品を指し示す。


「こういうのはどうだろう。きっと気に入ると思うよ」


 そこにあったのは、葉っぱの形を模した高さ30センチほどのルームランプだった。一見するとただのガラスの置物のようにも見える。これが紅葉の葉ならオレンジ色に光るのも分かるが、どう見ても普通の葉っぱだ。緑色に光りそうな雰囲気がひしひしと伝わってきた。


「このランプはちょっと特殊でね……よっと」


 彼女がそっと魔力を通すと、ランプ全体が緑色に輝き始めた。俺が驚いて見つめていると、光は急に炎のような形へと変化し、色もゆっくりと温かなオレンジ色へと移り変わっていく。


「こんなふうに、魔力を通すと『葉っぱ、炎、水、雷』の模様に変化して、好きな色を出すことができるのさ。細かく調整すれば、情熱的な真っ赤にすることも、夕日のようなオレンジ色にすることも自由自在で、雷なのに緑色にする……ということもできるんだ。もちろん、光量も操れる優れモノだよ」


 主張しすぎず、それでいて地味すぎない。この温かい雰囲気はきっとミリアの部屋に似合うはずだ。

 俺は迷うことなく、そのランプを彼女への贈り物に決めた。


「これはいいな。よし、このランプをもらおう。……ちなみに、小物入れみたいなものは同じ店内にあったりするか?」

「もちろんさ。小物入れはこの隣だね。ここで扱ってる小物入れはちょっと特殊で、全部が全部ってわけではないんだけど、アイテムバッグと同じように小物を沢山入れることができるんだよ」


 店主に説明を受けながら、共に小物入れのコーナーへと向かう。

 その一帯は木材の香りが一層強くなっており、室内にいるはずなのに、まるで深い森林に足を踏み入れたかのような不思議な魅力に溢れていた。


「例えばこれとかがすごく人気なんだ。簡単な金庫のような造りになっていて、魔力登録した人以外が使うと、ただの小物入れになるんだ。試しに……」


 店主がオススメしてくれたのは、リスに似た小動物が小さな木箱を両手で抱えている可愛らしい置物だった。彼女はその箱の蓋を持ち上げ、中に小さなキーホルダーを入れてパタリと閉じる。


「あけてごらん?」


 言われるがままに俺が小物入れを開けると、そこには何も入っていない空っぽの空間が広がっていた。


「すごいな、これ! それじゃあ、これももらうよ」

「はーい、まいどね! 他に必要なものはあるかい?」


(ランプと小物入れが決まったから、あとはセレナさんへのクッションだな)


 セレナさんは、可愛いものが好きなんだろうか? その辺り、日頃からもっとよく聞いておくべきだった……と少し後悔しつつ、俺は口を開く。


「あと一つ、クッションも探してるんだ。見せてもらってもいいかな?」

「クッションなら2階だね。こっちにおいで」


 案内された2階は、ソファやベッド、クッションといった布製品がずらりと並べられたフロアだった。

 俺は店主の背中を追いかけ、クッションコーナーへと向かう。


「折角だ。よかったらこのクッションに飛び込んでみておくれ。きっとその効果に驚くよ」


 促されるまま、俺は恐る恐る1mほどの大きさがあるクッションに、ゆっくりと腰を下ろした。

――その瞬間、俺は動けなくなってしまった。


 正確には「動けるが、動きたくなくなった」という表現が正しい。日本にも『人をダメにするクッション』というものがあったが、まさにそれと同じように、クッションが全身を柔らかく包み込んで離してくれないのだ。


