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56 指名依頼完遂

 賑やかな外食を終えて屋敷に帰り着き、それぞれが自室へと戻った後。

 俺は一人ベッドの上に胡座をかいてスキルボードを呼び出していた。


「さてと、ヒヒイロカネゴーレムなんていうバケモノを倒したんだ。どれくらい成長してるかな……」


 ステータス画面の隅を確認して、俺は思わず「おっ」と声を漏らした。

 ストーンバレーへ出発する前は4だった俺のレベルが一気に9へと跳ね上がっていたのだ。あのゴーレムがどれだけ桁外れの経験値を持っていたかがよく分かる。


「ってことは、スキルポイントが5ポイント溜まってるな」


 今回も何か便利なものがないかとツリー状になったスキル群に目を走らせていた、その時だった。


「……ん?」


 スキルボードの一番隅。普段なら何も表示されていない空白のスペースに神々しいほどの光を放つ金色の文字が浮かび上がっているのに気がついた。


「なんだ、これ……? 今までこんなスキル、無かったぞ」


 俺は吸い寄せられるように、その光る文字をタップして詳細を開いた。


――――

【スキル名】

『天界の扉』


【詳細】

 レベル5に到達で解放。『天界の扉』と念じながらトラックの荷台の扉を開くことによって、天界へと繋がる道を開くことができる。天界の扉を開く時に限り、強制的に荷台に関わる他のスキルは使えなくなる


【取得条件】

・必要スキルポイント:10Pt

・※注意※ このスキルを取得すると、今後他のすべてのスキルを取得するために必要なポイントが【+1Pt】される。

――――


「……は?」


 そのぶっ飛んだ内容と重すぎる条件に、俺は目を丸くした。

 トラックの荷台が天界に繋がる? 神様がいるような場所に俺のトラックで乗り込めるってことか? それとも俺だけが天界に行くとかか?

 それに必要ポイント10というのも異常だ。今の俺のレベルが9で、所持ポイントが5。道のりは果てしなく遠い。おまけに、これを取ったら今後のスキル取得に常に+1Ptのペナルティが課せられる。普通に考えれば、絶対に手を出してはいけない地雷スキルだ。


 だが――。


(……なんだろう、これ。何故か俺はこれを取らなきゃいけない気がする)


 胸の奥底で、何かが強く訴えかけていた。

 まるでこのスキルを取得すること自体が俺がこの異世界に呼ばれた理由の一つであるかのように。脳裏に頭をぶつけた女神の顔がちらりとよぎる。


「……上等だ。やってやろうじゃねえか」


 俺はそう呟くと、現在溜まっている5ポイントには一切手をつけずそのままスキルボードを閉じた。

 当分の間新しい便利スキルの取得はお預けだ。この重すぎるペナルティと10ポイントの壁を越えて、俺のトラックで天界への扉を開いてやる。


「待ってろよ、女神様……」


 俺は新たな、そして途方もなく大きな目標を胸に刻み、静かにベッドへと潜り込んだ。

 心地よい疲労感とともに深い眠りがすぐに俺を包み込んでいった。



 ◇ ◇ ◇


 翌朝。

 セレナさんとリースが作ってくれた美味しい朝食を平らげ、食後の果実水を飲みながら居間で一息ついていた頃、突如玄関に設置された魔導具のチャイムが鳴り響いた。


「はーい、今出ます!」


 セレナさんがパタパタと小走りで玄関に向かい、ガチャリと扉を開ける。すると、そこにはすでに身支度を整えたミリアが立っていた。


「おはようございますセレナさん! ユズルさん、起きてますか?」

「おう、起きてるぞ。おはようミリア」


 俺が居間から顔を出すと、ミリアは元気よく手を振った。


「おはようございます! 昨日はゆっくり休めましたか? 早速なんですけど、無事に帰ってきたことですしディッツさんのところに結果報告に行きませんか?」

「そうだな。依頼されてた魔石もトラックに入ってるし、早めに報告しておこう」


 善は急げだ。俺はすぐに上着を羽織り、同じく準備を終えていたリースとルカを連れて俺の離れの家からアルベルト家の本邸へと向かう。

 本邸に到着すると、出迎えてくれたメイドのレイシアさんが「旦那様でしたら執務室にいらっしゃいますよ」と、淀みない足取りで俺たちを案内してくれた。

 コンコンコン、とレイシアさんが控えめにノックをして扉を開ける。


「失礼いたします。旦那様、ユズル様たちがストーンバレーからお戻りになりました」

「おお! 入ってくれ!」


 机に向かって羽ペンを走らせていたディッツさんがバッと顔を上げて立ち上がった。


「ユズル君、リース! それにミリア君にルカ君も! 無事に帰ってきてくれて本当に良かった!」

「ただいま戻りました、お父様。ご心配をおかけしました」

「いやいや、君たちの顔を見られて安心したよ」


 ディッツさんはホッとしたように目尻を下げて笑う。どうやら、いつ帰ってきてもすぐに出迎えられるように商会の人たちに無理を言って、ここ数日は本邸の執務室で仕事をしていたとのこと。


「ディッツさん、ご心配おかけしました。依頼されていた魔石の回収、無事に終わりました!」

「おお、それは素晴らしい! 道中、何かトラブルはなかったかね?」


 ディッツさんに促され、俺たちは応接用のふかふかのソファに腰を下ろした。


 ストーンバレーの坑道で、未知の強力なゴーレムが居座り採掘がストップしていたこと。俺たちでそのゴーレムを討伐し、坑道の安全を確保したこと。そして、その報酬も兼ねてヒヒイロカネをいくつか譲ってもらったこと。

