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47 ゴーレムの正体

「それじゃ、ちょっと行ってくる」


 心配そうなミリアたちと険しい顔をしたゲインさんに見送られ、俺とメイの二人は青い屋根の工房を後にした。

 カンカンと響く鍛冶の音を背に受けながら、すり鉢状の街の底へと続く巨大な螺旋スロープをさらに下っていく。


 やがて、一番下……採掘場の最下層へとたどり着いた。

 俺たちの目の前には、他の坑道よりも一回り大きな横穴がぽっかりと口を開けている。どうやらここが、お目当ての魔石が眠る一番奥の坑道らしい。


「……なぁ、メイ。いくら危険な場所とはいえ、この階層やけに静かすぎないか? 誰もいないぞ」


 周囲を見渡して、俺はある違和感を口にした。

 上層の活気が嘘のように、この最下層にはドワーフの姿が一人も見当たらない。荷馬車も、採掘道具も、すべてが綺麗に撤去されて静まり返っているのだ。


 俺の疑問に、メイは少しだけ表情を引き締めて頷いた。


「うん。あの未知のゴーレムがいつ坑道から出てきて暴れ出すか分からないでしょ? 万が一の事態に備えて親方の指示でこの最下層は完全に封鎖して、誰も近づかないようにしてるんだよ」

「なるほど、そういうことか……」


 流石ゲインさんだ。けど俺にとってはこれが好都合だった。


「誰もいないなら丁度いい。ここでトラックを出しても騒ぎにならないからな」

「トラック……?」


 俺は周囲に本当に人目がないことを確認し、俺とメイだけに見えるようトラックをこの場に召喚した。


「うわぁぁっ!! な、なにこれ!?」


 突然目の前に出現した巨大な鉄の箱に、メイが目を真ん丸にして驚きの声を上げた。

 彼女はトラックの周囲をぐるぐると走り回りながら、バンバンと車体を叩いたり撫でたりしている。


「すっごい……! これ全部鉄!? こんなに大きな鉄の塊、いくら親方でもどうやって打ったのか分かんないよ!」

「俺の故郷の技術の結晶だからな。ほら、こっちの席に乗ってくれ」


 ガチャッと助手席のドアを開けてやると、メイは「お邪魔しまーす!」と元気よく乗り込んだ。俺も運転席に乗り込み、分厚いドアを閉める。


「うわぁ、ふかふかの椅子! それに……涼しい! 外はあんなに暑かったのに、この中はどうなってるの!?」

「これも機能の1つだよ。……さて、喜んでもらえて何よりだけどこのサイズのままだと坑道の中には入れないからな」


 野営の時は居住性を上げるために2倍に拡張していたが、今回はその逆だ。倍率をぐっと下げて日本の軽自動車と同等のサイズまで車体を一気に縮小させる。


 メキメキメキッ……! とヤバそうな音を立ててトラックがみるみるうちに小さく圧縮されていく。

 拡大化させる時も思ったけど、この音どうにかならないのだろうか……流石に少し不安だぞ。


「ひゃわっ!? ち、小さくなった! ユズルさんとの距離が近い!」

「少し窮屈になるけど我慢してくれ。これなら坑道の中でも走れるはずだ。それじゃあ出発するぞ!」


 俺がアクセルを踏み込むと、軽トラサイズになったトラックは未知のゴーレムが潜む暗い坑道の中へとヘッドライトの光を向け、静かに滑り出していった。



 ◇ ◇ ◇


「うわっ、明るい! 太陽の光みたい!」

「ヘッドライトって言うんだ。これなら暗い坑道でもばっちりだろ?」


 軽自動車サイズにまで縮小したトラックで、俺たちは暗く冷たい坑道の中を進んでいく。

 道幅はゴツゴツとした岩肌に囲まれているが、このサイズなら壁に擦ることもなく余裕で走り抜けられる。道中、いくつも枝分かれした横穴があったが、迷子になるのを避けるため俺たちはとりあえず一番太い真っ直ぐな道だけを選んで前進し続けた。


「親方たちが魔石を置いてるのは一番奥の広い採掘場なんだ。このまま真っ直ぐで合ってるよ!」


 助手席のメイが、身を乗り出すようにして前方を指差す。

 やがて、ヘッドライトの白い光が照らし出す空間が、ドーム状に一気に開けた。

 どうやら坑道の最深部である巨大な採掘場にたどり着いたらしい。


「あれ……見て、ユズルさん。あそこ……!」


 今まで元気いっぱいだったメイの声が、急に緊張を帯びた。

 彼女の視線の先――ヘッドライトの強烈な光のさらに奥で、暗闇の中にぼうっとオレンジ色に発光する巨大な塊が動いていた。


「……あれが、ゲインさんの言ってた未知のゴーレムか?」


 ズン、ズンと重い足音を立てて暗闇から姿を現したのは全身が溶岩のように赤く、そしてオレンジ色に熱を帯びた巨大なゴーレムだった。

 奴の周囲の空気が異常な温度で陽炎のようにグラグラと揺らめいているのが、トラックのフロントガラス越しでもはっきりとわかる。


「嘘……どうして、あんなものが……っ」


 メイが窓ガラスにへばりつくようにしてゴーレムを見つめ、ゴクリと唾を飲み込んだ。鍛冶見習いとしての知識が、一瞬でその正体を弾き出したらしい。


「メイ、あいつの正体がわかるのか?」

「うん……間違いない。昔読んだ本に書いてあった。あれ、ヒヒイロカネのゴーレムだ!」

「ヒヒイロカネ?」

「伝説級の幻の金属だよ! あのオレンジ色のボディ……間違いないと思う!」


 ヒヒイロカネ……聞いたことあるな。詳しくはわからないけど、ミスリルとかそういう類の鉱石だったかな。


「どんな物理攻撃も基本的には無効化しちゃうくらいとんでもなく堅い物質なの! 炉の熱気とかに当てられてとんでもなく体温が高くなってる……あんなの、普通の剣や魔法じゃ傷一つ付けられないよ……!」


