表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
63/91

55 土産話2

 「――とまあ、そんなわけでストーンバレーに着いたんだけどあそこは凄かったぞ。街の奥にすんごくでかい穴が開いててさ。そこから採掘された魔石や鉱石を乗せた木箱が、いくつもの巨大なリフトで絶え間なく運ばれてるんだ」


 俺が身振り手振りを交えてストーンバレーの情景を語ると、セレナさんはジョッキを両手で包み込むように持ちながら「わぁ……」と感嘆の声を漏らした。


「王都では見られないすごい活気のある光景ですね。それで、その剣を打ってくれたゲインさんとはどうやって出会ったんですか?」

「ああ。街で一番腕がいいっていうゲインさんを訪ねたんだ。そうしたら坑道の奥に今まで見たこともないような奇妙なゴーレムが居座ってて採掘ができなくて困ってるって話を聞いてな」


 俺は一口ステーキを頬張り、ゴクンと飲み込んでから話を続ける。


「それでゲインさんの弟子をしているメイちゃんって女の子の案内で、そのゴーレムをこっそり見に行ったんだよ。そしたら驚いたのなんの。そいつ、滅茶苦茶熱くなった全身が伝説の金属『ヒヒイロカネ』でできてるバケモノだったんだ」

「ヒ、ヒヒイロカネですか!? おとぎ話に出てくるような、あの……!」

「そうそう。で、どうやって倒すかって話になったんだよな」


 俺が戦闘のハイライトを語ろうと身を乗り出した、その時だった。

 上品にハンバーグを切り分けていたリースが、ふと思い出したように口を開いた。


「そういえばセレナさん。私たち、ユズルさんたちがゴーレムを見に行ってる間ゲインさんが鉄を打ってる所を工房で見学させてもらったんです。火の粉がバチバチ舞って重い槌を振り下ろす姿がもう……本当に迫力すごかったです! カンカンって音が体に響いて熱気で顔が火照るくらいでした……」

「えっ、そうなんですか!? いいなぁ……私一流のドワーフの鍛冶師様がお仕事をしているところなんて一度も見たことがないです……」


 セレナさんが羨ましそうに目を輝かせ、ミリアも「カンカンッて音がすごく響いてて、かっこよかったよね!」と頷き合っている。ルカは「ボクは暑いのが苦手だから部屋でたおれてたけどね~」と補足する。

 ……ん? ちょっと待てよ。


「……あれ? よく考えたら俺、ゲインさんが実際に鉄を打ってるところちゃんと見てないぞ……?」

「えっ?」

「え?」


 俺の呟きに、女子たちがキョトンとした顔でこちらを見た。

 そうだ。工房を訪ねた時は熱気にやられてよく見えなかったし、この剣を打ってくれたのも俺が布団で熟睡している夜中から明け方にかけてだった。職人技を、俺だけが見逃している!


「ユズルさん、ドワーフって滅多に人前で鉄を打つことがないからもったいないことしましたね」

「キミ、あの時凄く気持ちよさそうに寝てたからね~」


 ミリアがクスクスと笑い、ルカが容赦なく事実を突きつけてくる。


「うっ……い、いいんだよ! 俺はほら、完成品からその魂を感じ取ったから! ……まぁとにかく話を戻すぞ! その超硬いヒヒイロカネゴーレムを俺たちで倒そうって話になってだな!」


 俺は少し赤くなった顔をごまかすように咳払いをして、強引に土産話の軌道修正を図る。


 「それでな、ドワーフの技術で『沸かし重ね』ってのがあるんだよ。なんか熱い金属を急激に冷やすとダメージがすげぇ入って脆くなる技術。それを使えばあのヒヒイロカネゴーレムも倒せるってなって、氷脈石を入れたキンキンの水樽をいくつか用意したんだ」


