翠の神骨 ―秘め川の誕生―
翠の神骨 ―秘め川の誕生―
石がちな海辺で、波に濡れて白く碧くきらめく石たち。
拾い上げてみるその石はひやりと冷たく、驚いて放り投げると、それはキンと高い音を立てて、他の石をカチリと割った。
男は、砕けた石のかけらを呆然と見つめた。手の中に残る、凍みるような冷たさの記憶。あるいは、耳を貫いたあの天上の風鈴のような響き。この妖しく美しい石は一体何なのだろうか。
その源流を求めて川沿いを辿り、山間の峡谷へと踏み入ると、暗緑色の大蛇に守られるように抱かれた、翠を纏う白い翡翠の巨塊がそこにあった。
行く手を阻むようにうねる、大蛇のごとき艶めかしい蛇紋の巨岩。その湿った深緑の裂け目に抱かれ、一切の風化を拒むように鎮座する、雪のように白い岩塊。
男は畏怖に身を震わせながらも、吸い寄せられるように歩み寄った。
おそるおそる手を伸ばし、大蛇の鱗をすり抜けて、その白い背に触れてみる。やはり、あの海辺の石と同じだ。川霧に濡れて生温かい周囲の岩肌とは違い、この巨塊だけは、大地の底の冷気をそのまま湛えている。いくら擦っても叩いても、表面の微細な結晶はチカチカと輝きを増すばかりで、傷一つつかない。
男は跪いたまま、目の前のその大蛇の骨を仰ぎ見た。このままでは持ち帰ることは叶わない。叩けば槌が砕け、穿とうとすれば刃が零れる。しかたなく、あたりにいくつか転がっていた巨塊の体から零れ落ちたのであろう、掌ほどの大きさの美しい翠の欠片だけを携えて、男はそれを大切に毛皮に包み、肌に抱くようにしてムラへと走り出した。
数ヶ月の後、男のムラに、奇跡の宝珠が生まれていた。
何千、何万回と砂や別の硬い石で擦り磨かれ、男の指の皮が擦り切れるほどの時間をかけて生みだされたのは、小さな穴が穿たれた、丸く艶やかな翠の珠。
波に濡れたあの海辺で見たのと同じように、その珠は光を浴びて、妖しく、深くきらめいた。
寒さの地で打ち震える人たちは、その鮮やかな翠に、春の草木が芽吹くような瑞々しい生命の力を見た。
寒さが緩み、地が木々の緑を取り戻した頃、シナノの黒曜石に力を奪われていたコシの珪質頁岩が息を吹き返す。争いを生むことなくシナノを屈服させたのは、まごうことなきこの翡翠の力であった。そして西へと向かう航路のために開拓した、沖合に浮かぶサドの島は、ここもまた宝石の島であった。翡翠の奇跡は温暖化とともに、コシを東の超大国へと押し上げていく。




