68.5 ガールズトーク2
本閑話は軽微ではありますが下ネタを含みます。
本編とは一切関係のないお話のため、下ネタが苦手な方は閲覧を控えて頂ければとおもいます。
静寂に包まれた夜のユズル邸。その一室で、今宵も『神聖なる儀式』が執り行われようとしていた。
並べられたのは、前回を凌ぐほど大量のエールと果実水。そして香ばしい木の実や、甘い誘惑を放つクッキーの数々。
深夜に糖分を摂取するという背徳感、そして翌朝にお腹の肉が増えているかもしれないという恐怖――。この会議は、そんな「暴力的な現実」を乗り越える勇気ある乙女のみに参加が許されるのだ。
集まった者たちの目には、獲物を待つ獣のようにギラギラとした光が宿っていた。
「さぁあああ!! やってまいりました第2回!! ユズルさん情報交換回!!!! お前ら、パジャマの準備はいいかぁあぁあああ!!」
前回と変わらずお嬢様としての品をどこかへ放り投げ、リースが拳を突き上げて叫ぶ。
「「「「「うぉおおお!!!! (すーっ!!!)」」」」」
「ユズルさんのことは、大好きかぁぁああ!!!」
「「「「「大好きだぁああ!!! (大好きっす!!!)」」」」」
「では問題です! ユズルさんが普段使っている乗り物の名前は何!?」
「「「「トラックだぁああああ!! (トラックっす!!!)」」」」」
「よろしい! 全員に参加資格ありと認めます!! それでは、第2回ユズルさん情報交換会の開催を祝して――乾杯!!」
「「「「「乾杯!!!」」」」」
コツンと小気味よい音が響き、一同が思い思いに喉を潤し始めたところでリースがふと奇妙な違和感に襲われた。
(……あれ? なんか人数が多くありませんか?)
改めて数えてみる。リース、ミリア、セレナ、ルカ。ここまではいつもの面々だ。だがその隣に、優雅に微笑む紫のネグリジェを着用したフランと、全身真っ黒なパジャマで寛ぐノアの姿がある。
合計六人。明らかに前回より増えている。
「ちょっ、ちょっと待ってください! お母様とノアさん、いつからそこに!? というか、なんでこの会議のことを知っているんですか!?」
リースが詰め寄ると、フランとノアは楽しげにニコニコと小さく手を振りながら微笑み返した。ミリアたちも「そういえば」といった様子で、クッキーをポリポリと齧りながら二人を見つめる。
「んもー、リースちゃんつれないわねぇ。こんな楽しそうな会議、誘ってくれてもいいじゃない」
「そうっすよー。あ、私たちがどこで聞きつけたか、説明したほうがいいっすか?」
先ほどまでの「お前ら」呼ばわりを聞かれていたことに気づき、リースは顔を真っ赤にして俯いた。そんな彼女の頭を、フランが真綿を扱うかのような手つきで優しく撫でる。
「ふふっ、昔から恥ずかしいとすぐ俯いちゃうんだから。そこがあなたの可愛い所だけどね」
「も、もういいです! ……それでお母様たち、何かユズルさんの情報はあるんですか? どんな些細なことでも構いませんから!」
フランは「んー」と人差し指を顎に当てて考え、ふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、ミリアちゃんのお母様が倒れて大変だった時期……あったじゃない? ユズルさん、彼女をカルディアまで送り届けた翌日にね、わざわざエリクサーのお礼を直接言いに来てくれたのよ。リースちゃんは知っているでしょうけど、他のみんなには初耳じゃないかしら?」
ミリアがハッとして、自身の記憶を照らし合わせるように呟いた。
「あの時、ユズルさんが『王都に用事がある』って言っていたのは、そのことだったんですね……。私、無理をさせてしまったかな」
少し落ち込んでしまったミリアに、ルカとセレナがすかさず声をかける。
「ユズル君は根が優しいからね。むしろ『迷惑だったかな』なんて顔をされたら、自分の行動が間違いだったって落ち込んじゃうタイプだよ。ここは『ごめん』じゃなくて『ありがとう』で正解さ」
「そうです! ミリアさんが気後れしないように、あえて黙っていた彼の優しさに素直に甘えておきましょう!」
「みんな……。そうだよね、ありがとう、ユズルさん!」
励まされたミリアが顔を上げると、その頬は少しだけ熱を帯びたように赤くなっていた。
「ちなみにノアちゃん情報っすけど、直接見たわけじゃないから信用度は控えめにしてほしいっすが……ユズル君、ああ見えて結構筋肉ムキムキっすね。あまり戦うタイプじゃないと思ってたっすけど、モズ遺跡までの長距離を歩いても全然平気な顔をしてたっす。隠れマッチョっすよ、あれは」
身体的な特徴という新情報に、場にはどよめきが走った。そんな中、様子をうかがっていたルカがとんでもない爆弾を投下する。
「ノア君、それ正解だよ。僕とミリア君とリース君は彼の裸を見たことがあるけど、凄くいい筋肉をしてたよ! ……まあ、ユズル君の『ユズルくん』が視界に入った時は、思わず爆笑しちゃったけどね」
――静寂。
あまりの直球すぎる発言に、場の空気が一気に凍りついた。
「え、リースちゃん……あなたも見たの……?」
フランからの予想外の問いかけに、リースは一瞬でフリーズした。その後、顔を真っ赤に染め、消え入りそうな声で白状する。
「……はい」
「あ、あれは事故だったんです! 不運が重なっただけの不可抗力ですから、ユズルさんを責めないであげてください!」
ミリアが必死に腕を振り、ストーンバレーに行く途中での悲劇を説明する。ひとしきり話を聞き終えた後、興味津々といった様子でノアが身を乗り出した。
「へぇ……。ちなみに、どれくらいのサイズだったっすか?」
「ダメダメダメ!!!! ノアさん、それ以上は駄目です! 色んなところから怒られるのでダメー!!!」
セレナが両手で大きなバツ印を作り、必死の形相で制止に回る。そのあまりに切実なガードに、それまで静観していたルカが、ついに堪えきれずお腹を抱えて爆笑し始めた。
「あははは! セレナ君、顔が怖いよ! そんなに必死にならなくてもいいのに!」
「いいえ、駄目なものは駄目なんです! 私も凄く、本当にもう凄まじく気になりますし、お三方が心の底から羨ましいと思ってますけど、これ以上は本当にだめなんです!!」
「ちなみにサイズは……」
「ミリアさんまで!! 駄目ですってば!!」
危うい方向に傾きかけた空気が、セレナの奮闘によって一気に笑いへと変わる。ふざけすぎたお詫びをするかのように、ミリアが話題を変えた。
「じゃぁ私も言っちゃおうかな? リース様、そこにユズルさんが贈ってくれたワンちゃんのぬいぐるみがあると思うんですが、それを買いに行ったときのお話です。あのぬいぐるみのお店で有名なお店に私とユズルさんでリース様のお土産選びに入ったときなんですが、なんとドアを開けた時に大きなフェンリルのぬいぐるみが迎えてくれたんです。ユズルさんってば、そのぬいぐるみを一瞬本物と勘違いして腰を抜かしちゃって。あれも面白かったなぁ」
「あのぬいぐるみに腰を抜かしたのですか!? 意外なところもあるのですね……!」
こうしてユズルの小さな秘密は次々と共有され、本人のいない場所で、恥ずかしい思い出がどんどん暴かれていく。
夜はまだ始まったばかり。次に生贄に捧げられるのは、一体彼のどのエピソードなのだろうか――。
読了いただきありがとうございます。
本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。
詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。
投稿時間については全編一括18時半となります




