38 指名依頼
翌日。俺は朝食を終え、リビングでみんなとのんびりとした時間を過ごしていた。
ルカはソファの上でだらんと寝転がり、ミリアは真剣な表情で剣の手入れをしている。リースは全員分のお茶を淹れて、ニコニコとテーブルに運んできてくれた。
「ユズルさん。ディッツ様がいらっしゃったのでお通ししました!」
セレナの声と共に応接間へディッツさんが姿を現した。こんな朝早くから今度は一体何があったんだろう。
「朝からすまない。みんなにひとつ指名依頼を出させてほしくてな」
ふと見ると、リースがディッツさんに向かって小さく手を振っている。そうか、リースからすれば父親と顔を合わせるのはかなり久しぶりなのか。
ディッツさんもそれに気づき、照れくさそうに少し俯きながら控えめに手を振り返している。完全にみんなに見られているが、娘思いの良いお父さんじゃないか。微笑ましい光景に思わず頬が緩む。
指名依頼。依頼者が特定の冒険者を指名して仕事を頼む、ギルドではよくある制度だ。だが、俺なんかが指名されるような事があるのだろうか?
「コホン」
ディッツさんは照れ隠しのように一つ咳払いをすると、テーブルの上に地図や書類のようなものを広げた。パラッ、と乾いた紙の音が響く。
ソファでゴロゴロしていたルカも起き上がり、みんなでその資料を覗き込んだ。
「今回依頼したいのは荷物の輸送についてだ。ストーンバレーという街があるんだが、我がアルベルト商会宛てに魔石を2箱分注文していてな。だが購入元のゲインから連絡が入り、何やらトラブルが起きてすぐには運べなくなったらしい」
「ということは、俺のトラックでその魔石をこっちに運んでくればいいんですか?」
「ああ。ただ、そのトラブルがどういったものか詳細が分からなくてな。念のため、ルカ君とミリア君には可能であればそのトラブルを解決してほしいんだ。勿論、危険なら途中で引き返してくれて構わない。そして、リースにも一緒に向かってほしい」
リースが驚いたように目を丸くする。彼女はまだ商会の見習いで、戦闘能力があるわけではない。
「えっ、お父様? それはどういった意図なのでしょうか。私では皆様の足手まといになってしまいますし……」
「いや、そうじゃない。お前は王都以外の街を見ることが少ないだろう? だから実際にストーンバレーへ行き、どんなものがどれくらいの値段で売られているか、どういった商品が好まれるか……その目で直接見てきてほしいんだ。王都の中だけでは得られない知見が必ずあるはずだからな」
その言葉に、リースは指を顎にあてがいながら眉を八の字にして「うーん……」と可愛らしく唸った。
「世界を広く知る機会をいただけるのは非常に嬉しいのですが……そうなると、セレナさんが1人でお留守番になってしまうのが可哀想だなって……」
その言葉に、みんなの視線が一斉にセレナへと向く。彼女は慌てたように両手を振り「問題ないですよ!」と弁明した。
「セレナ君についてなんだが、彼女には4日ほど休暇を渡そうと思っている」
ディッツさんが地図のある一点を指差しながら説明を続ける。俺たちも「うんうん」と真剣に頷きながら耳を傾けた。
「王都からカルディアまでは馬車で本来2日ほどかかるが、ユズル君の能力だと6時間程で到着すると聞いた。距離と時間を逆算すると、ストーンバレーまでは丁度倍の距離になる。つまり、ユズル君の足でも片道12時間はかかる計算だな。
そこでストーンバレーに2日ほど滞在してトラブルについて調べてもらい、解決出来そうなら解決して魔石を持って帰ってきてほしい。だが内容次第ではお前たちの手に負えないことも考えられる。その時は絶対に無理をせず、状況の報告だけを持ち帰ってくれ。魔石も大事だがお前たちの命が最優先だ。くれぐれも無茶はするなよ……っと、少し話が逸れてしまったが。そういうわけで家を空ける期間ができるので、セレナ君には休暇を取ってもらおうという判断だ」
話は分かった。スケジュールも問題ない。だが、俺には一つだけ困った点があった。
トラックに4人が乗ることのできるスペースがないのだ。
俺の乗っているトラックの定員は3人。勿論荷台に誰かを乗せてしまえば運ぶこと自体はできるが、窓もない真っ暗な箱の中に12時間も押し込めるのはいくらなんでも過酷すぎる。
どうにかならないか……と頭を悩ませた瞬間、ふと思い出した。
(確かスキルポイントが1ポイント余ってた……よな?)
