41 ここをキャンプ地とする!
【重要】本作品のタイトルを一部変更しました。
転生→転移
詳しい経緯については、活動報告書にて記載していますのでご確認のほどよろしくお願いします。
門兵に身分証を提示し、俺達は東門から王都を出て暫く歩みを進める。
雲一つ無い綺麗な空だ。
心地よい風も吹いており、絶好のドライブ日和だな。
「みんな、ちょっとトラック出すから離れててくれ」
みんなが俺の後ろへ下がる。みんなが下がったのを確認し、トラックを召喚した。
――トラックのサイズを1.5倍に増幅!
テストしたときと同じように大きくなる。本当にどういう仕組なんだろうこれ……
「一番右は俺が運転するから固定で、みんなの座る場所は相談して決めて大丈夫だからな」
俺はトラックに乗り込み、地図を再確認する。
するとみんなが助手席側から乗り込み、右から俺、リース、ミリア、ルカの順番で座った。
「ルカ、この透明な板は『窓』っていうんだけどこの窓から手や顔を出すのは危険だからそういうことはするなよ?」
「わかった。ボクはこのトラックに初めて乗るんだけどけっこう緊張するね」
リースも乗るのは久しぶりだろうが、ワクワクした目をしている。
ミリアも未だに慣れていないらしく、両手を膝の上において緊張している様子が見て取れる。
「ちょっと大きい音出るけどびっくりするなよ?」
そういった後、トラックから『ギュルルル……ヴォンッ』とエンジンのかかった音が聞こえる。
三人は「「「おおー!!」」」とエンジンがついたことに感動し、みんなが反射的に拍手をした。なんかこれ、修学旅行の飛行機で離着陸成功した時にみんなが一気に拍手してしまうあの現象に似ていてほっこりするな。
カーナビを操作し、行き先を登録しようとした所目的地一覧の箇所に「ストーンバレー」の文字が表示されていた。
本当に地図で場所を理解しただけで場所が分かるようになっているんだな。
窓を少しだけ開けて大地の風を感じながら俺達はストーンバレーへ目指す。
◇ ◇ ◇
暫く運転をこなしていたところ、ルカが俺に聞いてきた。
「そういえばこの間キミがボクを拘束する時に使ったあの紐っていったいなんだい? 見たことなかったんだけど」
HDMIケーブルのことだろう。うーん、言葉で説明するのは難しい。とはいえ、こちらの世界にテレビがあるわけでもなく……
とりあえず適当にあしらっておこうか。
「アレはHDMIケーブルといって、元々俺の住んでいた世界で使われていた紐なんだ。あの紐に信号……この世界で言う所の魔力に近いものかな? それを流すことに寄って薄い板に綺麗な動く絵を映すことができるんだ」
「薄い板に動く絵を……? それは、高度な幻影魔法を付与した超高級な魔導具ということでしょうか!?」
リースがシートの左側から身を乗り出して目をキラキラさせている。
「ええと、まあそんな感じだ。でも俺が持ってるのはその紐の部分だけで、絵を映す板のほうは無いんだけどな。まぁ板を持ってたとしてもさっき言った『信号』がないから絵は映らないんだが」
「そうなんですか? それは非常にもったいないです……!」
リースが本気で悔しそうに肩を落とす。
「それにしてもあの紐……両端に硬い鉄の塊みたいなのが付いてて、やけに重かったよね。キミ、あれをボクの足元に向けてすごい勢いでぶっ飛ばしてきたじゃないか」
ルカが当時のことを思い出しながら笑う。
そう、あの時はルカの素早い動きを止めるために両端の端子部分が重りになっているHDMIケーブルを噴出スキルで飛ばし、足に絡ませたのだ。そして体勢が崩れたルカを取り押さえ、元々持っていた普通のロープを使って縛り上げたというわけだ。
「……待ってください。ユズルさん」
「ん? どうしたミリア」
「そんな貴重な魔導具の部品を、ユズルさんはただルカさんの足を引っ掛けて転ばせるためだけの投擲武器として使ったんですか?」