 メイの焦ったような説明に俺は思わず息を呑んだ。

 物理攻撃無効レベルの異常な硬さに、近づくだけで焼かれそうな高熱のボディ。

 確かにあんな理不尽なバケモノが道を塞いでいたら歴戦の冒険者やドワーフの鉱夫たちじゃ手も足も出ないはずだ。


「……なるほどな。ゲインさんがメイを連れて行きたがらなかった理由が、よくわかったよ」


 俺はハンドルを握る手にギュッと力を込めた。


「幸いなことに今のこのトラックは俺たち以外には見えない隠蔽状態に設定してある。相手の視覚には映らないはずだから、端っこを回り込むようにして近づいてみよう。気づかれずに背後を取れれば、メイのスキルを叩き込めるはずだ。ただ、イレギュラーに備えて急に曲がるかもしれないから念の為ドアの上にある取っ手を掴んで衝撃に備えておいて!」

「う、うん。わかった! 手すり手すり……あった!」



 俺が指差した先――窓枠の上部に設置されているコの字型の補助手すり、通称『アシストグリップ』を、メイが両手でギュッと握りしめる。


 俺はヘッドライトを消し、アクセルを慎重に踏み込んだ。

 真っ暗な空間の壁沿いをなぞるように、中央でボーッと立ち尽くしている巨大なオレンジ色のゴーレムから距離を取りつつ、ゆっくりと回り込んでいく。


 よし、いいぞ。あいつはまだこっちに気づいていない。

 このまま背後に回って一気に距離を詰め――。


 ズンッ!


 突如、ヒヒイロカネのゴーレムがピタリと動きを止め、その巨大な頭部を『こちら』へと向けたのだ。


「えっ……? ゆ、ユズルさん、あれ……こっち見てない!?」

「いや、気のせいだろ。このトラックは完全に見えなく……」


 俺が言葉を言い終わるよりも早く、ゴーレムの全身のオレンジ色の光がひときわ強く輝いた。そして、明確な殺意を持って俺たちの乗るトラックへと一直線に突進してきたのだ!


「うおぉぉっ!? 見えてるのかアイツ!?」

「魔力感知だよ! 目で見てるんじゃなくて、多分この鉄の箱(トラック)から出てる魔力か何かを感じ取って追ってきてるんだ!」


 メイの悲鳴に近い叫び声と同時に、ゴーレムの超高熱の丸太のような腕が振り上げられる。あれをまともに食らえば、いくらトラックの装甲が頑丈でも中の俺たちが無事では済まない。


「くそっ!」


 俺は渾身の力で急ハンドルを切った。

 急カーブを素早く曲がる時のように、車内の重力が横に逸れ体が大きく動く。直後、ゴーレムの拳が俺たちの元いた空間を叩き潰し、爆風と熱波が車体を大きく揺らした。


「ひゃあああっ!」

「ごめんメイ、舌噛まないように掴まってろ! 一旦退却だ!」


 相手に居場所が完全にバレているとなれば話は別だ。このまま未知の攻撃を受け続けるのは危険すぎる。

 俺はすぐさまトラックの車体の頭を反転させ、アクセルをベタ踏みして来た道を全力で逆走した。背後から響く重い足音と異常な熱気を振り切り、俺たちは一目散に坑道から脱出に成功した。


 

 ◇ ◇ ◇


「――というわけで、逃げ帰ってきたってわけだ」


 大スロープを駆け上がり、ゲインさんの青い屋根の工房へ戻ってきた俺たちは留守番をしていた4人を前に事の顛末を報告していた。


「怪我がなくて本当によかったです……。でも、まさかユズルさんのトラックの隠蔽を見破ってくるなんて」


 リースがホッと胸を撫で下ろしながらも、信じられないというように呟く。


「ボクも驚きだね。あのトラックは気配すらも完全に消せていると思っていたのに」


 ルカが尻尾をパタパタと揺らしながら考え込んでいる。


「どうやら、あのヒヒイロカネのゴーレムはただのゴーレムじゃないみたい。メイが言っていた通り、俺たちの見えない魔力を感知する特殊なセンサーみたいなものを持ってるんだと思う」


 俺がそう結論づけると、腕を組んで聞いていたゲインさんが重々しく口を開いた。


「ヒヒイロカネのゴーレムか……。通りで、様子を見に行かせた若い衆が近づく前に火傷を負わされるわけだ。どんな物理攻撃も通らねぇ上に、姿を消しても魔力で感知してくるバケモノ。……こりゃあ、本格的に厄介なことになったな」

「親方、でも私の分解なら絶対にあの装甲もバラバラにできるよ! あとは、バレずに近づく方法さえなんとかできれば……」


 メイが身を乗り出して主張する。

 彼女の言う通りだ。トラックが視認されてしまう以上、ただ突っ込むだけでは高熱の反撃を食らって終わりだ。だが、相手の防御を崩せるメイのスキルという『明確な勝ち筋』はすでにある。


「なあみんな。どうやってあのヒヒイロカネの巨兵にメイを接近させるか、作戦会議といこうぜ」


 俺たちは工房の居間にある円卓を囲み、難攻不落のゴーレムを打ち倒すための作戦を練り始めるのだった。

読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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― 新着の感想 ―
トロッコじゃ無かったか…w ヒヒイロカネ…興味深々♪ あとあそこの手すりってそんな名前だったんだ
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