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65 おかわり!!

7月から火曜と金曜の週2投稿へと変更されます。

詳しくは活動報告書をご確認下さい

 食事を楽しんでいると、リコさんが不意に喋りだす。

  

「そういえばカルディアに調べ物って何かあったの? 小さな村だから調べ物が出来るようなものあるかしら……」

「あ、そうそう! ……って、そうだ。ユズルさん、あの事お母さんに言っても大丈夫?」


 あの事……勿論カルディアがなぜ襲われてないかということだろう。

 くるみの気持ちを尊重して大っぴらに広げるわけにもいかないだろうが、誰にも広めないことを約束してもらえれば大丈夫かな。リコさんもここまで聞いて気にならないわけもないだろうし、そもそもカルディアで過ごしてるリコさんのことだ。カルディアのことを思って広めないでいてくれるだろう。

 俺は箸を置いて喋りだす。


「そうだな……。リコさん。以前ここに僕が泊まった時にこの村は何故か襲われたことがないって言ってたと思うんですけど、その理由が偶然分かったんです」


 俺の言葉を引き継ぐように、ミリアがさっき日記で知った真実を語り始めた。かつてこの村にいたくるみという少女が、自らの命を捧げてこの村を包み込む結界を張ったことや、今もその力がカルディアを魔物から守り続けていること――。


 話し終えると、リコさんは言葉を失った様子で手元のお米をじっと見つめていた。


「そんな……そんなことがあったのね……。私たちが当たり前だと思っていた平和は、その子が守ってくれていたものだったなんて……」

「リコさん。くるみさんのことやカルディアのことを考えて、なるべくこの話は広めないようにしたいんです。内緒にしてもらっても――」

「ええ、分かっているわ。私は口が堅いから、気にしないでもちょうだい、ユズルさん」


 リコさんは俺の懸念を払拭するように、力強く頷いてくれた。だが、ミリアはまだ心配なようで、さらに身を乗り出して釘を刺す。


「お母さん。これ、誰にも話したらだめだからね? 『ここだけの秘密だけど~』とか、『絶対に他の人に言っちゃだめだからね』って前置きして話すのも、絶対にだめだからね!!」

「もー、そこまで言うなら今まで黙ってたミリアの子供の頃のすっごい秘密、ユズルさんにバラしちゃうわよ? ユズルさん、ミリアが子供の頃にね……」

「だめだめだめだめ!!! お母さんが口堅いの分かったから言わないで!! 心当たりがありすぎてどれのことか分からないけど、とにかく絶対にだめ!!」


 顔を真っ赤にして猛反論するミリア。そんな親子のやり取りを遮るように、それまで口を開かなかったルカが静かに味噌汁の器を机にコトリと置いた。

 ルカはスッと背筋を伸ばし、凄まじい剣幕で二人の顔を交互に見つめる。


「リコ君、ミリア君……」


 そのあまりに真剣な雰囲気に、リコさんもハッとしたように表情を正した。


「あ、ごめんなさい。ちょっと騒ぎすぎちゃったわね、くるみさんの話の後なのに……」


 リコさんが謝罪を口にしようとした、その直後だった。


「お味噌汁、おかわり!!」


 響き渡ったのは、決意に満ちた元気な声。

……一瞬、時が止まったかのように空気が固まる。


 全員の視線が、器を差し出したまま尻尾を揺らしているルカへと集中する。数秒の沈黙の後、堪えきれなくなった笑い声が居間に弾けた。


「ふふ、あははは! ルカさん本当に素敵ね。ええ、おかわりね。ちょっと待っててちょうだい」


 リコさんは笑いながら立ち上がり、空の器を受け取って釜の方へと向かった。ミリアも目尻に浮かんだ涙を拭いながら、晴れやかな笑顔を見せる。


「はー……。なんかルカさんを見てると、色々悩んでるのが可笑しくなっちゃう」

「そうだな。でも、そこがルカの良いところだ」


 俺はそう言って、隣に座るルカの頭を優しく撫でた。

 真面目な話を全く聞いていなかった当の本人は、撫でられて気持ち良さそうに目を細めつつも、きょとんとした顔でおかわりが届くのを今か今かと待ち続けていた。



 ◇ ◇ ◇


 お腹も心もすっかり満たされたところで、俺たちは名残惜しくも腰を上げた。


「ごちそうさまでした、リコさん。本当に美味しかったです」

「ボクも! こんなに美味しいもの、生まれて初めて食べたよ。ありがとう!」


 満足げに何度も頷く俺と、幸せそうに尻尾を揺らすルカを見て、リコさんは母親のような優しい微笑みを浮かべた。


「ふふ、喜んでもらえて本当に良かったわ。ユズルさんもルカさんも遠慮なんていらないから、いつでも遊びに来てちょうだいね。ミリア、二人をしっかり送り届けるのよ」

「分かってるって! それじゃあ、行ってくるね!」


 俺たちはリコさんに何度も手を振り、温かな灯りの灯るミリアの実家を後にした。


 カルディアの村を抜け、街道から少し外れた森の入り口付近まで歩を進める。周囲に人の気配がないことを確認し、俺は足を止めた。


「このあたりなら大丈夫そうだな。……それじゃあ、出そうか」


 俺が意識を集中させ、虚空に向けて手をかざし、トラックを呼び出す。


「よっしゃ、王都に帰ろうか!」


 みんなでトラックに乗り込み、俺はエンジンを吹かした。



 暫くトラックを走らせていると、ご飯を食べてから眠たくなったのか、ルカが「すー、すー」と寝息を立てながらしずかに寝ている。

 こう、なんというか運転してる身からすると寝てくれるのって凄く嬉しいんだよな。中には運転してるんだから起きてくれよ! という派閥の人もいるが俺は違う。俺の運転を信用してくれてる、寝ていられるほど安心できる丁寧な運転をしていると解釈するから本当に嬉しくなる。