「あ」
ミリアのジト目が俺を射抜く。リースも「ああっ! なんて罰当たりな使い方を!」と口元を押さえて驚いている。
「い、いや! あの時はとにかくルカの機動力を削ぐ必要があって……! 手持ちの軽いロープを投げるよりあっちのほうが端子に重さがあって遠心力で綺麗に足に絡みそうだったからつい! それに俺の住んでたところだと短いものだと300ゼルほどで買える消耗品だったから……」
「あははっ! キミって本当に容赦ないし、発想が規格外だよね。おかげで見事に転ばされたわけだ」
ルカがお腹を抱えて笑い声を上げる。ミリアも呆れたようにため息をつきつつ小さく吹き出した。
車内にどっと明るい空気が広がる。4人が横並びに座れるほど広くなったキャビンは快適そのもので、移動快適術もしっかりと効いているので馬車のような酷い揺れもない。
俺は笑いながらハンドルを握り直し、アクセルを軽く踏み込んだ。
◇ ◇ ◇
太陽が西の空に傾き、周囲が茜色に染まり始めた頃。
街道から少し外れた小川が流れる森の近くの開けた場所にトラックを停めた。
時刻は17時。そろそろ野営の準備を始めるには丁度いい時間だ。
「よし、今日はここをキャンプ地としよう」
「キャンプ地ですか? なんだかワクワクする響きですね!」
助手席から降りたリースが背伸びをしながら小川のせせらぎに目を向ける。
長時間座っていたとはいえ、拡張された座席のおかげで4人とも疲労は少ないようだ。
「料理を始める前に、まずは安全の確保だな」
俺はアイテムバッグをごそごそと漁り、魔除けの御香を取り出した。魔物が寄ってこないようにする便利なアイテムで、ルカと出会う前にポーションとかと一緒に10個ほど買っておいたものだ。
俺はそのうちの4つを手に持ち、トラックとキャンプスペースを囲むように東西南北の四隅に置こうと歩き出した。四方に置けば結界のようになって効果も完璧だろう。
「あれ? ユズルさん、何をしてるんですか?」
「魔除けの御香をキャンプ地の四隅に置いて、完璧な安全地帯を作ろうと思ってな」
俺が少し得意げに振り返ると、ミリアが目を丸くした後たまらずといった様子で吹き出した。
「あははっ! ユズルさん、そんなに置いたら煙たくて私たちが野営できなくなっちゃいますよ! その御香、すごく効果が強いからこの辺りの広さなら風上に一個焚くだけで十分なんです!」
「えっ、一個でいいのか? 四隅に置いた方が結界っぽくて強固になるんじゃ……」
「一個で大丈夫です! 4つも焚いたら、魔物どころか私たちまでむせ返っちゃいますよ」
ミリアに笑われ、リースも口元を押さえてクスクスと笑っている。
この世界のアイテムの常識、まだまだ勉強不足だったらしい。俺は少し恥ずかしくなりながら3つの御香をアイテムバッグにそっとしまった。
気を取り直して1つだけ御香についた紐を引っ張ると、御香から薄い煙がもくもくと立ち上がり独特なハーブのような香りがふわりと周囲に広がっていく。これで魔物の心配はなくなった。
「さて、安全も確保できたことだしボクは約束通りメインディッシュの調達に行ってこようかな」
ルカがトラックから降りるなり、懐からスッと1本のクナイを取り出した。
彼女はそのまま小川の浅瀬へと音もなく歩み寄り、ピンと立てた耳で水面のわずかな音を探るようにスッと身を低くする。
「おいルカ、水に入らずにどうやって……」
「ふっ!」
俺の言葉が終わるより早く、ルカの腕がブレた。
バシャッ! という水音とともに放たれたクナイが水面を正確に射抜く。ルカが浅瀬からクナイを引き抜くと、その切っ先には丸々と太った川魚が見事に串刺しになっていた。
「お見事です! さすがの動体視力と身体能力ですね!」