 俺が身振り手振りを交えて得意げに語ると、話を聞いていたセレナさんがパッと顔を輝かせた。


「氷脈石! お屋敷の冷蔵庫の冷気を保つのに使われている魔石ですね。私聞いたことがあります!」

「そうだったんですか!? セレナさん、物知りですね……!」

「うん、さすがセレナさん!」


 リースやミリアが感心したように声を上げる。生活の知恵から即座に魔石の用途を補足してくれるとは、さすがは我が家の優秀な給仕さん達だ。

 俺が「だろ?」と鼻高々に頷こうとした、その時だった。


「……あの、ユズルさん」


 ハンバーグをモグモグと咀嚼し終えたリースが、スッと静かに小さく手を挙げた。


「熱した金属を急冷してヒビを入れるのは『焼割れ』です……。ユズルさんが仰っている『沸かし重ね』は、そのヒビ割れごと叩いて鍛え直す方かと。完全に用語がごちゃごちゃになっていますよ?」

「…………あっ」


 痛恨のミス。

 完全にドヤ顔で語っていた俺は、ジョッキを持ったまま石像のように固まった。


「あはははっ! 肝心な鉄を打ってるところを見てないから~」

「うっ……」


 ルカがケラケラと笑いながら、耳を揺らして容赦なくいじってくる。

 俺はぐうの音も出なかったが心の中では全力で叫んでいた。


(ルカだって暑さでダウンして鉄打ってるところ見てないくせに……!)


 だがここで反論するとさらに泥沼になりそうなので、俺はわざとらしく「コホン!」と大きく咳払いをした。


「まぁとにかく! 細かい用語は置いといてだ! リースには安全な場所で待機してもらって、俺達とメイの4人でゴーレムに突撃したんだよ。超高温になったところにその水樽をぶちまけて、見事に焼割れを起こしてやったんだ!」

「おおーっ! 凄いです!」

「で、ボロボロになったところにメイが分解スキルでゴーレムを分解出来たはいいんだけどさ、回りの魔石の魔力を吸い込んで復活し始めたんだ。だから急いで樽をもう一発打ち込んだらゴーレムの核が見えたから俺が渾身の一撃を叩き込んでなんとか倒すことができた。……ただ、そのトドメを刺した硬すぎる衝撃で今まで俺が使ってた剣が真っ二つにへし折れちゃったんだ」


 俺が少しだけ苦い顔をしてそう言うと、セレナさんは「あっ……」と小さく息を呑み、俺の腰にある真紅の剣へと視線を移した。


 「――で、愛用の剣が真っ二つになっちまって途方に暮れてたんだけどな。あのバケモノを倒して坑道を安全にしてくれたお礼にとゲインさんが回収したヒヒイロカネの残骸を使って、俺のために新しい剣を打ってくれたんだ」


 俺は腰に下げた剣の柄を撫でる。


「徹夜でカンカンと、それこそ一晩中火を燃やしてな」

「あっ! 先ほど仰っていた沸かし重ねですね!」


 セレナさんがポンッと手を叩いて納得の声を上げる。

 俺が「そういうこと!」と照れくさそうに笑って頷くと、テーブルのみんなもつられてフフッと温かい笑い声を漏らした。


「本当に、すごい冒険だったんですね。皆様がご無事で、そしてこんなに素晴らしい剣と巡り会えて……」

「うん。でもやっぱりみんなで食べるご飯が一番美味しいね」

 

 忘れそうになっていたお土産のことも言っておかないとな。


「そうだ、セレナさんにはお土産があるから、帰ったらまた渡すな」

「お土産まで頂けるんですか!? 本当にありがとうございます……!」


 セレナさんが目をキラキラとさせ、こちらを見つめてくる。

 忘れないように覚えておこう。


 「……ふぁぁ、お腹いっぱいで眠くなってきたや」


 ルカが目を細めて大きな欠伸をする。

 テーブルの上に並んでいたご馳走は綺麗に平らげられ、ジョッキもすっかり空になっていた。賑やかだった土産話もひと段落つき、俺たちの間には大きな仕事を終えた後の心地よい疲労感と、しっぽりとした穏やかな空気が流れていた。


「さて、そろそろお開きにするか」


 俺が店員に会計を頼むと、女子たちもコクリと頷いて立ち上がった。


 酒場を出ると、王都の夜風が火照った顔に心地よく吹き抜けた。魔石灯の淡い光に照らされた石畳の道を5人で肩を並べてゆっくりと歩く。


 さ、明日は何をやろうかな。

読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