「これもすごいな……一度使うと、立ち上がるのに時間が掛かりそうなほど気持ちがいい」

「だろう? 実はこれ、中に癒しの魔石が入っているから、体力回復の効果もついているんだよ」

「なるほど……。だからこんなに心地良くて動けなくなるのか。本当に感動したよ……」


 それから俺はなんとか気力を振り絞ってクッションから立ち上がり、レジに向かって支払いを済ませた。

 よし、今から帰ってみんなを驚かせるとするかな。



 ◇ ◇ ◇


 家具屋での買い物を終えた俺は、そのまま真っ直ぐ家へと帰宅した。

 リビングの扉を開けると、そこには四人が揃ってくつろいでいた。俺が抱えている複数の荷物を見て、全員が目を丸くする。


「お帰りなさい、ユズルさん。……そのお荷物はどうされたんですか?」


 リースが小首を傾げて尋ねてくる。俺は少し照れくささを誤魔化すように、買ってきた品物をテーブルの上に並べた。


「実はさ……。いつもリースにばかりプレゼントを渡していたから、今日はみんなにも日頃の感謝を込めてプレゼントを買ってきたんだ」

「えっ!? 私たちに、ですか!?」


 セレナさんが驚いた声を上げる中、俺はそれぞれの顔を見ながら、ミリア、セレナさん、ルカの順番で包みを渡していった。

 自分の手元にやってきた包みを大事そうに抱え込み、ルカが尻尾を揺らして聞いてくる。


「これ、今開けてもいい?」

「あぁ。気に入るかはわからないけどな」


 俺が頷くと、三人は嬉しそうに包装を解き始めた。

 ミリアの箱からは葉っぱの形をしたランプ、セレナさんの袋からは大きなクッション、ルカの箱からは動物の置物のような小物入れが出てくる。それぞれが不思議そうな顔でまじまじと品物を見つめているので、俺は一つずつその機能について説明をした。


「ミリアにはこれ。……ちょっと、魔力を通してみて」


 差し出した葉っぱのランプにミリアが恐る恐る指を触れる。瞬間、緑色の光が揺らめき、温かなオレンジ色へと形を変えた。


「わぁ……! 綺麗……。これ、夕焼けみたいですね」


 瞳を輝かせるミリアに、俺は「夜の読書にいいと思って」と付け加えた。

 次に、大きなクッションを床に置くと、案の定ルカが真っ先にダイブした。


「ふにゃあああ!? 何これ、動けないよぉ……!」

「ルカさん、はしたないですよ。……あ、でも、私も少しだけ……。はわわ……」


 止めに入ったセレナさんまでがクッションの魔力に飲み込まれていく。そのとろけたような表情を見て、俺の買い物は大成功だったと確信した。


「あとはルカの小物入れだな。ルカ、一度その小物入れに魔力を通しながらなにか小物を入れてみてくれないか?」

「小物小物……。これでいいや、ギリギリ入りそう」


 ルカはどこから取り出したのか、ペンを取り出し中に入れた。


「よし、ルカ。ちょっと俺に小物入れを貸してくれ」


 耳をピンと立てながら恐る恐るルカは俺に小物入れをわたしてくれる。

 俺が小物入れを開くと、そこには何も入っていないただの空きスペースが登場した。


「あれ、さっき入れたペンがなくなってる!?」


 目を丸くして驚くルカの頭を優しく撫でながら、どうしてこうなったのかを説明する。


「これは一種の金庫のようにもなっててな、中に何もなくて驚いただろ? 最初に魔力登録した人だけが使える異次元のアイテムボックスにもなってるようなんだ。見た目も可愛いし、何より便利そうだなっておもってな」


 それぞれの機能と、選んだ理由を伝え終わった直後だった。


「ユズル君、ありがとうっ!」


 ルカが満面の笑みを浮かべ、思い切り俺の胸に飛び込んできた。

 飛び込んできたルカの尻尾がはち切れんばかりにブンブンと振り回されており、これでもか! と言わんばかりに尻尾が体に当たり、心地良い痛みを感じる。


「ちょっとルカさん、抜け駆けはずるいよ! ユズルさん、本当にありがとう!」


 ミリアも勢いよく俺に飛びかかってくる。二人の勢いにたたらを踏んでいると、さらに声が続いた。


「あ、あの……私も、ありがとうございますっ!」


 顔を真っ赤に照らしながら、セレナさんも二人に続くようにギュッと抱きついてきた。

 突然の三人の重みと柔らかさに戸惑っていると、離れた場所から悲鳴のような声が上がった。


「みなさんだけずるいです! わたしも!!」


 リースが目を潤ませながら駆け寄り、そのまま俺たちの上に勢いよくダイブしてくる。


「わっ、ちょっとみんなどいて!! 重い重い!!」


 四人の少女たちに完全に埋もれながら俺が声を上げると、リビングはさらに楽しげな笑い声に包まれた。

読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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