48 鍛冶師の知恵
命からがら坑道から逃げ帰ってきた俺たちはゲインさんの工房の居間に戻り、円卓を囲むようにして席についていた。
重苦しい空気が漂う中、俺は腕を組んで口を開く。
「あのヒヒイロカネのゴーレムをどうやって倒すか……。相手の装甲が硬すぎて、近づけば魔力感知で超高熱の反撃が来る。まずは、打開策を探るために俺の手持ちのスキルを全部共有しておくよ」
俺は現在使えるスキルの一覧をみんなに共有した。
・言語翻訳
・アイテムバッグ
・MP無限化(車両系スキルに限る)
・トラック召喚
・トラック収納術
・魔素燃料化
・トラック移動快適術
・トラック透明+消音化
・荷物噴射
・異世界カーナビ
・トラックサイズ変更
「……いやはや、こうして見ると規格外の数だね。それに『MP無限化』なんて、とんでもないチートじゃないか」
「ですが……直接的な攻撃魔法や、あのゴーレムの装甲を貫けそうな攻撃スキルは見当たりませんね」
ルカが呆れたようにため息をつき、リースが真剣な表情で悩む。
確かに俺のスキルはあくまで「トラックを便利に運用するため」のものが大半だ。現状、相手の防御を崩せるのはメイの『分解スキル』だけだが、それにしても近づく手段がない。
「ねえ、ユズルさん」
ふと、リストの文字を食い入るように見つめていたメイが顔を上げた。
「荷物噴射って……トラックの後ろに積んでるものを、勢いよく外に飛ばせるってことだよね?」
「ああ、そうだ。正確には『30mの距離までなら荷台からではなくトラックからどの方向にも発射することが可能』というスキルだ。……でも、いくら重い荷物をぶつけてもあのヒヒイロカネには傷一つ付かないし、追尾機能も無いから戦闘で使うには少し難しいんだ」
「ううん、違うの! ぶつけて壊すんじゃなくて……あいつの装甲に『焼割れ』を起こさせちゃえばいいんだよ!」
メイが机をバンッと叩いて立ち上がった。
「やきわれ……?」
「なにそれ? 魔法の名前?」
ミリアとルカが不思議そうに首を傾げる。俺も初めて聞く単語だ。
「鍛冶の言葉! 熱々にした鉄を水にドボンって入れると、パキンッ! って割れちゃうやつ! 温度差の衝撃に耐えられないんだって!」
「あっ……!」
メイの説明を聞いて、俺は彼女の言わんとしている意図に気がついた。
あのヒヒイロカネのゴーレムは、常に自身の熱でオレンジ色に発光しているほどの超高温状態だ。もし、そこに大量の冷たい水をぶっかけることができれば――。
「なるほどな……! メイの言う通りかもしれねぇ」
腕を組んで黙り込んでいたゲインさんが、目をカッと見開いて立ち上がった。
「異常な高熱を帯びてるヒヒイロカネなら冷たい水で急激に冷却すれば、焼割れに耐えきれずに一気に自壊するかもしれねぇ! 装甲がひび割れちまえばメイの分解スキルも確実に通るはずだ!」
「冷たい水ですか。ですがどうやってあの熱気を越えるほどの水を用意すれば……」
「うちの工房、氷脈石が大量に買ったばかりだから余ってるんだ。熱くなりすぎた焼入れ用の水を常温へ戻すために冷たい空気を出し続ける魔石だから役に立つだろう」
ゲインさんは興奮気味にドワーフ特有の太い声で叫んだ。
「これを樽の底に沈めて水を張れば、あっという間に凍る直前のキンキンに冷えた極寒水ができあがる! あんちゃん、その『荷物噴射』とやらで樽ごとあのバケモノにぶち当てることはできるか!?」
「できます! トラックの荷台に積めるだけ積んで、至近距離から樽を連射してやるよ!」
「よし決まりだ! お前ら、すぐに中庭にある空き樽を全部持ってこい! 氷脈石をありったけ詰めるぞ!」
ゲインさんの号令で、俺たちは一斉に動き出した。
