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43 気がつけばそこは……(前編)

 深く眠りに落ちた俺は気づけば何も映っていない真っ白な世界に俺は居た。

……あれ、ここはどこだ? なぜここにいる?

 というよりもみんなはどこに行った。わからない、何が起きている……?


「あ、ユズルさん!!」


 振り向くとそこにリースがこちらに走ってきて、後を追うようにルカとミリアがこちらに向かってバタバタと走ってきている。


「ユズルさん、ここなにも見えないんですがどういった状況かわかりますか?」


 リースが聞いてくる。勿論知るわけもないので「俺も気がついたらこの状況でわけがわからないんだ」と返事を返した。

 途端に『ファァーッ』と音が鳴り、床に見たことのない魔法陣が召喚される。


「みんな、なにか起きるよ! 絶対みんなから離れないで!!」


 魔法陣が全員の体を包みこみ、次第にゆっくりと回りの明るさが落ち着いていった。


「みんな、大丈夫……か…………?」


 目の前に現れたのはとあるアパートの一室だ。

 床には汚らしく捨てられたコンビニ弁当のゴミ、飲みかけのお茶、最後に使ったのがいつかわからないラジオ……

 何回も、何十回も、何百回も見てきた机と布団、テレビとパソコン。二度と見ることはないと思っていた光景がそこに映っている。


(間違いない、ここは俺の部屋だ……)


 夢中になりあたりを見回すと、後ろにみんなが居た。

 見たことのないものが沢山有りすぎて怯えているようだ。


「みんな大丈夫か?」


 みんなが口を揃えて「大丈夫」と返事した。

 暗いままだけど電気は付くのだろうか?

 壁のスイッチを押すと明るくなり、みんなの姿が鮮明に見えるようになった。


「ここ、どこなのでしょう……」


 リースが怯えている。できる限りの説明をしよう。


「みんな、驚かないで聞いてほしいんだが、ここは俺が前世で暮らしていた部屋だ。地球という場所にいる。正直俺もなんでこうなっているのかが全くわからない」


 みんなの目が点になる。いや、わかる。俺だって目を点にしたい。


「結構散らかってたんだね~。今のキミからは想像つかないや」

「うーん、一旦どうしようか考えよう。元の世界に戻れるのか、ほかに何ができるか……」


 そうだ。闇雲に焦っていても意味はない。一旦冷静になろう。

 何かおかしなところはないか……


 すると、不意にリースが「あれ、ユズルさん何か落ちてきましたよ?」と喋りだす。

 そこには宙からふわりと舞い降りてくる便箋が1枚あった。

 その手紙にはこのように記されている。


――

 いきなり驚かせちゃってごめんなさいね。正体は今は言えませんがいつか言える時がきたらいいなと思ってます。

 私の能力で皆さんを須藤弓弦さんの居た世界へ招待しました。

 とはいってもこれはあくまで夢です。起きたら弓弦さんを含め、みんな忘れます。それでもよければ是非「異世界のみんな」といっしょに日本の観光楽しんでください。

 夢の中とはいっても、ものを食べれば味はするし、香りも感じます。

 もちろんお金も夢の中なので使っても減らないようにしましたし、皆さんには文字も読めるようにしております。

 

 今の時間が9時過ぎです。17時になるとみんなは夢から覚めますが、それまでゆっくりと羽根を伸ばしてね

――


「ユズルさん、何かわかりましたか……?」

「なんか正体はわからないけどここは夢の世界らしい。それで17時になったら元の世界に戻るということだ。神様かなんかわからないけど、たまには羽を伸ばせっていうことらしい?」


 一旦は安全が保証されていると思ってもよいのだろうか。

 手紙に書いてあることが本当であれば、ここでボーっとしてるのもなんだかもったいない。


「どうせ17時にならないと正確なことはわからないんだ。みんな、日本を観光してみないか? 案内するよ」


 みんなが目をぱちくりさせる。目を見合わせた3人は「「「はい!」」」と答えた。

 久しぶりの日本だ。お金も使い放題ということらしいし思いっきりたのしむぞ!



