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35 もふもふもふもふ

 俺は合計15体のゴブリンを倒し、ミリアと一緒に王都へ戻った。

 時は丁度昼前。上を向くと太陽がもう少しで真上に差し掛かろうとしている。


 ミリアも居るしリースへの普段のお礼を買いに行こう。

 ゴブリン退治の時にふと思いついて、もしかしてプレゼントに使えるかなと思ってガラスのコップを取り出してみたが、特に装飾の無いコップだったからアイテムバッグに移したんだよな。

 折角渡すプレゼントだ。リースが喜びそうな物が欲しい。


「なぁミリア。いきなりで悪いんだが、リースへいつもの感謝に何か贈りたいんだけど付き合ってもらってもいいか?」

「大丈夫ですよ。何かあげるものとか決めてるんですか?」


 可愛いもの好きということ以外は何もわからないからどうしたものか……

 無難にストラップとか、ぬいぐるみとかか?


「うーん、それがまだ何を贈ろうか決まっていないんだ。一応の候補としてはストラップとかぬいぐるみとかが合うかなと」

「ぬいぐるみいいですね! きっと喜んでくれると思います!」

「よし、なら決まりだな。ちょっとぬいぐるみ売ってる店を教えてほしいんだが……」


「まかせて!」と一言発し、ミリアが俺の前を先導する形で先に歩みを進める。

 一緒に進むと、少し空気が変わったのを感じる。先程まではがやがやとしていたのだが、一本通路を横にそれるとガヤガヤとした空気感はぐっと減り、非常に静かな街並みへと変貌する。

 

 暫く進むとショーウインドウにぬいぐるみの飾られた店をみつけた。

 クマのぬいぐるみやウサギのぬいぐるみ、変わり種かスライムやゴブリンをデフォルメしたぬいぐるみまで置いてある。


 ミリアがくるっと振り返りこちらを見てくる。


「ここが王都で有名なぬいぐるみやさんです! 他のぬいぐるみやさんと比べて作りが丁寧なのか、ぬいぐるみが長持ちすることで有名なんですよ!」


 扉を押し開ける。カランコロン、と心地よいベルの音が鳴った――その直後だった。


「うおっ!?」


 俺は思わず後ずさり、腰の剣に手を掛けそうになった。

 扉を開けた真正面。俺たちを見下ろすようにそびえ立っていたのは、体長二メートルはあろうかという巨大な『フェンリル』だったからだ。

 伝説の大狼。野生で出会えば即座に死を覚悟する巨体だが……目の前にいるこいつからは、殺気どころか圧倒的な『癒やし』のオーラが放たれていた。


 鋭い牙も柔らかいフェルトで丸く作られ、本来なら威圧感を与えるはずの毛並みは触れれば沈み込みそうなほどの極上の『もふもふ』にアレンジされている。


「びっくりした……。それじゃあリースへのお土産を探すか」


 気を取り直して、俺たちは広々とした店内を見て回ることにした。

 棚には様々な魔物や動物のぬいぐるみが所狭しと並んでいる。無難にウサギや猫のぬいぐるみにしようかと迷っていたその時だった。


「……ん?」


 店の一角、少しだけ高級そうなガラスケースの中に飾られていた『それ』に、俺の目は釘付けになった。


 以前会ったネコエルと同じように太陽に当てられた柔らかなクリーム色をして、指が埋もれてしまいそうなほどふわふわの毛並みを持った犬のぬいぐるみ。

 頭には月桂樹を模したような葉っぱの冠、足首にもお揃いの飾りが丁寧に縫い付けられている。

 一見すると神々しい幻獣のようだが、ピンク色の舌を「へへっ」と出したような表情がなんとも言えない愛嬌を醸し出していた。

 サイズ感も申し分なく、おそらくリースが抱きついたら丁度手が後ろで重なるほどの大きさだろう。


「あ、それすごく可愛いです! 神様の使いみたいで、リース様にぴったりじゃないですか?」


 ミリアも横から覗き込み賛同してくれた。


「ああ、そうだな。上品だけど、どこか抜けてて可愛い……うん、これにしよう」


 その犬のぬいぐるみをみると、値札のところに名前が書いてある。


『ムゲンのぬいぐるみ』


 ムゲンってなんだろう? そのまま「無限」ということなのか?

 その下を見るとぬいぐるみの説明が書かれていた。


――

 店主の作った犬の神様です。

 ぬいぐるみと関わったすべての方が無限に幸せになってほしいと願い、ムゲンと名付けました。

 ふわふわとしててオススメの一品です!

――


 なるほど、ぬいぐるみの神様なのか。

 ちょっと高かったが留守番をしてくれているリースが喜ぶ顔を想像すれば安いものだ。

 俺はその温かな表情をした犬のぬいぐるみを手に取りレジへと向かった。


 ◇ ◇ ◇


 俺達は家に到着するとリースがお出迎えしてくれる。


「ユズルさん、ミリア、おかえりなさい! ご飯できてますよ!」

「おう、ただいま!」

「リース様ただいまです!」


 相変わらず玄関にまで美味しそうな香りがしてくる。


 みんなで食堂に行き、いつもの席へと座り込む。

 いつもならおかわりをしてゆっくりと味わうところだが、今日の俺は食事中もどこかソワソワと落ち着かなかった。


「ごちそうさま! リース、今日も最高に美味かったよ」

「ふふっ、お粗末様でした。……でもユズルさん、今日はなんだかやけに食べるのが早かったですね?」


(そうだろそうだろ。もうどんな反応するのかが楽しみで仕方がないんだ……!)