工房の裏手から頑丈な樽を4個引っ張り出し、その中にゲインさんが持ってきた青白く冷気を放つ『氷脈石』をゴロゴロと投げ込んでいく。
そこへ井戸から汲み上げた水をなみなみと注ぐと、あっという間に樽の表面に真っ白な霜が張り付き、強烈な冷気が立ち上り始めた。
「よし、水樽の完成だ! これを俺のトラックに積み込むぞ!」
これなら行けるはずだ。
◇ ◇ ◇
完成した水樽をすべてトラックに収納し、俺たちはゲインさんの工房の前に立っていた。
「今回はトラックの装甲で守りを固めるんじゃなく、あのバケモノと直接やり合うガッツリとした戦闘になる。危険な役回りになるが……」
「当然、私も行きます! ユズルさんたちだけを危険な目に遭わせるわけにはいきませんから!」
ミリアが腰の剣の柄を握りしめ、力強く宣言する。
「ボクも行くよ。暑いのは本当に勘弁してほしいけど……友達が火ダルマになるのは、もっと嫌だからね」
ルカも尻尾を揺らしながら、頼もしい笑顔を見せてくれた。俺の本来の戦闘力の低さを知っているからこそ、二人は危険を承知でついてきてくれるのだ。
「ありがとう、2人とも。……リースは」
「はい。私は直接的な戦闘ではお役に立てませんからここでお留守番をしています。でも……皆さんが無事に帰ってくること、誰よりも信じていますからね! いってらっしゃい!」
リースは不安を微塵も見せず、満面の、そして元気いっぱいの笑顔で俺たちを送り出してくれた。
その真っ直ぐな笑顔に背中を押され、俺たち4人は再び大スロープを下り、誰もいない最下層の坑道前へとたどり着いた。
「よし、ここからは真っ暗だ。ちょっとできるかわからないが試したいことがあるから待っててくれ」
俺は周囲に人がいないことを確認すると、スキルを発動してトラックを召喚した。
ドスンッと現れた巨大な鉄の塊に、俺はガチャリと運転席のドアを開けて素早く乗り込む。
「坑道の中は暗いからな。ちょっとライトをつけておこう」
カチッとスイッチをひねって強烈なヘッドライトを点灯させる。そしてすぐさま運転席から飛び降りると『車体サイズ変更』のスキルを限界まで引き絞った。
ギギッ……! という不思議な音と共に巨大だったトラックがみるみるうちに縮んでいき――最終的に、俺の手のひらにちょこんと乗るおもちゃの車』サイズにまで極小化した。
「うわぁっ!? ち、ちっちゃい! なにこれ可愛い!」
メイが目を輝かせて手のひらの上のトラックを覗き込む。
「初めてやってみたけど意外とできるもんだな……」
俺が手のひらの上の極小トラックを坑道の奥へ向けると、2つのヘッドライトから放たれる強烈な光の筋がまるで強力な懐中電灯のように真っ暗な道をパァッと白く照らし出した。
「視界も確保できたし、奇襲の準備もバッチリだ。……行くぞ」
俺を先頭に、ミリア、ルカ、そしてメイの4人は再びあの不気味に静まり返った坑道の中へと足を踏み入れた。
懐中電灯代わりのトラックの光を頼りに、枝分かれした道をひたすら真っ直ぐに進む。
やがて坑道の最深部――あの広大なドーム状の採掘場へとたどり着いた。
俺がスッとライトの光を下に向けると、暗闇の奥深くで陽炎を揺らめかせながらオレンジ色に発光する巨大な塊が先ほどと変わらぬ様子で立ち尽くしているのが見えた。
「……いた。ヒヒイロカネのゴーレムだ」
広い採掘場の中央に鎮座するヒヒイロカネのゴーレム。そのゴーレムの背後には決して見ることが出来ないが、誰にも負けないという強い『圧』を感じる。
「よし、やるぞ! 命が何よりも大事だ、危なくなったらみんな逃げろよ!」
「「「おーっ!!!」」」
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