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49 極寒の砲弾と熱い仲間

 手のひらに乗せたミニトラックのライトが、暗闇の奥で揺らめくオレンジ色の巨体を真っ直ぐに照らし出す。

 次の瞬間、ヒヒイロカネのゴーレムの全身の光がひときわ強く輝いた。


「来るぞ! 散開しろ!!」


 俺の叫びと同時に異常な熱気を纏った巨体が、真っ直ぐこちらへ向かって猛烈な突進を仕掛けてきた。ズシン、ズシンという重い足音が坑道全体を揺るがす。


「メイ君、こっちだ!」

「ひゃあっ!」


 ルカが素早くメイの体を抱え上げて大きく右へと跳躍し、俺とミリアも左右に分かれてその場から全速力で離脱する。

 直後、俺たちがつい数秒前まで立っていた岩盤に、ゴーレムの溶岩のような右腕が深々と突き刺さった。


 爆発のような轟音と共に地面がクレーター状に陥没し、凄まじい熱波と土煙が吹き荒れる。

 だが、どんなに威力が大きくても大振りの攻撃の後には必ず『隙』ができる。ゴーレムが岩盤にめり込んだ右腕を引き抜こうと一瞬だけ動きを止めた、その硬直を俺は見逃さなかった。


「今だッ!」


 俺は右の手のひらに乗せたミニカーサイズのトラックを、ゴーレムの右腕へと真っ直ぐに向けた。


「行けえええっ! ゴーレムに向かって水樽素早く射出!!」


 俺がスキルを発動した瞬間――手のひらの上の極小トラックの荷台から本来のサイズである巨大な樽が、まるで大砲の弾のようにものすごい勢いで射出された。

 飛び出した水樽は、狙い違わずゴーレムの超高温の右腕に激突し、派手に砕け散る。


 樽の中からぶちまけられた氷脈石入りの極寒水が、オレンジ色に発熱したヒヒイロカネの装甲を一気に冷却する。

 あたりには激しい水蒸気爆発の音が上がり、坑道内が真っ白な蒸気に包まれた。


――パキッ。


 その直後、けたたましい音の合間にかすかだが確かに硬いものが割れるような音が響き渡った。


「よしっ、効いてる!」

「腕の動きが……少し鈍くなりました!」


 ミリアの言う通り、急激な温度変化による『焼割れ』のダメージを受けたのかゴーレムが右腕を振り上げる速度が明らかに遅くなっていた。


「そこだっ!」

「はああぁぁっ!!」


 すかさず、身軽なルカが壁を蹴って跳躍し、動きの鈍った右腕の関節めがけて3本のクナイを投擲する。それに続くようにミリアが鋭い踏み込みから渾身の剣を叩き込んだ。


 キンッ!! ガキィィィンッ!!


「くそっ、やっぱり硬いね!?」

「ええ……ひび割れたとはいえ、私たちの武器じゃ刃が立ちません!」


 ルカのクナイとミリアの剣が弾き返されるのを見て、俺は即座に次の手を打つことにした。

 このままでは、またあの恐ろしい丸太のような腕による反撃が2人に飛んでいってしまう。相手の注意を俺の方へ引きつけなければ。


「みんな、そのまま下がれ!」


 俺は手のひらのミニトラックを地面に放り投げると同時に、『車体サイズ変更』のスキルを調整した。

 ギギッ! という音と共に、トラックは軽自動車のようなギリギリ大人が1人乗り込めるサイズへと急成長する。

 俺は運転席に滑り込むと、ハンドルを握りしめ、ありったけの大声で叫んだ。


「今からトラックがでかい音出す! でかい音が鳴り終わるまで絶対に耳を塞いでろ!!」

「で、でかい音!?」

「わかった、耳だね!」


 俺のただならぬ剣幕に、ミリア、ルカ、そして少し離れた場所にいたメイが一斉に両手で耳を強く塞いだ。それを確認した俺は、ハンドルの真ん中――クラクションを思い切り力強く押し込んだ。


 プァァァァァァァァァァンッッ!!!!


 閉鎖された坑道のドーム内に、大型トラック特有の空気を震わせるような爆音のクラクションが響き渡った。

 その鼓膜を直接殴りつけるような物理的な轟音に、ヒヒイロカネのゴーレムがビクンッと巨体を震わせ、ルカたちに向けていたオレンジ色の頭部をこちらへ振り向けた。


(よし、ヘイトは完全に俺に向いたな!)


