63 カルディアの真実
王都からの長い道のりを経て、俺たちは無事にカルディアの村へと到着した。
村の入り口付近の死角でトラックを虚空へと収納し、気持ちの良い風を浴びながらのどかな風景の中を歩き出す。今回はミリアの案内のもと、迷うことなく村長宅へと向かった。
「お邪魔しまーす! 村長さん、いるー?」
ミリアが元気よく声をかけて扉を開けると、奥から村長のバルドさんが顔を出した。
「おぉ、ミリアちゃんじゃないか久しぃねえ。それに、おや、ユズルさんじゃないか。元気にしとるかい?」
「ご無沙汰しています、バルドさん。今日は急に押し掛けてしまってすみません」
「ははは、構わんよ。……おや、そちらの耳の生えたお嬢さんは初めて見る顔じゃな」
バルドさんがルカを見て目を細めると、ルカはスッと前に出て愛想の良い笑みを浮かべた。
「初めまして、村長さん。ボクはルカだよ。ユズル君の護衛なんだ」
「おお、初めましてルカさん。村長のバルドじゃ。何もない村じゃがゆっくりしていってくだされ」
バルドさんは初対面のルカに対してもにこにこしながら挨拶を返してくれた 。
軽い自己紹介を終え、バルドさんに居間へと案内された俺たちはさっそくここにやって来た経緯を話し始めた。
北の森にあるモズ遺跡を訪れたこと。そこの最奥にある扉に、俺にしか読めない文字が書かれていたこと。そして、そのメッセージに『詳細はカルディアにて本を残す。村長宅を訪れよ』と記されていたこと。
一通り説明を終えると、バルドさんは腕を組んで深く唸った。
「それで、村長さん。何か思い当たるものとかってあるかな?」
ミリアが身を乗り出して尋ねると、バルドさんはポンと手を打ってゆっくりと頷いた。
「ふーむ……。そうじゃな。前村長に『絶対になくすな、そして何があっても次の村長に引き継げ』と言い伝えられてきた、誰にも読めない本があるんじゃが……もしかするとそれのことかもしれんな。ちょっと待っててくだされ」
そう言うとバルドさんは立ち上がり、奥の部屋へと消えていった。
しばらくして戻ってきた彼の手には酷く年季の入った古い本が握られていた。
「ほれ、これじゃよ」
バルドさんがテーブルの上にそっと置いたその本を、俺は食い入るように見つめた。
色褪せた表紙。しかし、そこにはかすれることなく、はっきりと見覚えのある日本語の文字が記されていた。
『くるみの日記』
「……これです! 村長、ちょっと拝見しても良いですか?」
思わず身を乗り出して懇願する俺を見て、バルドさんは優しく微笑んで頷いた。
「ああ。丁寧に扱ってくれるなら、読んでもらっても構わないよ。しかしユズルさんはこの文字が読めるのかい?」
「ええ。実はこれ、俺の遠い故郷の文字なんですよ。どうやらこの手記を書いた『くるみ』という人は俺と同郷みたいですね」
「ほう、ユズルさんの故郷の……。なるほど、それなら村の誰も読めんわけじゃな」
あえて日本から来たことをぼかして説明する。
手元には日本語で書かれた本。持てば今すぐにでもボロボロに崩れてしまいそうだ。
「では失礼して……」
俺はくるみの日記を開いた。
――
バスに乗ってたらいきなりバスが崖から転落してもう死ぬ――! と焦っていた所、急に女神を名乗る人が現れました。
普段の行いの良さからせいじょに転生? というものをさせてもらえるらしい。せいじょ? てんせい? よくわからない単語が並んで怖い……。
気が付くと草原に出て、目の前に小さな村があります。かるでぃあ? というらしい。記憶を失った子と思われたのか、それともこの村の人の優しさなのか。とても良くしてくれました。
寝床を与えてくれて、食事も出してくれた。私も力になれるようにお手伝いしなきゃね。
――
数日経ってから気がついたことがあります。みんなの喋ってる内容よく聞くと聞いたことがない言語なのに意味が理解できる。不思議な感覚です。これが「せいじょ」という能力なのでしょうか……
今日の夜、頭に突然「ステータスオープンと念じなさい」という言葉が聞こえてきました。この声は女神様……?
念じると変な画面が出てきました。レベルにスキル。わ、私の名前も書いてます!?
色々触ってみると、「ヒール」「キュア」「エリアヒール」「エリアキュア」というスキル? を持っているみたいですが……。説明を読んでみると、ヒールは一人に対して傷の手当、キュアは一人に対して病気の手当、エリア系は複数人同時にヒールやキュアが行えるみたい。
もーー!!!! ステータスとかレベルとかキュアとかヒールとか!! 異国の言葉か知りませんがもっとわかり易い言葉にしてほしかったです!
ですが説明を読む限り、もしかしてみんなの役に立てるかもしれません! 明日から練習しましょう!
――
聖女としてカルディアでお世話し、一人の人間としてお世話をされつつ数年が経ちました。
スキルとかレベルとかステータスもなんとなく理解しましたし、今では立派な治療院に努めています。
この村の人はみんな優しくて、笑顔が絶えなくて、今とても幸せです。
ですが困ったことに和食というものがありません。魚と穀物、パンと野菜を食べることはあるのですが、元日本人としてはやはりお味噌汁とお米が恋しくなりますね。
しかし大豆と塩はあるのですが、肝心の米麹がありません。そもそも米麹を作ろうにもお米が有りません……
何か手段は無いかと考え、久しぶりにスキルボードを開いたらレベルが30に上がって、いろんなスキルが習得できるようになってました。聖女のお仕事だけでもレベルって上がるものなのですね!
