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錬金術師のポーション屋。疲れたときはやっぱりこれ  作者: ChaCha


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収束する悪意と、盾の報告。


コトン。


空になったガラスの小瓶が、木目のテーブルに置かれる。


青ざめた顔のギルド職員が、無言で壁際へ下がった。

その足音だけが、やけに響く。


アトリエを満たす、重たい静けさ。


店主が頷き、メテスに続きを促した。


「……森の奥に、広場があった」


低い声が落ちる。


「忌み子の血と魔力を強制抽出する術式だ。陣を描き、魔物を編み上げていた」


医療班のリーダーが、息を呑んだ。


「魔力を抽出して、魔物を産み出すだと? そんなもの、人が扱っていい術式ではない」


リヒャルトが、冷たく鼻で笑う。


「倫理で国が動くとでも? 現に、あの娘の身体には神殿の祈祷を餌にする呪いが植え付けられている。呪いで国王を弱らせ、一方で忌み子を苗床に軍隊を量産する。吐き気がするほど効率的ですね」


執政官の顔色が、さっと土気色に変わった。


だが、メテスの報告はそれだけでは終わらない。


「……苗床は限界が近い。次の群れが放たれるまでの猶予は」


一拍。


「……三日だ」


誰も、すぐには声を出せなかった。


「帰路で、別動隊を見た。ルナとネスを引き取ると言い出した、あの貴族たちだ」


執政官が、はっきりと眉を寄せる。


「その二人は誰だ」


ギルド長も顔を上げた。


「……何が関係ある」


店主の目が、鋭さを増す。


「奴らの外套には、広場の陣と同じ汚れが纏わりついていた」


リヒャルトが、黄金の睫毛を伏せた。


「……なるほど。利権だけの話ではないのですね」


執政官が、苛立ちを隠さず遮る。


「だから、その二人は誰だ」


「あの二人は、ドバドバ鉱山の正当な配当金保持者です」


ギルド長の眉が跳ねた。


「……あれか。王都から監査が来た時の件か?」


壁際で気配を消していたギルド職員が、びくっと肩を跳ねさせた。


執政官の視線が、そちらへ流れる。


「お前、知っているのか」


「し、知ってるっていうか……」


ギルド職員は引きつった顔で口を開いた。


「王宮から監査が入って、その最中に廃坑の件まで噴いて、そこへ姫様まで来て……姫様が消えて、虫の魔物が出て、領主様が狙われて……」


そこで息が詰まる。


「……で、やっと姫様を王都へ返したと思ったら、今度は国王陛下の病に繋がる娘さんの件で、また白亜まで来る羽目になって……」


ギルド職員はそこで口をつぐみ、胃のあたりをさすった。


ギルド長の顔から、じわりと血の気が引いた。


「……あの時の全部が、まだ繋がっていたのか……」


執政官は何も言えないまま、こめかみへ指を押し当てた。


リヒャルトの目が、一切笑っていなかった。


「あの二人は、利権の名義人です。それだけで充分、狙う理由になる」


薄い沈黙のあと、さらに続ける。


「それだけではありません。連中からすれば、廃坑での予定を崩した目障りなイレギュラーでもある」


執政官が、ゆっくりとギルド長を見る。


ギルド長も、苦い顔のまま見返した。


それで足りた。


リヒャルトが、静かに言う。


「奪われた利権を奪い返し、自分たちの盤面を崩した子供を消す。……同時に、あちら側にとってこの白亜も邪魔なのでしょう。縄張りを潰され、手の内を乱され、予定を狂わされた。この場所が目障りで仕方ないはずだ」


執政官が、息を吐いた。

吐いたというより、崩れかけた呼吸を無理やり押し出したような音だった。


「……ふざけるな」


誰へ向けたものか、自分でもわかっていない声だった。


壁際で、ギルド職員がそっと目を逸らした。


娘の件を確かめに来た。

そのはずだった。


それなのに、次の襲撃の猶予も、火種の場所も、悪意の繋がりまで突きつけられた。


ギルド長が、震える手でテーブルを叩いた。


「そこまで……そこまで連中は……っ!」


その衝撃で、テーブルの端から空の小瓶がカツンと床へ落ち、短く転がる。


店主が、鼻で笑った。


「……だから言っただろう。変数を潰す必要があると」


低い声が落ちる。


「……見えた。だが、これは病じゃない。領地へ持ち込まれた火種だ」


店主の目が、リヒャルトへ向く。


「リヒャルト」


「はい」


「……お前の得意分野だ」


リヒャルトの微笑みが、深くなる。


「承知いたしました。……お安くはありませんよ、執政官殿?」


執政官とギルド長は、ゴクリと喉を鳴らした。


「……メテス。先ずは風呂と飯だ」


メテスが頷いて歩き出す。


その頭に、店主の手が一度だけ触れた。


「……よくやった」


メテスは、わずかに頷いた。


「あっ! 領収書を忘れてた!!」


壁際から、ギルド職員が弾かれたように声を上げた。


「追加でご入用ですか?」


リヒャルトが、金色の小瓶をすっと並べながら尋ねる。


「箱買いする」


ギルド長が即答した。


「定期契約はあるかね?」


執政官もそれに続いた。



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