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幻想古事奇譚  作者: 土師 陵生


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決壊 ー極寒の時代と大洪水の波ー

決壊 ー極寒の時代と大洪水の波ー


 それからまた何千年もが過ぎたころ、この島を試練(しれん)が襲(おそ)う。凍(こご)える寒さが押し寄せ、それまで命をはぐくんできた豊かな森の恵みは、またたく間に枯れ果てていった。


 この島を凍(い)てつく寒さと飢えが襲い、北から南へと人が逃げてくるちょうどその頃、大陸の東もまた破局の時を迎えていた。そこに降り続く雨は止まず、やがて溢(あふ)れた河はすべてを押し流し、田畑は水底(みなそこ)に沈んだ。そこから逃れた者たちも、その大陸の北の寒さから逃れてきたものたちとぶつかり合い、せめぎあう。大洪水によってすべてを奪われ、さらに大陸の凄惨(せいさん)な戦乱から逃(のが)れるため、大河の畔(ほとり)に生きていたものたちは、命がけで東の海を渡る。半島へ、さらにこの島へと流れ着く。


 彼らがそこから持ち込んだのは、土地を整(ととの)え、水を御(ぎょ)す、大いなる力であった。これまで人の住めない湿地(しっち)であった川べりを平らに均(なら)し、暴(あば)れる水をしずめ、瑞々(みずみず)しい緑の穂を、黄金に輝(かがや)くたわわな稔(みの)りとなるまで育(はぐ)くむ。木を容易(たやす)く倒し、稲穂を刈り、土を深く耕す、あの冷たく鋭い鉄の刃をもって。

 この鉄の刃の圧倒的な力は、この島の人々の暮らしを激しく塗り替えていった。畑作(はたさく)しか知らぬこの国の乾いた山間の小さな集落は、また驚くほどの速さで青々とした瑞穂(みずほ)のクニへと変わっていった。稔(みのり)の豊かさがもたらされ、やがて地に人は満ちた。豊かな貯(たくわ)えを持つものが現れ、そこはますます栄えた。貯えを持てないものは移ろい、そして小さく震えていた。

 このころまだ鉄の刃が行き渡らぬところには、鏃(やじり)や小刀から形を変えた石の刃がその役を果たし、この島で石の命脈はまだ途切れることなく続いていた。



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