スキルボードを見ていると「主食配給」というスキルが有りました。こちらのスキルを取得して、主食配給を発動すると籾殻のついたお米がお茶碗1杯分出てきました。白米ででてくるんじゃないの!?
……! ひらめきました! 籾殻がついてるということは植えれば育ちます! これをカルディアの主食として育てていきましょう!
精米もたしか分解スキル持ってる人がいたはずなのでその方にお願いしたら食べられるかもしれません! そうするとカルディアでも和食が作れるようになって、白ご飯と味噌汁が……! これは楽しみです!!
――
さらに数年後。この幸せがいつまでも続くと良いなと願い、いつものように治療院でお仕事をしていたところ、物見櫓に設置されてる鐘の音が響き渡りました。
外から「魔物だ!!」という声と「逃げろ!!」という声が響き渡り、みんなが思い思いに散開し、私も身を守るために物陰へと隠れました。
家が倒壊する激しい音が響き渡り、一瞬にしてカルディアの平和がなくなってしまいました……。ただ、不幸中の幸いだったのが、食料を探し求めて村に襲いかかってきたのではなく、恐らく「どこかの目的地に行くための通路にカルディアがあった」という状況みたいです。
激しい音が数分ほど鳴り響きましたがすぐに魔物の気配が無くなりました。
恐る恐るあたりを見渡すと、元気に育っていた野菜や稲が倒され、数々の家が倒壊した悲惨なカルディアでした……。
怪我をした住民を見つけては治療を行い、みんなの怪我を治して行きます。子供は泣き、大人は絶望する。
今こそ私がカルディアのために何か出来ることを探さねばいけませんね。まずはみんなの治療とカルディアの復興です!
――
半年後、ぼろぼろになったカルディアはほとんど元の姿に戻り、生活が元に戻ってきました。
覚悟を決めるしかありません。私はスキルボードを開き、気がついてはいたけど怖くて取得していなかった2個のスキルを習得しました。
「ディメンションロック」
『説明:指定した扉を開く為には、術者の決めた合言葉を必要とする。それ以外では絶対に開かないようになり、その扉が使われている部屋全体が強固な部屋へと変貌するので術者以外は入れなくなるようになる』
「永久範囲結界」
『説明:指定した村や街を一箇所だけ指定し、魔物が入ってこれない結界を作成する。ただし、膨大な魔術のため術者は命を失う。結界作成時の魔法陣から術者が離れると結界が消えてしまい、また、結界内で「術者のスキルによって生み出された物質」および「それを元に繁殖・加工された物」は結界の外に持ち出すことが出来ない』
このスキルをもってどこか遠い所へ……誰にも見つからず、ひっそりとスキルを使える場所を見つけるために。
私が結界を貼れば……命を犠牲にすることでこの私の大好きなカルディアは魔物に襲われることは有りません。
私も死ぬのは怖いよ。でも、みんなが辛い思いするのはもっと嫌だ!!
みんなに心配掛けないように、遠い街へ聖女として夢を追いかけに行く……そのように嘘を言ってカルディアを離れることにしましょう。何も言わずに出ていくと心配させてしまいますから。勿論、治療院は元々居た先生に引き継ぎもしましたし完璧ですね。
みんながまた会えるよね、いつでも良いから戻ってきてねと言ってくれました。ごめんね、その約束、守れそうにないや……。
私は遠くへ行き、この大好きなカルディアを守るために命を落とします。きっとカルディアのみんなはこのことを知らずに生涯を終えるでしょう。「なんでこの村は魔物に襲われないんだろう?」をふんわりとした疑問を持つだけで終わるでしょう。
くるみちゃん戻ってこなかったねって悲しんでくれるかな? それともすぐに忘れられちゃうかな?
時代が時代であれば「くるみって誰?」って言う人も出てくると思います。でもそれでいいのです。右も左もわからない私の命を救ってくれたみんなへの。命を救ってくれたカルディア村への私が出来る精一杯のお礼ですから。
この日記も読める人は恐らく出ないと思います。ですが、もし。もし読める方が居たときのために書き置きはしておきたいです。
なので、村長さんにはお願いしてこの日記を後世まで残しておいてほしいと頼んでおきましょう。私がカルディアに居たよという、唯一の証でもありますから。
この本を見ている貴方へ。久しぶりの日本語をみて驚いたでしょう。私も貴方がこの本を見つけてくれるとは思いませんでした。
さきほど書いた通り、魔法陣から私が離れてしまうとカルディアの結界がなくなってしまいます。だから他の人には絶対にこのディメンションロックの合言葉は『カルディアが本当の意味で無くなった時』だけにしてほしいのです。私と貴方だけの約束よ?
扉の前で「オープン・セサミ」を日本語に訳したものを言うと扉が開くようになってるわ。それが私の決めた、日本人だからこそ決定した呪文。
ちょっと遠回しな言い方になっちゃったけど、これならこちらの世界の人が私の本や書き置きを見て日本語を解読したとしても、日本人の貴方だけしかわからないからね。この本を見つけた貴方がカルディアのことを大切に思ってくれている……そう願っているわ。
……あ、そうそう。間違えてドアを開けちゃったら、もう一度同じ言葉を言うと閉じることが出来るわ。ふとした拍子に言っちゃったりしたらちゃんと閉じておいてね。
もし、貴方がディメンションロックを掛けてるであろう場所のことを知らずにこの本の存在を見つけたのであれば、どうかそのまま知らないでいてほしい。ただ、願わくば貴方の居た日本は一体私の居た時代と比べるとどんな違いがあったのか、どれだけ発展しているのか。そういったことをちょっと聞いてみたかったな。
1935年にこちらの世界へ来た中沢くるみより
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そっと、俺はくるみの日記を閉じた。
読了いただきありがとうございます。
本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。
詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。
投稿時間については全編一括18時半となります




