40 出立の準備
方針も決まり、俺たちは意気揚々と応接室を後にした。
そのまま玄関ホールへ向かい、館の外へ出ようとしたその時だった。
「ユズル様、皆様。少々お待ちくださいませ」
背後から、よく通る凛とした声で呼び止められる。
振り返るとレイシアさんが大きな布の包みをいくつかカートに乗せてこちらへ歩いてくるところだった。
「レイシアさん? どうしたんですか?」
「旦那様から、皆様がストーンバレーで数日滞在するかもしれないと伺いました。向こうで宿が取れればよいのですが、万が一車内で夜を明かすことになった場合夜冷えしてしまうでしょう。ですので四人分のお布団一式をご用意いたしました」
「ふ、布団……!?」
俺が驚いて声を上げると、ミリアとリースも「わぁっ」と歓声を上げた。
「さすがレイシア、準備がいいですね! これならどこで寝ることになっても安心です!」
「ええ。ふかふかの特注品ですので旅の疲れもしっかり取れるかと存じます。……ただ、少々かさばってしまいますがユズル様のトラックでしたら載せることって可能ですよね?」
「もちろんです。レイシアさん本当にありがとうございます。すごく助かります」
俺が礼を言うと、レイシアさんは「道中お気をつけて」と優しく微笑んで一礼した。
俺たちはその布団セットを抱え、ひとまず広々とした庭へと移動する。
「よし、ちょっと離れててくれ。――トラック召喚!」
ズドンッ、と重い地鳴りとともにいつものトラックが芝生の上に姿を現した。
俺はトラックの後ろに回り込み、ガチャリと荷台の扉を開け放つ。
「おおー、相変わらず中は広いねぇ」
感心するルカを横目に、俺たちは手分けして四人分の布団を荷台の収納スキルに積み込んでいく。
「よし、積み込み完了だ。市場の細い道にこいつで乗り込むわけにはいかないから一旦しまっておくぞ」
再び俺が念じると巨大なトラックは光の粒子となってフッとその場から掻き消えた。
アイテムバッグの上位互換とも言えるこの『トラック収納術』本当に便利すぎる。
「それじゃあ、今度こそ買い出しに出発だ! 美味しい鍋の材料をいっぱい買いに行くぞ!」
「「「おーっ!!」」」
◇ ◇ ◇
みんなで王都の石畳を歩く。昼前ということも有り、活気が溢れている。
遠くの方から「やすいよー!」という声や、パンの香りまで漂っており、様々なところから購買意欲を奮い立てさせられる。
「ユズルさん! 見てくださいこの水晶大根、市場だと80ゼルするんですね。私の商会で扱っている卸値より少し安いです……!」
店先に並べられた大きな白い大根を見ながら、リースが真剣な顔でウンウンと唸っている。
この水晶大根、熱いスープで煮込むと水晶のように透明になって、信じられないくらい出汁を吸うらしい。絶対に鍋に合う最強の具材だ。
「へぇ、リースは野菜の相場もわかるのか。さすがだな」
「えへへ、お父様とお母様から少しずつ教えてもらっていますから。あ、隣の雪結菜はすごく新鮮なのに100ゼルでお買い得ですよ! これも煮込むととっても甘くなるんです!」
「おお……白菜みたいな野菜だな。よし、両方とも買おう。どっちも鍋には欠かせないからな」
リースの頼もしい金銭感覚に感心しながら、俺は店主に大根を2つ、雪結菜を1つ購入し、アイテムバッグへとしまう。
葉物野菜と大根を確保したところで今度はミリアが隣の香辛料や乾物を扱うテントから手招きしてきた。
「ユズルさん! キノコなら絶対に『陽だまり茸』がいいです! これから冷える時期の野営には必須ですよ。すっごくいいお出汁が出るんです!」
「おっ、いいなキノコ。4人分の出汁をしっかり取りたいんだけどどれくらい必要かな?」
俺が尋ねると、ミリアは得意げに指を数え始めた。
ミリアも指を折り曲げる派か……!
「そうですね……陽だまり茸は普通のキノコより味が濃いので、1人当たり2〜3本もあれば十分いいお出汁になります。だから、4人分なら十本くらいでちょうどいいかと!」
「なるほど」
「でも……お魚と一緒に濃いめの味付けで食べたいなら少し多めに十五本くらい入れても美味しいと思います! それに、もし余っても干しておけば長持ちしますし!」
「わかった。じゃあ朝食に使う分も含めて20本買っておこう。出汁は正義だからな」
ミリアのアドバイスのおかげで、スープのベースとなる最高のキノコも手に入れた。
「あとは肉だな。折角だから肉も美味しいものを選びたいな」
「魚もあるんだ、お肉の買いすぎには注意するんだよ?」
「分かってる。だから肉はちょっとだけ味出し用に入れるくらいにして……」
ルカが尻尾を振りながら冷やかしてくる。意外と悪戯というかちょっかいというか、そういうのが好きなのかもしれない。
肉屋の屋台へ向かうと、そこには豚肉や鶏肉によく似た肉と一緒に少し変わったものが吊るされていた。
「おや? あれを見てみなよ」
ルカが指差した先には、『岩塩漬けオーク肉』と書かれた札が立ててある。
「あれはドワーフの連中がよく食べる保存食さ。塩気が強くて旨味が凝縮されてるから、少し切ってスープに入れるだけで深いコクが出るんだ」
「ドワーフの保存食か。……よし、それももらっていこう」
これで水晶大根、雪結菜、陽だまり茸、そして岩塩漬けのオーク肉が揃った。
これにルカの取る魚が加われば異世界の食材をふんだんに使った最高の鍋が完成するはずだ。
「よし、食材はこれで完璧だな! 他に忘れ物はないか?」
俺が振り返ると、3人は「ありません!」「完璧さ!」と口々に答え、皆一様に期待に満ちた笑顔を浮かべていた。
準備は完全に整った。
「それじゃあ……ストーンバレーに向けて出発だ!」
確か地図見た時は王都を東から出てから――
そうだ。大事なことを忘れていた。就寝用にランタンを購入しようと思ってたんだった。
いくら安全だとしても荷台の中は暗いからな。かといって松明だと酸欠を起こす可能性がある。それに明るすぎる可能性もあるしな。
「あ、ちょっ違うだめだ。ちょっとランタン買おうと思ってたの忘れてたからそれだけ買いに行ってもいいか?」
「まさか忘れ物がないかを確認した人が忘れ物しているとはね。ボクはどこまでもついていくよ」
俺はガシガシと頭を掻きながら足を止めた。
来た道を戻ろうとしたらミリアが「ランタンなら私1個だけですが持ってますけど複数個必要になりますか?」と聞いてきた。
完璧すぎる……!
「すごくありがたい! 就寝する時に使いたいから、寝る時に貸してくれないか?」
「はーい!」
よし、今度こそストーンバレーに出発だ!
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