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50 命と街を守った、ボロボロの剣

 静寂を取り戻した坑道で、俺はへナヘナとその場に座り込んだ。


「はぁっ……はぁっ……マジで、死ぬかと思った……」

「本当ですね……。まさか一度倒した後に周囲の魔力で復活するなんて思いもしませんでした」


 ミリアが額の汗を拭いながら大きく息を吐き出す。ルカも「命が9つあっても足りないよ……」とぼやきながら、冷たい岩肌に背中を預けて座り込んだ。


「でも、ユズルさんの最後の水樽すっごい威力だったね! あんなの初めて見たよ!」

「いやいや、樽を空中で綺麗に割ってくれたミリアとルカがいなきゃ、あの焼割れは起きなかった。それに、装甲をボロボロにしてくれたメイの分解がなきゃ俺のあの安物の剣じゃ絶対に核まで届かなかったよ」


 俺はポキンと折れて短くなった剣の柄を見つめながら、ふと顔を上げて三人を見回した。


「俺のスキルだけじゃ絶対に勝てなかった。ミリアの魔法と剣撃、ルカのクナイと機動力、メイの鍛冶の知識と分解スキル……誰かが一人でも欠けてたら恐らくあのバケモノは倒せなかったな。みんな本当にありがとう」


 俺が素直な気持ちを口にすると、坑道の中にしっぽりとした温かい沈黙が落ちた。

 ミリアは照れくさそうに微笑んで剣を鞘に収め、ルカは嬉しそうに尻尾を揺らし、メイは「えへへっ」と自慢げに胸を張った。


「さてと! しんみりするのはこれくらいにして、お宝の回収といくか」


 俺は立ち上がり、完全に沈黙してただの金属の山となったヒヒイロカネの残骸へと歩み寄った。


「うわぁぁ……! すごい、すごいよこれ! 全部純度100パーセントのヒヒイロカネだよ!?」


 メイが目をキラキラと輝かせ、まだほんのりと温かいオレンジ色の金属片を両手で大切そうに拾い上げる。


「これだけの量があったら伝説級の武器や防具がいくつも作れちゃうよ! 親方が見たら、絶対に腰抜かしちゃう!」

「ヒヒイロカネってそんなにすごい金属なんですね……。これ、全部持ち帰れるんですか?」


 ミリアが金属の山の大きさに圧倒されながら尋ねてくる。

 だが、俺には頼もしい相棒とスキルがあるからな。


「トラックの荷台をフル活用すれば余裕で全部持ち帰れるさ。よし、メイちゃんが分解してくれたお陰で運びやすいサイズになってるしどんどん積み込んでいこうぜ!」


 俺たちは手分けしてこの規格外な戦利品を次々とトラックの荷台とアイテムバッグへと収納していった。


「ふぅ、これでヒヒイロカネは全部だな。あとは親方から頼まれてた魔石だ」

「あっ、そうだね! 一番奥の採掘場にあるはずだよ!」


 俺たちはトラックを走らせ、残骸のさらに奥へと足を進めた。

 そこにはゲインさんの工房の職人たちが採掘してまとめておいてくれたらしい、純度の高い魔石がぎっしり詰まった木箱が2箱置かれていた。


「よし、これを運べばミッションコンプリートだな」


 俺は2つの木箱も慎重に荷台へと積み込んだ。これで今度こそすべての目的は達成だ。


「そういえばユズルさん。さっきあのゴーレムの注意を引いた時の鼓膜が破れそうなほど凄まじい音は一体なんだったんですか? あれもユズルさんの魔法……?」


 坑道の出口に向かいながら歩いていると、ミリアがふと思い出したように耳をさすりつつ尋ねてきた。


「ああ、あれは『クラクション』っていう機能だよ。魔法じゃなくて、俺の世界の車には全部最初からついてるんだ。本来は『危ないぞー』って周りに危険を知らせるためのものなんだけどな」

「あれが全部の乗り物に……? 日本の人たちはあんな大音量の魔法道具を鳴らしながら生活してるのかい!? ボク、あらかじめ耳を塞いでたのにまだ少し耳の奥がジンジンしてるよ……」