 俺はクラクションを鳴らしっぱなしにしたままアクセルを踏み込み、ゴーレムの周囲をぐるぐると旋回し始めた。


 強烈な音と、走り回るトラックの魔力に完全に気を取られたゴーレムが、怒り狂ったように俺を追いかけてくる。異常な熱波が背後に迫り、チリチリと肌を焼くような感覚が走る。


「こっちだデカブツ! 熱くなりすぎた頭を冷やしてやるよ!!」


 ゴーレムが一直線にこちらへ突進してくる軌道を見切り、俺はハンドルを切りながら背後に向けて荷物噴射のスキルを発動した。


 2発目の水樽が大砲のように射出される。

 今度は胴体のど真ん中を狙った――が、走りながらの射出で狙いがブレたのか、それともゴーレムの突進速度が予想以上に速かったのか。


「しまっ――!」


 樽はゴーレムの胴体をかすめ抜け、そのすぐ足元の岩盤に激突して派手に砕け散った。


 ザッパァァァァァァンッ!!


 大量の氷脈石入りの極寒水がぶちまけられ、再び激しい水蒸気爆発が起こる。しかし直撃を免れたゴーレムの突進は止まらない。

 もうもうと立ち込める白い蒸気を突き破り、足元をわずかに冷やされながらもオレンジ色の巨兵が俺の乗る小型トラックへとその巨腕を振り下ろしてきた。


「おっと、そいつは当たらねぇよ!」


 俺はハンドルを強く握りしめ、アクセルを床までベタ踏みした。

 キュルルルルッ! とタイヤが甲高い音を上げ、小型化したトラックが弾かれたように前進する。直後、俺のすぐ真後ろの岩盤をゴーレムの拳が叩き割り、凄まじい衝撃波が背中を撫でた。

 ギリギリの回避。だが、勝機はそこにあった。


「――ガガッ!?」


 渾身の一撃を空振りしたゴーレムが、不自然に大きく体勢を崩したのだ。


「そうか、足元に当たったからアイツの足で焼割れ起きてるのか! これは運が良い……!」

 

 自重と勢いに耐えきれなくなったゴーレムの足元がパキッという音と共に砕け、その巨大な体が轟音を立てて前のめりに倒れ込む。


「ミリア、ルカ!」


 俺は旋回してトラックの先端を倒れたゴーレムへ向けると大声で叫んだ。


「今からあいつの頭上に樽を飛ばす! ファイヤーボールとクナイを思いっきりぶつけて空中で樽を叩き割ってくれ!!」

「了解です!」

「任せてよ!」


 俺の意図を即座に理解した2人が武器と魔法を構える。


「いっけええええっ!! 荷物噴射!!」


 俺のスキルによって真上へと打ち上げられた巨大な樽が、放物線を描いてゴーレムの頭上へと到達する。


「はああぁぁっ!!」

「そぉいっ!」


 そこへ、ミリアの放った灼熱のファイヤーボールと、ルカの渾身の力で投擲されたクナイが同時に突き刺さった。

 頭上の空中で樽が木端微塵に破壊され、中から氷脈石によって凍る寸前まで冷やされた大量の極寒水が滝のようにゴーレムの全身へと降り注いだ。


 ジュゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!!


 今日一番の凄まじい水蒸気爆発が起き、坑道内が完全に真っ白な霧に包まれる。

 パキパキパキパキッ!!

 急激な温度変化による熱応力に耐えきれず、伝説級の硬度を誇っていたヒヒイロカネの装甲が悲鳴を上げるように次々とひび割れていく。

 やがて蒸気が晴れると、そこにはオレンジ色の輝きと異常な熱を完全に失い全身がボロボロにひび割れて黒く変色したゴーレムが這いつくばっていた。


「メイ、今だ!!」

「うんっ!!」


 俺の合図と共に、ずっと出番を待っていたメイが、小さな体を弾ませて一直線に駆け出した。

 彼女の掲げた両手が鍛冶師の魔力で眩く発光する。


「ええいっ! 分解ッ!!」


 ドンッ!!