 不思議そうに小首を傾げるリース。

 全員が食べ終わり、食後の温かいお茶で一息ついたタイミングを見計らって俺はゆっくりと立ち上がった。


「実はさ、リースに渡したいものがあるんだ。リース、ちょっと目を閉じて待っててくれないか?」

「え? 渡したいもの……?」


 きょとんとするリースを座らせたまま、俺はこっそりとアイテムバッグからあの大きな包みを取り出した。

 緊張からか、リースの手はぎゅっと握られており、回りのみんなも静かに俺の方を見てくる。


「よし、目を開けていいぞ」


 そぉっとリースは目を開ける目の前には大きくラッピングされた綺麗な何かがある。

「いつものお礼だ、是非受け取ってほしい」と俺はリースに伝えると、その小さな手で大きなラッピングを受け取る。


「開けてみてもいいですか?」

「おう。俺はリースのお陰で毎日が楽しく過ごせて、こうやって友達もたくさん増えた。その感謝と、これからも一緒にリースと過ごしていけたらなって思ってな」


 リースが丁寧に包みを開くと、中から現れたのは彼女の身体を半分隠してしまいそうなほど大きなクリーム色の『ムゲン様』のぬいぐるみだった。

 威厳がありそうな月桂樹の葉を模した冠を被っていながら、そのつぶらな瞳や「ご飯くれよ!」と言っているようにだらしなく開いた口元が神様の威厳とは裏腹にたまらない愛くるしさを放っている。


「リースってほら、可愛いもの好きだろ? この間会ったネコエルとか、うさぎの便箋もすごく気に入ってたし。……留守番中も寂しくないように、これなら喜んでくれるかなって」


 俺がそう言うと、リースの大きな瞳がパチクリと瞬き、やがてじわっと潤み始めた。


「あっ……ありがとう、ございます……っ!」


 リースは弾かれたようにぬいぐるみに飛びつくと、思い切りそのふわふわな身体を抱きしめた。

 彼女の華奢な腕では、後ろでようやく指が届くほどの特大サイズだ。リースの顔はすっぽりと胸元の毛並みに埋もれてしまう。


「はい……! とっても、とっても嬉しいです……! ユズルさん、私がお留守番している時も、私のこと考えてくれてたんだって……」


 顔を埋めたままのくぐもった声は嬉しさで少しだけ震えていた。


「ほらね、言っただろう。彼はキミのことをちゃんと大事にしているって」


 ルカがやれやれと肩をすくめながら、俺にチクリと活を入れてくる。


「……ユズル君。リース君のことは、これからも大切にするんだよ」


 勿論だ。彼女が居るから今の俺があるんだ。大切にしない理由なんて無い。


「ユズルさん、リース様すっごく喜んでくれて本当に良かったですね!」

「おう。ミリアも選ぶの手伝ってくれてありがとうな」


 ニコニコしながらミリアもこの結果を自分のことのように喜んでくれている。

 セレナさんも何も言わずにずっと温かく微笑んでいて、無事にプレゼントを渡せたことを祝ってくれているようだ。

 お礼を言うのはこっちだよ。いつも俺の帰る場所を作ってくれてありがとう、リース。


 ◇ ◇ ◇


 夜。私は自室に戻るなり、もらった特大のぬいぐるみをベッドに放り投げ、自分もその後を追うように思い切りダイブしました。

 とてもふかふかしてて、抱きしめているだけですぐに寝てしまいそうになります。


 ――でも、今はそれどころじゃありません!


「あぁ〜〜〜っ! 私ったら、ルカさんの前であんなにネガティブになっちゃって……っ! すっごく恥ずかしいですっ!!」


 私はわんちゃんの極上の毛並みに顔を思いっきり押し付けて、誰にも聞こえないように「むーっ!」と叫びながらベッドの上で足をバタバタバタッ!と激しく上下させました。

 それでも高ぶる気持ちが抑えきれず、大きなぬいぐるみを抱え込んだまま掛け布団をぐるぐると体に巻き付けてベッドの上を右へ左へとゴロゴロ転げ回ります。


 ユズルさんはちゃんと、私のことを見てくれていた。

 私の好きなものを覚えていてくれて、わざわざお土産に選んでくれた。


 その事実が頭に浮かぶたび、自然とにやけてしまう口元を隠すように、またわんちゃんに顔をぐりぐりと埋めて「んん〜〜っ!」と足をジタバタさせてしまいます。


「……ふぅ、ふぅっ。ちょっと、暴れすぎちゃいました……」


 すっかり乱れてしまった髪を直しながら仰向けになると、自分の体よりも大きく感じるわんちゃんが私の胸の上に乗っかる形になりました。

 つぶらな紫色の瞳が私を見下ろして「へへっ」と笑っているように見えます。なんだか、いつも優しく頭を撫でてくれるユズルさんの笑顔と重なって見えて……。


「――っ!!」


 急に顔がカッと熱くなった私は、耐えきれずにぬいぐるみの背中で自分の真っ赤な顔を隠すようにして、今度こそ布団にすっぽりと潜り込んだ。

読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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