 ルカがへなへなと耳をペタンと伏せて身震いする。


「まぁ、普段はあんなに至近距離で、しかも音が反響する洞窟の中で思い切り鳴らしたりしないからな。でも、ヘイトを稼ぐには最高の囮になっただろ?」

「うん! あの音のおかげで、ゴーレムが完全にユズルさんの方を向いてくれたもんね!」


 メイがうんうんと元気よく頷く。


「これからは、もし遠くではぐれた時の合図とかにも使えるかもしれないな。……まぁ、ルカの言う通り心臓には悪いから多用は禁物だけど」

「賛成です。寿命が縮むかと思いましたから」


 ミリアが苦笑いし、坑道内はドッと和やかな笑い声が響く。

 そんな他愛のない雑談を交わしながら俺たちは薄暗い坑道を抜け――。


「ユズルさーん! ミリア! ルカさん! メイさん!」


 外の眩しい光の中に飛び出すと、そこには両手を大きく振っているリースの姿があった。


「リース!」

「ああ、よかった……! 皆さん、本当にお怪我はありませんか!?」


 俺たちが坑道から出ると、待ちわびていたリースが小走りで駆け寄ってきた。

 その瞳の端にはうっすらと涙が浮かんでおり、彼女がどれだけ俺たちの帰りを心配し、祈ってくれていたかが痛いほど伝わってきた。


「心配かけて悪かったな。でも、見ての通り全員無事だ。頼まれてた魔石も、ついでにとんでもないお土産もたっぷり回収してきたぜ」

「ええ! みんなで力を合わせて、すごいバケモノを倒したんですよ!」

「ふふっ。皆さんのその誇らしげなお顔を見ればどれだけ大変な冒険だったか分かります。……おかえりなさい、皆さん」


 リースの花が咲いたような笑顔に迎えられ、俺たちは「ただいま」と口を揃えて笑い合った。


「さあ、親方のところへ帰ろう」


 砕けた剣の柄を腰にぶら下げたまま、俺は全員を引き連れて大スロープを上り、ゲインさんが待つ青い屋根の工房へと凱旋するのだった。



 ◇ ◇ ◇


 大スロープを上りきり、俺たちは青い屋根の工房の重い扉を押し開けた。

 ムワッとした熱気と、鉄の匂いが鼻をくすぐる。


「親方ぁーっ!!」


 工房に足を踏み入れるなり、メイが弾かれたように駆け出し、鍛冶場から出てきたばかりのゲインさんの分厚い胸にドンッと飛び込んだ。


「おわっ!? バカ野郎、危ねェだろうが!」


 突然の体当たりに口では小言を言いながらも、ゲインさんはその大きな手でメイの頭をガシガシと力強く撫でた。

 そして、彼の鋭い視線が後ろに続く俺やミリア、ルカへと向けられる。泥だらけになった服と隠しきれない疲労感――だが、俺たちの目にある誇らしげな光を見た瞬間、ゲインさんはフッと口角を上げる。


「……どうやら、ワシの想像以上にドデカい仕事をやり遂げてきやがったみたいだな」

「はい。俺達の勝利です!」


 俺が胸を張って答えると、ゲインさんは「ハハハ!」と上機嫌に笑い声を出す。


「よく生きて帰ってきた。ひどく疲れた顔をしてやがるな、まずは座れ。茶でも飲んで、ゆっくり話を聞かせろ」


 俺たちはゲインさんに促され、先ほど作戦会議をした居間の円卓へと腰を下ろした。

 メイが「私が淹れるね!」と元気に立ち回り、人数分の湯気の立つお茶とお茶菓子を運んできてくれる。

 温かいお茶で喉を潤しながら俺たちは坑道での死闘をゲインさんに語って聞かせた。トラックを使った水樽の急激な冷却作戦やミリアとルカの連携、メイの分解スキルの活躍、ゴーレムが復活したこと、そして――。


「それで最後は俺が剥き出しになった核に剣を突き立てて、なんとかトドメを刺したんですが……その代償がこれです」


 俺は腰から下げていた、見事にポキンと折れた剣の柄をテーブルの上にコトリと置いた。


「戦闘職じゃねェあんちゃんがあの伝説級のゴーレムにトドメを刺したってのか! こりゃあ傑作だな!」


 ゲインさんは腹を抱えて大笑いし、俺の折れた剣の柄を手に取ってしげしげと眺めた。


「こいつは安い量産品の鉄剣だ。ヒヒイロカネの核の反発力と魔力に耐えきれるわけがねぇ。……だが、よく主人の命を最後まで守り抜いたな。立派な最後だ」

「ええ、この剣のおかげで助かりました」


 ゲインさんが職人としての敬意を込めて柄を撫でてくれたことが、なんだか俺も誇らしかった。


「あのヒヒイロカネのゴーレムを倒したってことは、もちろんあの伝説の金属をたっぷり持ち帰ってきてるんだろうな?」

「はい! トラックの荷台にパンパンに詰まってますよ!」

「フッ、なら話は早ぇな」


 ゲインさんはニヤリと笑い、俺を真っ直ぐに見据える。


「坑道の安全を取り戻してくれた礼と、俺の可愛い弟子を無事に連れ帰ってくれた何よりの礼だ。あんちゃんが持ち帰った最高のヒヒイロカネで、ワシがあんちゃんの新しい剣を打ってやろう」

「えっ……! 本当ですか!?」

「ああ。どんな相手にも折れねェ、あんちゃんだけの最高の剣にしてやる。だが……ヒヒイロカネを鍛え上げるには、夜通し火を入れなきゃならねぇ。完成は明日の朝になる」


 ゲインさんは立ち上がる。


「今日はうちの客室に泊まってけ。ゆっくり休んで、明日新しく生まれ変わった相棒を迎えに来な」


 そう親方は言い、親指で客室の方をクイッと指差した。


読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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― 新着の感想 ―
安物剣から一気にレア金属のヒヒイロカネ剣にレベルアップですね(*‘∀‘)!
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