 メイの小さな両手が、ボロボロになったゴーレムの胴体に叩き込まれた瞬間――。

 ガガガガガッ! という音と共に、ヒヒイロカネの巨兵を構成していた魔力が霧散し、巨大な体が一瞬にしてガラガラと崩れ落ちた。


 あとに残ったのは、魔物としての形を失い、ただの最高級のヒヒイロカネの素材の山となった金属塊だけだった。


「……やった……倒したぞ!」


 俺がトラックのエンジンを切り、安堵の声を上げると、ミリアとルカ、そしてメイが歓声を上げてハイタッチを交わした……のもつかの間。


「えっ……嘘、でしょ……?」


 ミリアの歓声が、戦慄の呟きへと変わった。

 坑道の壁面や地面に埋まっていた無数の未採掘の魔石が突如として不気味な脈動を始めたのだ。魔石から溢れ出した青白い光の帯が、まるで意志を持っているかのように崩れ落ちたはずのヒヒイロカネの残骸へと吸い込まれていく。


 ゴゴゴゴゴッ!!


「なっ、魔力を吸収してやがるのか!?」


 俺の叫びと同時に散らばっていた金属塊が凄まじい熱を発しながら再び集結し、ゆっくりと、だが確実に巨兵の姿へと組み上がっていく。

 ゴーレムが立ち上がり、その瞳が再び怒りのオレンジ色に発光した。


「させないっ! 分解ッ!」


 メイがすぐさま駆け寄り、再構築されつつある装甲に両手を叩き込んだ。

 しかし――バンッ! という鈍い音と共に、メイの小さな体が大きく弾き飛ばされた。


「きゃあっ!?」

「メイ! ……くそっ、効いてない!?」

「だ、だめだよユズルさん! 魔力を吸いすぎて、さっきよりずっと密度が上がってる!」


 ルカに受け止められたメイが悲痛な声を上げる。

 完全復活を果たしたゴーレムは、一番の脅威である俺を真っ直ぐに見据え、一切の予備動作なしにその丸太のような巨腕を振り下ろしてきた。


「ユズルさんッ!!」


 ミリアの悲鳴が響く。

 俺は咄嗟にトラックの運転席から横っ飛びにダイブした。

 コンマ数秒前まで俺が座っていた運転席のすぐ横の岩盤が、凄まじい威力で粉砕される。間一髪での回避。全身に土砂を浴びながら地面を転がり、俺は叫んだ。


「まだだッ! これが泣いても笑っても最後の一発だ!! 『荷物噴射』!!」


 トラックの荷台に残っていた、正真正銘最後の水樽。

 至近距離から大砲のように撃ち出された最後の一発が、ゴーレムの胴体のど真ん中にクリーンヒットした。


 ジュゥゥゥゥゥッ……


 極限まで圧縮されていた魔力と超高熱が急激な冷却によってついに限界を突破したようだ。

 凄まじい水蒸気と共に、ゴーレムの分厚い胸部の装甲がベリベリと音を立てて剥がれ落ちる。その奥に見える真っ赤な水晶体――核が完全に無防備な状態で露出した。

 震える足が止まらない……でもこの核を壊す最大のチャンスだ。

 動け、俺の足――ッ!!

 

「そこだっ!!」


 俺は立ち上がりざまに腰の剣を引き抜き、渾身の力を込めて地を蹴った。

 戦闘職じゃない俺の攻撃力じゃ、装甲は愚か普通の魔物にも通じないかもしれない。だけど、剥き出しになった急所なら!


「うおおおおおっ!!」


 俺の放ったありったけの突きが、ゴーレムの真っ赤な核へと深く突き刺さる。


――ピキッ。


 確かな手応えと共に、核の表面に亀裂が走る。

 だがそれと同時に俺の手元が軽くなっているのを感じた。


 パキィィィィィンッッ!!!


 甲高い音と共に俺の剣が柄を残して粉々に砕け散る。

 しかし俺の剣が犠牲になったのと引き換えに、ゴーレムの核もまた完全に四散し、崩れていった。


 今度こそすべての動力を失ったヒヒイロカネの巨兵はオレンジ色の光を完全に失い、ただの冷たい金属の山となって完全に沈黙した。

 後には、荒い息をつく俺と、砕けた剣の柄だけが残されていた。


「……終わった、か」


 静寂を取り戻した坑道で、俺はへナヘナとその場に座り込んだ。

読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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