「ふふん、これくらい造作もないさ。お鍋に入れるなら4、5匹はいるだろう? すぐに獲ってくるよ」
ミリアの称賛に得意げに笑い、ルカはクナイを片手に再び水面へとしなやかに視線を落とした。あの様子なら魚の心配は全く無さそうだ。
「俺たちも負けてられないな。買ってきた食材の下ごしらえを始めよう」
「はいっ! えっと、水晶大根が3個と雪結菜が2つ、陽だまり茸が20個、それと岩塩漬けのオーク肉ですね!」
アイテムバッグから大きめの鍋と食材を取り出すと、ミリアとリースがテキパキと動き始めた。
「明日の朝もこの鍋の残りで朝食にする予定だから全部は使わずに取っておくぞ。大根は1個半、雪結菜は半分。オーク肉のブロックも半分だけ使おう」
「なるほど、明日の朝の分も計算して残しておくのですね!」
「ああ。陽だまり茸は……出汁のベースになるから15個贅沢に入れちゃって、残りの5個は明日の朝、鍋に水を足した時の味の調整用に残しておいてくれ」
俺が指示を出すと、リースが感心したように目を丸くした。
「すごい……翌朝に味が薄まることまで考えてキノコを残しておくなんて。ユズルさんお料理がお上手なんですね」
「まぁ、昔よく野営みたいなことをしてたからな」
前世の鍋の知恵だが、こうして褒められると少し照れくさい。まぁもっぱら食べてたのはコンビニ弁当とかコンビニで買ったカップ麺だが。
……いや、思い出すのはやめよう。思い出しただけで悲しくなる。
「ユズルさん、このオーク肉のブロックが保存食なだけあってカチカチです。私が半分に切り分けてもいいですか?」
「ああ、頼む。出汁も兼ねてるから半分は残してもう半分を食べやすいように薄切りにしてくれると助かる」
「分かりました! 剣の修行の成果、お見せしますね!」
ミリアが野営用のナイフを抜き、目にも留まらぬ速さで硬いオーク肉のブロックを真っ二つに割り、片方を均等な薄切りにしていく。剣士の無駄遣いな気もするが見事な手際だ。
「流石ミリア、すごいです……! 私はお野菜を洗ってきますね!」
リースは一個半の大きな水晶大根と、1つの雪結菜を抱え、ルカの邪魔にならないよう小川の上流のほうで丁寧に泥を落としてくれている。
俺はその間に石を組んでかまどを作り、鍋に水を張った。
「よし、まずは良い出汁が出るやつからだな。そのまえにミリア、悪いんだがこのかまどにファイヤーボール当てて火を付けてくれないか?」
「わかりました! ファイヤーボール!」
ボッと音が鳴る。ミリアによって作られたファイヤーボールはかまどに当たり、無事に火をつけることが出来た。
「ありがとう」と一言お礼を言うと、両手で手を振って答えてくれるミリア。
沸き始めたお湯の中に、ミリアが切ってくれた半ブロック分の塩漬けオーク肉と、旨味の爆弾である『陽だまり茸』を15個投入する。
するとキノコからじんわりと黄金色の出汁が染み出し、オーク肉の塩気と混ざり合って暴力的なほどに食欲をそそる香りが辺り一帯に立ち込めた。
「うわぁ……! すごくいい匂いがします……!」
「リース、洗ってくれた野菜も入れよう。雪結菜は手でちぎって、水晶大根は……俺が少し厚めに輪切りにするか」
洗い立ての大根をザクザクと切り、鍋の中へ滑り込ませる。葉脈の青い雪結菜もたっぷり入れた。
「あとはルカが魚を持ってきてくれれば完璧なお鍋の完成ですね!」
ぐつぐつと煮える音と温かな湯気。
少しずつ冷え始めた森の空気の中で、俺たちはルカの帰還と極上の夕食の完成を待ちわびていた。
読了いただきありがとうございます。
本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。
詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。
投稿時間については全編一括18時半となります