 ◇ ◇ ◇


「そうだ、日本を観光する上で注意してほしいことがある。今から言う内容のことだけは絶対に守ってくれ」


 3人は固唾を飲んで次の言葉を待つ。


「この世界には『車』と呼ばれる装置が大量に存在している。いわば、トラックと同じような装置だな。勿論みんなが見たことがあるあのトラックと同じものがいくつも走ってたりもする。夢の中だからぶつかっても怪我は無いだろうけど、念の為にぶつからないようにだけ気をつけてほしい。車の走る場所と人の歩く場所というのは別れてるから、そうそう無茶をしなければぶつかることはないけどな」


「なるほど……ユズルさんの乗っているトラックがこの世界では当たり前のように走っているんですね。分かりました!」


 ミリアが真剣な顔でコクコクと頷く。リースとルカも緊張した面持ちで同意してくれた。

 よし、注意事項の伝達は完了だ。


「それじゃあ、まずは外に出てみようか」


 俺は玄関のドアノブを引き、ガチャリと扉を開け放った。

 眩しい朝の光とともに、近代的な街の喧騒が部屋の中に流れ込んでくる。


「う、わぁぁ……っ!」


 俺の後ろから外の景色を覗き込んだリースが、感嘆の声を漏らして立ち尽くした。

 目の前に広がるのは、見渡す限りの綺麗に舗装されたアスファルトの道。天高くそびえ立つ電柱と、複雑に絡み合う電線。そして、遠くに見える巨大なガラス張りのビル。

 その中を何台もの乗用車やトラックが静かなエンジン音を立てて行き交っている。


「地面が……石畳よりもずっと平らです。それに、あの高い塔みたいな建物はどうやって建っているんですか!?」

「ユズル君、あそこを歩いている人たちの服……すごくピシッとしているね。それにみんな手に四角い小さな板みたいなのを持ってそれを見つめながら歩いているよ。あれも魔導具かい?」

「あー、あれはスマホっていう通信機みたいなもんだ。鍋食べ終わったあとに言ってたやつなんだが、この世界の人間はあれがないと生きていけないんだよ」


 ルカの鋭い観察眼に苦笑しながら答える。

 アパートの階段を降りて通りに出ると、3人はキョロキョロと首を激しく動かしっぱなしだ。すれ違うスーツ姿のサラリーマンや、自転車に乗った学生を見るだけで「おぉーっ」と声が漏れている。


「さて、まずは腹ごしらえだな。日本の美味い飯を食わせてやるよ」

「ご飯ですね! ユズルさんの故郷のご飯、とっても気になります!」


 俺が案内したのは牛丼屋だった。

 ガラス張りの自動ドアが『ウィーン』と勝手に開いた瞬間、ミリアが「いきなり扉が開きました! 敵ですか!?」と臨戦態勢に入りかけたのはご愛嬌だ。


「ここは牛丼っていう肉料理の店だ。庶民でも気軽に食べられるようにと、これが500ゼルくらいで売っているんだ」


 テーブル席につき、俺は備え付けの透明なピッチャーから水滴のついたグラスに褐色の液体を注ぎ、3人の前に並べた。

 カランッ、と涼しげな氷の音が鳴る。


「これは麦茶といって麦を煎って煮出したこの国で定番のお茶だ。氷が入っててキンキンに冷えてるから、まずは飲んでみてくれ」

「氷が……!? こんな暑いのにどうやって氷を維持しているんでしょう……」


リースが驚きながらグラスを両手で持ち、ゴクリと喉を鳴らした。


「……つ、冷たいっ! でも、すごく香ばしくてスッキリします! 麦の甘みも感じられて、お水よりずっと飲みやすいです!」

「ふぅ……これは生き返るね。氷の魔石でも入っているのかい?」


 ルカが耳をピンと立てて、グラスの麦茶を一気に半分ほど飲み干す。

 そうこうしているうちに店員さんがお盆に乗せた牛丼と豚汁のセットを運んできた。注文からわずか数分という提供スピードに、3人が再び目を丸くする。


「これが牛丼だ。薄切りの牛肉を甘辛いタレと出汁で煮込んでご飯の上に乗せてある。こっちの汁物は豚汁。豚肉と野菜をこの国特有の調味料で煮込んだスープだ。一言で言えばオーク肉みたいなもんだな。熱いから食べる時は気をつけてくれよ?」


