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34 ずるいこと、ずるくないこと

 ミリアがひとしきり泣いて数分。彼女は深く深呼吸をし、顔を赤くし俺から少し距離を取る。


「もう……本当に心配したんですからね。無茶なことだけはしないでください」

「大丈夫だ。心配かけて悪かった」

「結果はどうあれ無事にゴブリン倒すことが出来ましたね、おめでとうございます! ちなみにクナイを発射するアレを使ったらもう少し楽に倒せたと思うのですが使わなかったのですか?」


 荷物噴出のことだろう。うーん……勿論使っても良かったんだが、なんか違うっておもっちゃったんだよな。


「うーん、なんといえばいいんだろう。勿論使っても良かったんだけど、それだと俺自身の戦闘スキルの上昇を見込めない気がしてな。だから剣で行けるときは剣で行こうと思っていたんだ」


 ミリアが不思議そうな顔をする。

 彼女が再びこちらへ近づいて来た。


「えっと……そもそもトラックはユズルさんのスキルです。確かに『スキルに頼ると自分が強くならない』という感覚は間違いでは無いですが『スキルを含めた自分』は確実に強くなります。もしトラックに頼ることをズルいことだと思ってるならその考えは捨ててください。そのトラックはユズルさんの能力です。頼りすぎるのはいつか身を滅ぼしますが、頼ることで戦闘の幅が大きく変わりますからね」


『トラックはユズルさんの能力』か。

 女神様からもらった能力だから無意識のうちにトラックはトラック、俺は俺として切り離して考えていたのかもしれない。

 

「ほら、ユズルさん。あそこにもゴブリンいます! 今度はトラック使いながら倒しましょう!」


 数十メートル離れたところにゴブリンが居る。

 俺は俺とミリアにだけ見えるようにトラックを召喚し、トラックに乗りかかる。

 エンジンをかけ、トラックをゆっくりとゴブリンの方へと持って行く。

 ゴブリンまでのこり五メートルほどの距離に近づいた所で俺はクナイをゴブリンに発射する――!


 ゴブリンからしたら何もない空間からいきなりクナイが飛び込んできたように見えるだろう。クナイはグサリとゴブリンの心臓を突き刺し、ゴブリンの死体は魔石へと変化した。


(いやいやいや、これは確かに強いけど……スキルを含めた自分だけど――ずるい!!)


 ミリアの元へ俺は駆け寄り、彼女にやったよ! と報告しようとした所、ミリアが深妙な顔つきでぼそっと呟く。


「ユズルさん……前言撤回します。やっぱアレずるいです!!」


 分かるよ。俺も正直凄くずるいと思っていたところだ。

 音もなく近づいて至近距離からクナイを投げられる。大体の魔物は対処出来まい。

 なんとも言えない微妙な空気になってしまう。するとあまりにもその空気がおかしくなって俺は笑ってしまった。


「ははっ」

「どうしたんですかユズルさん?」


 ミリアが俺の顔を見ていきなり笑ったことについて疑問をぶつけてきた。


「ミリアも同じことを考えていたんだなと思ったら、笑いが止まらなくなってな。俺もやっててすげぇずるいっておもったから」


 ミリアもそれを聞いて可笑しくなったのか、笑い始める。

 よし、もういっちょゴブリン退治していくか!



