二人の調査結果
第十章 琉惟と冬哉の場合
一方、その頃琉惟は昼食と休憩を取りつつ、自前のノートパソコンで『男爵』とやり取りをしていた。
「上織村の、教会の地下室に行ってきた。
あそこはいろいろと不審な点が多い。 何のための場所なんだ?」
チャットルームでそうタイプして、紙コップにはいったブラックコーヒーを飲む。
『ふむふむ、どうやら君たちにはそう言う資格があるみたいだね。
それで、その教会の地下の謎はどうだったかな?』
「銀行の金庫並の大きさの扉の前までしか行けなかった。
教会の入り口を開けるために解いた謎で思ったが、あそこは地上と地下部分の電気の供給が違うな?
なんのためなんだ?」
『そりゃ、もちろん簡単に入られない為さ。
だがいいことに気付いたね。
ああ、そうだ。君は行くつもりかしらないが、もし行くのなら君の家にプレゼントを送っておいた。
あの村に行くとき、是非とも使ってみてくれたまえ。
ちなみにそのパソコンも持っていくんだよ?』
『男爵』の意外な問いかけに、琉惟はさっと周りを見た。
だが、やはり誰もいない。
「俺を見張っているのか?」
『馬鹿な! そんな労力は使わないよ。
ああでも確かに君を今見てるよ?
君の右側の天井近くに監視カメラあるでしょ?
それにハッキングして、見ながら話してるねぇ』
「お前、よく警備会社にばれないな」
『間抜けな馬鹿どもが悪いのさ☆
この天才にはなかなか敵わないと思うよ?
褒め称えてくれたまえ』
「話が逸れた。 本題に戻ろう。
それで、あの詩は場所を示しているんだろう?どこなんだ?」
『それは自分たちで解きたまえ。 僕はあくまで助言はするがね。
傍観者でいたいんだよ。 何故って?
それは僕も金糸雀組の一人だからさ』
琉惟はしばらく考えてから答えを導きだした。
「それはつまり、お前の記憶も操作されてるってことか?」
『ご明察。 まあ、あの館で行われていたのは洗脳と、記憶操作。
塾なんて体のいい嘘さ。
学校内でも特に成績がいい生徒たちを集めて、いろんなところから集められた研究者たちが、子供たちに実験する忌まわしい所さ。
だが僕だって、なにもしなかったわけじゃない。
香月ちゃんのデータをもとに、僕はいろんなところに潜り込んで情報を集め、まとめ上げていった。
それがこの前渡したデータだ』
「なるほど、それなら香月さんがメモリーディスクに保存していたデータも持っているのか?」
『ああ、持っているよ。
彼女は結婚に踏み切るまでかなり悩んでいた。
悪夢に囚われていたんだね。
結婚していいものか、母の愛を知らない自分が、果たして家族を持ったとき、自分がそうであったように捨てるんじゃないかってね。
だから僕が提案したのさ、
「君の探っている全てを今は僕が引き受ける。
その代り、もし何かあったら僕は自分の保身をはかるし、誰かにこれまでのことを、丸投げするかもしれないが、それでもいいかい?」ってな具合にね』
「それで、香月さんは本当に姿を消してしまった」
『まあ、彼女は特別扱いされてたからね。
そして不幸にも彼女の前段階、実験台として選ばれたのが里中茜だった。
結果として、茜ちゃんは失敗だったが、その失敗から少なくとも候補者である六人の命は、その場しのぎでしかないが助かった。
だが、まさか責任者である奴が細工していたとは……。
誰も気づかなかったようだ』
記憶を操作されていると言う割には、男爵はよくしゃべる。
琉惟は思い切ってその点を指摘した。
『ああ、それはね。 僕にされた洗脳とか記憶操作が完璧じゃなかったからさ。 選ばれた七人の子供は特に影響を受けやすい子供、そして僕みたいな半端者は影響が少ない子供だってことだよ。
まあ、普通ならその時点で金糸雀組から外されるけど、僕の場合IQ値が高かったから、金糸雀組に残留していたんだ』
「それで、他に情報はないのか?」
『今のところこれだけしか覚えてないね。
だからまた何か情報があったら教えるよ。
おっと、時間だね。 じゃあ仕事を頑張ってくれたまえ』
「ん」
琉惟は腕時計を見て、珈琲を一気に飲んでノートパソコンをシャットダウンした。
冬哉はというと、浅生と会う約束をして、昼間にカフェにいた。
くすんだ金髪を髪留めでアップにして、えんじ色のセーターの上に白い厚手のコートをきて、耳に大きなゴールドのリング型のピアスをした浅生がすっと席に着いた。
「こんにちは、ところで要件何?」
「ええ、昨日あなたたちが集められた村に行ってきました。
友達のパソコンに『男爵』が送りつけてきてくれた資料や、地図をもとにね」
「そう、それで何か進展あったの?」
「いえ、男爵の教えてくれた最後の詩とか。
その詩をもとに教会に行ってみたんです。
そしたらものすごい秘密があって。信じられないことに地下に通路や金庫みたいな扉があったんです」
「なるほどね。
まあ私はよくわからないけど、あなたたちなら真相に迫れるんじゃない? あなたこれの中から一枚引いてもらえる?」
差し出されたのは背に魔法陣の模様が描かれた長細いカード。
「タロットですか?」
「まあね。一応占いやってるからさ」
「じゃあ、これ?」
すっと一枚のカードを引いてみる冬哉。
そのカードは天上に星が輝き、またそれを崇めるかのように少年と少女が手を差し伸べていた。
「まあ、やっぱりね。そのカードは十七番目のカードで『星』。
キーワードは希望の光よ。
何かが動き出すサインってところかしら」
そう言ってすべてのカードを伏せて、混ぜながらカードをまとめ、何枚かずつ規則正しく並べていく。
「ねえ……香月ってもしかして妊娠してない?」
告げてないことを当てられて、冬哉は瞠目した。
「ええ、今妊娠三か月です」
「女帝のカードなんだけどね。 このカードは母性のシンボルなのよ。 だから絵柄に妊娠している女性が描かれるの。
それで現在の状況の位置に、吊るされた男のカードが正位置ででてるわ。 これは現状は今はあまりいいとは言えないけど、いつか打開できるみたいだから忍耐を持つべきという暗示ね。
本人が抱いている意識、これには月のカードの逆位置が出てる。
自分でもよくない状況や見えない敵と戦っているみたい。
月もまた女性の母性の象徴だし、これはなにか心に迷いや不安があるんじゃないかしら。
あら、やっぱりね。 本人の本音を示すカードにクラブの六の逆位置がでてる。 まぁ、長くなったけど、問題解決の近道は探究ね。
探すことよ、諦めずに、貪欲に」
隠者のカードを指でつつきながら、浅生はすぐさまカードをまとめて箱の中にしまった。
一連の説明をキョトンとして、聞いていた冬哉は間抜けな返事をした。
「はあ」
「呆れた。 ただで占ってあげたのに、あなた人の話聞いてた?」
「ええ一応、ただ正位置とか、逆位置とかわからなくて」
「わかる必要はないわ。 言ったことだけ覚えといて。
香月は不安がってる。 だから助けを求めてるわ。
そしてあなた達がすべきことは探しまくることよ」
浅生は「それじゃ」と、短く言って席を立った。
そのまま冬哉もすぐに会計を済ませて仕事場に戻った。