 3人は木のスプーンを手に取り、まずはほかほかの牛丼をパクリと頬張った。

 その瞬間――。


「んんっ……!!?」


 ミリアが目を見開き、フリーズした。


「な、なんですかこのお肉! 信じられないくらい柔らかくて、お醤油のような甘じょっぱい味が染み込んでいて手が止まりません!」

「美味しい……! ユズルさん、これすっごく美味しいです! それにこのスープ、昨日私たちが作ったお鍋に少し似ていますが、もっと複雑でホッとする味がします!」

「いやはや、驚いたね。こんなに深みのある料理が注文してすぐに、しかも500ゼルで出てくるなんて。日本の食文化はどうなっているんだい?」


 濃厚な豚汁のコクと、牛丼の甘辛い脂の旨味。その強い味を堪能したあと、キンキンに冷えた麦茶を勢いよく流し込む。

 香ばしい麦の香りが口の中の脂を綺麗に洗い流し、「もう一口!」と無限に食欲を刺激するループが完成していた。


 ズルズルと美味しそうに頬張る3人の顔には、満面の笑みが浮かんでいる。

 前世で何度も通ったチェーン店の牛丼だが、異世界のみんなと一緒に食べるとなんだか特別なご馳走に思えてくるから不思議だ。


「よし、お腹もいっぱいになったし次は遊びに行こうか」

「遊び、ですか? どこか面白いところがあるんですか?」

「ああ。この世界ならではのゲームがたくさんある場所だ」


 牛丼屋を出て、俺たちが次に向かったのは駅前の大きな商業ビルに入っている『ゲームセンター』だった。

 フロアに足を踏み入れた瞬間、ピコピコという無数の電子音と、眩しいネオンの光が3人を包み込む。


「ひゃあっ!? な、なんですかこのピカピカ光る箱の群れは!」

「箱の中にぬいぐるみがたくさん入ってるよ! あの機械はなんだい?」

「あれはクレーンゲームだな。アームを操作して中の景品を落とすんだ。お金は使い放題みたいだしやってみるか?」


 俺が財布から百円玉を投入し、手本として小さな猫のぬいぐるみを一発で釣り上げてみせるとリースとミリアが「おおおおーっ!!」と歓声を上げた。


「私もやってみたいです!」

「ボクも! あれは狩猟のセンスが問われそうだね!」


 その後、ルカがクレーンゲームの達人としての才能を開花させたり、ミリアと一緒に画面から流れてくる音楽に合わせて太鼓を叩くリズムゲームで大はしゃぎしたりと、夢の世界の時間はあっという間に過ぎていった。


「あははっ! リース君、もっと右だよ!」

「リース様、この太鼓すごく楽しいです! 剣の修行にもなりそう……えいっ、えいっ!」


 時間を忘れて無邪気に笑う3人を見つめながら俺はふと息を吐く。


「ユズルさん! 次にあそこにある、カーテンのついたピカピカ光る小部屋に入ってみたいです!」

「ん? ああ、あれは『プリクラ』だな。せっかくだし記念撮影といくか」


 俺は3人を引き連れて、プリントシール機のブースへと足を踏み入れた。


「うわぁ、中もすごく明るいですね!」

「ここに立って、あの画面の向こうの丸いガラスを見るんだ。ちょっと待ってな、最近のやつは放っておくと目が異常にデカくなったりするから一番自然な姿で写る設定にしておこう」


 俺はタッチパネルを操作して、いわゆる『盛る』機能をすべてオフにした。

 せっかくの仲間たちとの記念写真だ。変に加工された姿よりも、ありのままの自然な笑顔を残しておきたかったからだ。


「よし、準備OKだ。カウントダウンに合わせて笑うんだぞ。はい、ポーズ!」


 パシャッ! と強烈なフラッシュが焚かれ、3人が「ひゃあっ!」と目を瞬かせる。

 数枚の撮影を終え、俺たちはブースの横にある落書きコーナーへと移動した。


「ほら、このペンで画面をなぞると、写真の上に文字や絵が書けるんだ。みんなで自分の名前を書いてみようぜ」


 ペンを渡すと、ミリア、リース、ルカの3人は、すらすらと流れるような筆致で『あちらの世界の文字』で自分の名前を書き込んでいく。

 よし、俺もここは日本の文字じゃなくて、みんなに合わせるか。


「よーし、俺も最近そっちの文字を勉強してるからな……っと」


 俺は意気込んでペンを走らせたが……画面に現れたのは、ひょろひょろと歪んだ、まるでミミズが這いつくばったような謎の線だった。


「あっ、ユズルさんこちらの文字を書けるようになったんですね! すごいです!」

「本当だ。文字の勉強するるって言ってたもんね。頑張ったじゃないか」

「うっ……ありがとう、2人とも。でもまだまだ練習が必要だな」


 ルカとミリアに素直に褒められて少し照れくさく思っていると、俺が名前の文字をかけることを元々知っていたリースがくすくすと上品に笑いながら口を開いた。


「ふふっ。ユズルさんのお名前、とっても個性的で可愛らしい文字が書けましたね」

「リースまでからかわないでくれよ……」


 やがて、ウィーンという機械音と共に1枚の小さなシールシートが吐き出された。

 そこには加工のないありのままの自然な笑顔を浮かべた俺たち四人の姿と、流麗な異世界の文字、そして1匹のミミズ(俺の名前)が楽しげに並んで収まっていた。

 俺はこの奇跡のような時間を切り取った一枚のシールを大切に財布の奥へとしまったのだった。


(……さて、次はどこを案内してやろうかな)


 時計の針はまだお昼を少し回ったところ。

 17時のタイムリミットまで、日本の観光はまだまだ終わらない。

読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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なーんで急に、現代の話に…( ゜Д゜)?
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