 

 気になっていたことを思い出したのでミリアに聞いてみることにした。


「そういえば王都って花屋さんはあるか? くるみさんへ献花しにいきたいんだけど、お花屋さんあるなら明日モズ遺跡に行って来ようかなって思うんだ」

「お花屋さんあるよ? この間ユズルさんと一緒にリース様へのぬいぐるみを買いに行ったと思うんですけど、あの奥が花屋さんありますね! 日本では亡くなった方にお花を渡す習慣みたいなのがあったんですか?」

「そうだな、お花にはそれぞれ花言葉というものがあって、有名なので言えば薔薇というお花かな。俺も詳しくないからあまり覚えてないけど、薔薇は相手に渡す本数によって花言葉が変わったりするんだ。だけど基本的には愛したものへ捧げる意味合いの花言葉が使われていたな」

「薔薇……棘紅薔薇というのがこちらには確かあったと思うので多分それかもしれないですね! 茎のところがトゲトゲしてて、赤い花びらがとてもきれいなお花なんです」


 なるほど、もしかすると献花用の花もあるかもしれないな。


「ただ、そういうのに詳しくない俺でも3つだけ意味を知ってるものがある。24本は『1日中貴方のことを考えています』、108本は『私と結婚してください』、999本までいくと『何回生まれ変わっても、貴方のことを愛し続けます』という意味だ。とはいえ、本数によって意味が変わる花も珍しいんだけどな」

「素敵なお話ですね……。そこまで薔薇を集めるのは大変だと思いますが、やっぱりそれだけ思いを乗せているということなんですね。そこまで行くなら1000本とかもありそうですね!」

「多分あるだろうな。あ、そうだ。サンドイッチ食べても大丈夫か? 折角リースとセレナさんが作ってくれたから、ミリアの家のご飯は少し少なめで食べたんだ」

「大丈夫ですよ! 私もちょっともらっちゃお」


 アイテムバッグから弁当箱を取り出し、サンドイッチの弁当を開けるといろんな野菜がふんだんに使われたサンドイッチが姿を表した。

 ふたを開けた瞬間、トラックのキャビン内に爽やかな香りが広がる。そこには、リースとセレナさんの二人が腕を振るった、彩り豊かなサンドイッチが整然と並んでいた。


「わあ、美味しそう! これ、あのお二人が作ってくれたんですね」

「ああ、具だくさんで贅沢だよな。ほら、ミリアも食べてくれ」


 俺は片手でハンドルを握りつつ、もう片方の手でパンを1切れ取り出し、ミリアへと差し出した。


「いただきまーす! ……んんっ! このシャキシャキしたお野菜とソースの相性もバッチリですね。いくらでも食べられちゃいそう!」


 ミリアが幸せそうに頬張っていると、不意に「スンスン」と鼻を鳴らす音が聞こえてきた。

 見れば、寝ていたはずのルカの鼻先がまるで生き物のようにヒクヒクと動いている。


「……ん、んん……? なんだか、とってもいい匂いがするよ……」


 ルカが目をこすりながら、ゆっくりと身体を起こした。まだ眠気が残っているのか、その二つの耳は少し倒れたままだが、鼻だけは正確にサンドイッチの方向を捉えている。


「あ、ルカ。起こしちゃったか? サンドイッチ、食べるか?」

「サンドイッチ……? さっきあんなに食べたはずなのに、不思議だね。この匂いを嗅いだらお腹の中に新しい空き地ができたみたいなんだ」


 ルカは目を輝かせて身を乗り出すと、俺が差し出した1切れをひょいと受け取った。

 大きな口を開けてガブリと食いつくと、その一本の尻尾が、俺の腕に当たるほど激しく左右に振り回される。


「美味しい! このパン、すっごくふわふわだね! ユズル君、もう1個もらってもいいかな!?」

「さっきあんなにおかわりしたのに、まだ食べるのかよ。……まぁ、いいけどな。ほら」

「えへへ、ありがとう! やっぱり美味しいものは別腹だね!」


 食欲の化身のようなルカの食べっぷりに、俺とミリアは思わず顔を見合わせて笑ってしまった。


「二人とも、こぼさないように気をつけて食べろよ?」

「はーい!」

「分かってるよー!」


 賑やかな声がトラックの中に響き渡る。

 そんな賑やかな声をBGMにしながら、王都へ向かって俺はただひたすらトラックを運転した。


ちなみにお話に出ていた1000本の薔薇の意味は「一生・ずっと・永遠に貴方のことを愛し続けます」という意味です


読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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