大いなる乱 ―石から鉄へ、そして歴史の始まり―
大いなる乱 ―石から鉄へ、そして歴史の始まり―
一度緩んだ寒さが戻り、ふたたび凍えるような寒さがこの島を襲ったころ、この島に北の海の向こうから災いが訪れようとしていた。
西の大国、漢の進駐に対抗しようと、ムラの寄せ集まりに過ぎなかった半島は、一つに纏まろうとして互いに争い、またたく間に戦乱の泥沼に引きずり込まれる。馬韓は多くのムラを力ずくで束ねていったが、弁韓と呼ばれた倭人の住むムラは、身を寄せ合ってこれを凌いだ。かつて西の滅びた大国から流れてきた民が、馬韓から弾き出され、倭人と混ざり合って暮らし、そして今は鉄の民となっているものたちは、一度馬韓に組み敷かれたが、イズモの密かな支援を得て辰韓として立つ。彼らが国として統一されていく過程は、とどまるところのない、血で血を洗う凄惨なものであった。
この戦乱から逃れて、この島へひきも切らず押し寄せる難民たち。ツクシはそれを内に抱えきれず、ついに破裂する。着の身着のままで逃げてくるものばかりではない、武装したまま奪いに来るものもいる。アナトは度々襲撃され、無防備だったイナバ青谷の蹂躙はのちの世を震撼させる。これまで分け合い、小競合い程度の諍いしか知らなかったこの国の万年の平和の刻は遂に破られた。
獲物を狩る石鏃も鉄の鏃も、その矛先を人に向け変えた。
生産力を高めるために必須の鉄の道具は、それを自ら賄うことのできないこの国ではまだ少なすぎた。かつて石を届けた縁が、今度は鉄を受け取る縁に変わっている。足りない鉄を求めて、それを産する半島へ、そして大陸への道は遠く、その伝手を巡る壮絶な駆け引きの幕が上がる。
そして歴史が始まった。
第一部 完
多くの地域で、人の営みを奪った洪水が、この国ではまるでそれが恵みであるかのように、はるか遠くの人と人を結びつけ、その縁が人を救います。そのつながりのもとが、特別な石でできた石器でした。
そして鉄が、石器の時代を終わらせてからも、この縁は生き続け、この国をまた数奇な運命へと導いていきます。
アカホヤ噴火の災厄からのがれ、石の縁をたどって半島に逃げ、居ついたちょうどその場所から、鉄が現れる。これを天の配材と呼ばずして何と思えばよいのでしょうか?
しかし、その鉄がまた、豊かさとともに災いを運んでくることになります。
石の時代の幕が下り、歴史という名の悲劇が、幕を開けます。