こっそりとスキルボードを呼び出して確認すると、やはり残りポイントが『1』と表示されている。もしかしたらこのポイントを使って皆を乗せる方法が見つかるかもしれない。
「ディッツさん、今日中に返事を出すので一旦待ってもらっていいですか?」
「ん、何か問題でもあったかな?」
「俺のトラック、本来人が乗れる場所が狭くて4人乗るのは厳しいんです。荷物を入れる場所に乗せる手もあるんですがそこは真っ暗なので……。自分のスキルを確認して、みんなが快適に乗れそうな解決策を見つけたら正式に依頼をお受けしたいと思います」
「そうか。分かった、吉報を待っているよ。今日は1日中本館にいるから決まったらレイシア君に話通してくれ」
ディッツさんが退室し、パタンと扉が閉まる。途端に、応接間の空気が少しだけよそよそしく、重くなったような気がした。
「あ、あのー……」
沈黙を破るようにミリアが控えめな声で俺に話しかけてきた。
「先ほどのお話を聞いていて気になったんですが、ユズルさんってスキルを自由に手に入れることができるんですか? こちらの世界では、スキルというのは生まれ持った才能のようなもので、後から新しく覚えるということは基本的にできないので……」
ルカも腕を組みながら、大きく首を縦に振ってミリアの疑問に同意している。
うーん、これは正直に言ってしまっても良いものだろうか。
だが変に誤魔化して不信感を持たれるよりは、仲間としてしっかり説明しておいた方がいいだろう。
「なんと言えばいいかな。一言で言うなら『スキルを手に入れることができるスキル』を持っているんだ。とはいっても無尽蔵に取れるわけじゃなくて、俺のレベルが一つ上がると『スキルポイント』ってのが一個増える。そのポイントを消費して、リストの中から手に入れたいスキルを選ぶような感じだな」
俺はみんなに説明しながら、目の前にスキルボードを呼び出した。
……が、みんなの視線は宙を泳いでいる。俺の目の前にあるパネルを注視している様子はない。
「今、みんなの前に俺のスキルボードの画面が浮かんでるんだけど、見えるか?」
みんなが不思議そうに首を傾げる。どうやら、このシステム画面は俺にしか見えない仕様らしい。
「そうか、俺だけが見えるようになっているらしい。実は、ミリアが恐らく疑問に思ってたと勝手に思ってる出来事があって、『どうして一度来ただけのカルディアから王都へ迷わず帰れて、またカルディアまで来られたのか』ってのも道案内ができるスキルを新しく手に入れたからなんだよ」
「言われてみれば確かにそうですね……。そういう能力だったなんて、驚きました」
目を丸くするみんなを横目に俺はスキルボードのリストをスクロールする。
さて、4人をトラックに乗せられそうないい感じのスキルは無いだろうか。
するとある一つのスキルが目に飛び込んできた。
【車体サイズ変更(必要ポイント:1Pt)】
・対象車両のサイズを自在に拡大・縮小できる。
・最大拡張:トラックのサイズを最大で『2倍』まで拡張可能。これにより、規格外の巨大な荷物も積載可能となる。
・最小縮小:対象車両を『手のひらサイズ』まで縮小可能。
(車内に人が乗っている場合は安全のため『軽自動車サイズ』が下限となり、乗車人数に応じて自動で最小サイズが調整される。なお、他のスキルで荷物を取り出す際の荷物は元のサイズのまま取り出されます)
これは面白そうだ! トラックのサイズを最大で2倍まで増やせるということは単純に車幅やシートの長さも倍に広がるということだ。それなら定員3人のキャビンでも四人旅が全く問題なくこなせるぞ。
「よし、ちょっと面白いスキルを手に入れたぞ。百聞は一見に如かずだ。庭で実験しよう」
俺たちは連れ立って庭へと足を運んだ。
さて、うまくいくかどうか……。
「――トラック召喚!」
ズドンッ! と重い地鳴りが響き渡り、いつものトラックが芝生の上に姿を現す。
「ここからだ。サイズ変更1.5倍!」
俺が念じると車体がミシミシと不思議な音を立てた。次の瞬間、金属の塊であるはずのトラックがまるでゴムのようにググッと横に引き伸ばされ、一回り以上も巨大化したのだ。
運転席のドアを開けてみると、本来のシートが横に長く伸びておりもはやちょっとしたリビングのソファ状態になっている。見た目の違和感はものすごいが、これなら間違いなく四人全員でストーンバレーまで行くことができる。
「ユズルさん、トラックさんが大きくなりました! これが先ほど言っていた能力ですか!?」
リースが目をキラキラさせながら、巨大化したタイヤを見ている。
「ああ、そうだ。最大で本来のサイズの2倍まで大きくできる。それと……よっと。ほら、逆にこうやって手で持てるくらいのサイズまで小さくすることもできるようになったんだ」
俺がトラックを手のひらサイズまで縮小して見せると、ルカがケラケラとわらいだした。
「またこの人変なスキル手にいれたよ……なんというか、本当に規格外だね」
「これで移動の問題は完全にクリアだ。俺はディッツさんの依頼を受けようと思うんだけど、みんなはそれで大丈夫か?」
俺が問いかけると、3人は顔を見合わせ力強く頷いた。
「はい、大丈夫です!」
全員の意思が固まった。これなら問題ないだろう。
「よし。それじゃあ本館に行ってディッツさんに吉報を届けてこようか」
読了いただきありがとうございます。新たに能力が追加されましたので、現在所持してるスキルを再掲させていただきます。
・言語翻訳
・アイテムバッグ
・MP無限化(車両系スキルに限る)
・トラック召喚
・トラック収納術
・魔素燃料化
・トラック移動快適術
・トラック透明+消音化
・荷物噴射
・異世界カーナビ
・トラックサイズ変更
本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。
詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。
投稿時間については全編一括18時半となります