 俺はそれらの事実を、順を追って淡々と説明していった。


 ストーンバレーでの一連の出来事をかいつまんで説明し終えると、ディッツさんは深く、長く息を吐き出した。


「……無茶はするなと言ったはずだが。未知のゴーレムを前に君たちが怪我一つなく無事に帰還できたのは奇跡に近い」

「すみません、ディッツさん。でもあの状況だと放置して帰るわけにもいかなくて……」

「わかっているよ。君はそういう男だ。……だが全員無事で本当に良かった」


 ディッツさんは厳格な商会長の顔から、安堵した一人の父親の顔へと戻り優しく微笑んでくれた。


「それでディッツさん。依頼されていた魔石なんですが、木箱2つ分まるまるトラックに入ってます。どこに置きましょうか?」

「ああ、それなら庭に置いておいてくれるか。後で商会の者に倉庫へ運ばせよう」

「わかりました。じゃあ帰る時に庭に出しときますね」


 俺が頷くと、それまで黙って話を聞いていたリースが口を開いた。


「お父様、少しよろしいでしょうか。実はストーンバレーの市場を見て回った際に気がついたのですが……あちらの市場はお肉ばかりで新鮮なお野菜や果物が極端に少なかったのです」

「ほう」


 ディッツさんが、商人の目をして身を乗り出す。


「立地の問題もあるとは思うのですが、王都とのあまりの違いに驚いてしまって……」

「よく気がついたね、リース。立地の問題もあるが、知っての通りあの街は岩山に囲まれている関係で農地となる土壌がなく作物がほとんど育たないのだよ。おまけに他の街からも離れた場所にあるからな。どうしても流通が少なくなって、野菜とか足が早い食料はあまり出回らないんだ。保存食に近い肉が多いのがその証拠だね」

「やはり、そうだったのですね……」


 ディッツさんからの明確な答えに、リースは納得したように深く頷く。

 するとディッツさんはコホンと1つ咳払いをし、ひどく真面目な顔を作った。


「ああ。……だが、そんな過酷な旅の最中でもただ観光するのではなく、しっかりと言いつけを守って市場を観察して勉強をすることを忘れていなかったのは本当に偉いぞ、リース」


 ディッツさんはウンウンと深く頷きながら、娘をベタ褒めし始めた。

……本人は商会長として厳格な顔を崩さずに隠しているつもりなのだろうが、声のトーンが完全にデレデレに甘くなっているし、目尻も下がりっぱなしだ。本当にわかりやすい。

 フランさんもリースにベタベタだし、愛されてるんだなぁ


(親バカっぷりが思いっきり顔に出てるぞ、会長……)


 俺は心の中でそっとツッコミを入れつつ、娘の成長を喜ぶディッツさんの姿を、ミリアやルカと共に生温かい目で見守る。


 

「……あ、そうだ。すっかり忘れてました」


 ディッツさんの親バカっぷりに心の中でツッコミを入れていた俺は、ふと思い出したように虚空へ手を伸ばし、アイテムバッグを開いた。

 そのままゴソゴソと中を探り、綺麗に包装された箱を1つ取り出す。


「ディッツさん、これストーンバレーで買ってきたお土産です。魔石まんじゅうっていうんですけど、よかったら食べてください」

「おお、わざわざお土産まで買ってきてくれたのか! ありがとう、ユズル君」


 ディッツさんが嬉しそうに箱を受け取ると、隣にいたルカがピンと耳を立てて身を乗り出した。


「これね、ボクたちも屋台で試食させてもらったんだけど外はサクッとしてて中はしっとり甘くてすっごく美味しかったんだよ!」

「ほう、ルカ君のお墨付きとなれば間違いないな。後で仕事が一段落したら、フランと一緒にいただくとするよ」

「あ、でも全員分買ってきてるんで一箱そのまま全部食べちゃって大丈夫ですからね!」


 ディッツさんはホクホク顔で箱を机の端に置いた。

 無事に報告とお土産の引き渡しを終えた俺たちは「それじゃあ俺たちはこれで」「失礼いたします、お父様」とそれぞれ挨拶をして執務室を後にした。


 そのまま約束通り魔石の入った木箱を置くために本邸の中庭へと向かう。

 すると、綺麗に手入れされた花壇の前で水やりをしているレイシアの姿があった。


「あ、レイシアさん」

「おや。ユズル様、リースお嬢様。旦那様へのご報告は終わりましたか?」


 俺の声に気付いたレイシアさんがペコリと綺麗な一礼をして振り返る。

 俺はアイテムバッグから魔石まんじゅうの箱を5つ取り出し、リースに渡す。


 俺から箱を受け取ったリースが、レイシアさんの前に進み出る。


「レイシア、お仕事お疲れ様です。実はストーンバレーでお屋敷のみんなにもお土産を買ってきたんです。これがレイシアの分で……あとの4箱は、お母様と、料理長、それから2人のコックさんに、1箱ずつ配ってもらえないかしら? お父様には先程渡したので大丈夫よ」

「まぁ……私や厨房の者たちにまでですか」


 レイシアさんは少し驚いたように目を瞬かせた後、温かい微笑みを浮かべた。


「かしこまりました。リースお嬢様、ユズル様、ミリア様、ルカ様の温かいお心遣い、確かに屋敷の者たちにお伝えいたします。私も後ほどありがたく頂戴いたしますね」


 レイシアさんは5つの箱を崩れることなく器用に抱え上げると、もう一度深く一礼しそのまま淀みない足取りで館の中へと戻っていった。


「よし、今のうちに魔石も出しちゃおう」


 トラックを庭に召喚し、俺は依頼品の魔石2箱を中庭に置いた。

読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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