 ◇ ◇ ◇


 朝ごはんを食べ終わり、ユズル君とミリア君が連れ立って家を出ていった。

 新しい魔物を倒しに行くらしい。

 わざわざ魔物の名前を伏せていたあたり、恐らくゴブリン討伐だろう。ミリア君なりのリース君の過去への配慮といった所だね。


 ボクは朝食の時からずっと気になっていたことをリース君に聞いてみることにした。

 洗い物をしているリース君の横顔は、どこか上の空で思い詰めているように見える。


「リース君。嫌なことでもあったなら相談に乗るよ?」

「あ、ルカさん。いえ、ちょっと考え事をしていただけなので気にしなくて大丈夫ですよ! 心配かけてごめんなさい」


 ボクの視線に気がついたリース君は無理に明るい笑顔を作って見せた。

 だけどボクの目を誤魔化せると思ったら大間違いだ。無理して笑っているのなんてお見通しだよ。


「……ユズル君のことかい?」


 小声でそう囁いた途端、リース君の肩がビクッと跳ねた。図星だね。

 うーん、これはボクが一肌脱ごうか。


「ねー、セレナ君。ちょっとの間リース君を借りてもいいかい?」

「大丈夫ですよ!」


 隣で片付けをしていたセレナ君があっさりと許可をくれる。リース君は戸惑ったように「えっ、えっ?」と濡れた手をバタバタさせていたがそんなのはお構いなしだ。

 ボクはそのまま、リース君を自分の部屋へと連れ込んだ。


「えっと、ルカさん……一体どうしたんですか?」


 部屋に招き入れられたリース君は借りてきた猫のようにこじんまりと身を縮めている。


「ユズル君と何かあったの? ボクからしたら、考え事というより悩み事をしているように見えたんだ。おせっかいだと思ったらごめんね。でも困っているなら解決してあげたいから教えてほしいな」

「うーん……」


 彼女は口に出すのを恥ずかしがっているのか、ずっと唸っている。


「もちろんこれはここだけの秘密さ。誰にも話したりしないよ」

「……えっと、ですね」


 ようやく覚悟を決めたのか、リース君は両手をぎゅっと胸の前で握りしめ、ぽつりぽつりと話し始めた。


「最近ユズルさんの周りに色んな人が増えて、お手伝いをしてくれるようになりました。勿論とても嬉しいのですが……なんと言えば良いのでしょうか。私なんか、ユズルさんのそばに居ても良いのかなって思い始めちゃって……」

「おや? ボクから見れば、ユズル君はリース君のことを一番大事にしているように見えるけど。どうしてそんな事考えちゃうんだい?」


 ボクは素直な疑問を口にする。

 誰の目から見ても、彼が一番大切にしているのはリース君だ。彼女が悩むような隙なんて無いと思うのだけれど。


「ユズルさんとお話する時間が前よりも減ってしまって……。他の方がユズルさんと一緒に過ごす時間が長くなっているから、もう私のことは要らなくなっちゃったのかなって……」


 彼女の表情が朝食の時と同じように暗く沈み、顔を伏せる。

 なるほど、キミはユズル君のことを――。

 まぁそれをここでそれを指摘するのは無粋というものだね。


「うーん、ならこの間みたいにデートに誘ってみたらどうかな? ほら、猫ちゃんと遊んだり果実水を一緒のベンチで飲んだり、本屋に寄ったりしていたじゃないか。彼はきっと喜ぶはずだよ」


「デ、デート!?」


 リース君は顔を真っ赤にして文字通りその場でぴょんと飛び跳ねた。

 いやはや、初心(うぶ)な子ってどうしてこうも可愛いんだろうね。


「け、検討はしますが……というかなんでルカさんがその事を知ってるんですか!? あれはデートではなく、ユズルさんが王都を知らないから案内をしていただけで――!」


 恥ずかしさで体温が急上昇したのか、リース君は自分の両手を団扇代わりにしてパタパタと顔を扇ぎ始めた。


「あの時はまだネイマール商会側に居てユズル君の動向を探っていた時期だったからね。ほら、本屋さんでユズル君が『なにか視線を感じる』みたいなこと言ってたでしょ? あれ、ボクだよ。……バレそうになった時はちょっと焦っちゃったけど」

「~~~っ!!!!」


 声にならない悲鳴を上げながら腕をブンブンと振り回すリース君。その初々しい反応を見て、ついほっこりしてしまう。

 やっぱり彼女はこうして元気がなくちゃいけないね。かと言ってずっと元気すぎてもへばっちゃうから、このくらいの緩急は必要だけれど。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 ひとしきり暴れて(?)、荒く呼吸をするリース君。やがて彼女は少しだけスッキリしたような顔でボクを見た。


「でもそうですね……。私、ちょっと色々考え直してみます! ルカさん、ありがとうございました!」


 パタパタと部屋を出ていく小さな背中を見送る。

 さぁて。今日やることなくなっちゃったや。でも彼女が元気になったんだ。家に残って話を聞いてあげてよかったよ。


「恋する乙女よ、頑張れ」


 彼女が居なくなったのを確認してからボクは小声でそう言い残し、日差しに抗うよう目を細めて外を見る。


(今日もいい天気だなぁ。暇になっちゃったしどうしようかな)


 鼻歌を出しながら部屋を出るボクの尻尾は、大きく揺れていた。

読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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