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40.5話 千里の給仕道も一歩から

【重要】本作品のタイトルを一部変更しました。

転生→転移

詳しい経緯については、活動報告書にて記載していますのでご確認のほどよろしくお願いします。

「うーん……暇だなぁ」


 ユズルさん、リースさん、ミリアさん、それにルカさんがストーンバレーへ旅立ってから数日。

 主不在となったユズル邸で私、セレナは一人でぽつんと椅子に座り天井を見上げていた。


『ユズルたちが戻るまで家のことは気にせず休んでいい。4日ほど休暇をやろう』


 出発前にディッツ様からありがたいお言葉をいただき、意気揚々と休暇に入ったのはいいものの……元々体を動かして働くのが好きな私にとって四日間の完全休養というのは逆にどうしていいか分からなくなってしまったのだ。


「……よし! こんな時こそ、レイシアさんのところで勉強させてもらおう!」


 私はポンッと手を打ち、メイド服のスカートを(なび)かせながらアルベルト家の本邸へと向かった。

 本邸で給仕を務めるレイシアさんは私にとって雲の上の存在にして憧れの的だ。ユズルさんのお家での給仕にも慣れてきた今だからこそ、彼女の「完璧な給仕」を肌で学べる絶好のチャンスだと思ったのだ。


 ◇ ◇ ◇


「あら、セレナ様。本日は休暇と伺っておりましたがどのようなご用件でしょうか?」


 本邸の裏口を訪ねると、レイシアさんは乱れ一つない美しい所作で私を出迎えてくれた。涼やかな水色の髪と、一切の隙がないメイド服姿。いつ見ても惚れ惚れしてしまう。


「あ、あの! レイシアさんが普段どんなふうにお屋敷の仕事をしてるのか私に1日体験させてくれませんか!? お邪魔はしません、後ろをくっついて回るだけでいいので!」

「私の給仕体験……ですか?」


 レイシアさんは少し驚いたように目を瞬かせたが、ふわりと上品な微笑みを浮かべた。


「ええ、構いませんよ。ちょうどこれからお屋敷の清掃とお食事の買い出しに向かうところでした。セレナ様のお勉強になるかは分かりませんが、よろしければご案内いたします」

「本当ですか!? ありがとうございます、レイシアさん!」


 私は元気よくお辞儀をして、意気揚々と彼女の背中を追いかけた。

……しかし、その数時間後。私は己の考えの甘さを痛感することになる。


「はぁっはぁっ……レ、レイシアさんっ……」


 息も絶え絶えになりながら私は両膝に手をついて肩で息をしていた。

 レイシアさんの仕事量は、控えめに言って『異常』だった。

 巨大なアルベルト邸の隅々まで行き届いた拭き掃除、庭の草花の選定と水やり、そこから流れるように厨房へ移動しての食事の仕込み。そして市場へ向かい、重い荷物を両手いっぱいに抱えながらの買い出し。

 これらすべてを彼女はほとんど一人で、しかも優雅な微笑みを崩さずに完璧にこなしていたのだ。


「セレナ様、お疲れのようですね。冷たいお飲み物をご用意いたしましょうか?」


 お盆にティーセットを乗せたレイシアさんが涼しい顔で私を覗き込む。彼女の額には、汗一つかいていない。


「な、なんで1人でこんなに動けるんですか……!? 私、ただ後ろをついていくだけで精一杯なんですけど……」


 私がゼェゼェと息を切らしながら尋ねると、レイシアさんは「ふふっ」と小さく笑った。


「秘密というほどのものではありませんよ。ただ、適宜ブーストをかけているだけですね」

「ブーストって……身体強化のスキルですか!?」

「はい。家事の合間に魔力で身体能力を底上げし、効率を極限まで高めているのです。ですからこれくらいで疲労を感じることはございません。とはいえ、やはりMP消費が激しいのでブーストをつかうタイミングは考えてますけどね」


 給仕に身体強化を使うなんて聞いたことがない。

 どれほどの魔力コントロールと体力があればそんな離れ業を日常的に行えるのだろうか。


「それに……」


 レイシアさんはふと遠くを見るような、どこか凄みのある冷ややかな目を向けた。


「この場所を守るためなら、私は……」

「……え?」

「いえ、少し感傷的になりました」


 彼女はハッとしたように言葉を濁すと、いつもの優しく完璧なメイドの笑顔へと戻った


「旦那様や奥方様、そしてリースお嬢様をはじめとするアルベルト家の皆様は、私にとって何よりも大切な存在ですから。皆様が少しでも快適に過ごせるよう努めるのは給仕として当然の喜びにございます。勿論ミリア様やユズル様、ルカ様やセレナ様も同じように大切な方だと思ってますよ」

「レイシアさん……」

「さあ、セレナ様。休養も大切ですが、給仕たるものいつでも笑顔でお迎えする体力がなくてはいけませんよ?」

「は、はいっ!」


 その完璧な姿勢と一瞬だけ見えた謎の過去。

 レイシアさんという偉大な先輩の背中はまだまだ遠いなと痛感ながらも、私は残りの休暇で離れの家をピカピカに磨き上げようと改めて心に誓うのだった。

読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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― 新着の感想 ―
やっぱりメイドさんって、最強な人多いんだなぁ…( ゜Д゜)
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