海の咆哮
海の咆哮
海が満ちたちょうどその頃、度重なる不穏な地揺れののち、南端の海から巨大な火柱があがった。
大地は狂ったように鳴動し、天からはすべてを焼き尽くす火の雨が降り注ぐ。太陽は吹き上がる灰の向こうに隠れて、ふたたび世界は闇に包まれた。降り積もる灰に埋もれた一帯は、ふたたび死の世界と化した。南の海は激しく引き裂かれたのち、見たこともない巨大な津波が沿岸を襲った。高鳴る海は狂暴な壁となって押し寄せ、海辺の村は悉くその波の底へと飲み込まれていった。高天原も再びうす暗き闇に閉ざされた。
だが、壊滅の危機に瀕した瀬戸内や南の大海の沿岸の民は、ただ絶望して死を待ったわけではなかった。彼らは生き延びるため、再び北へ、東へ、今度は遥かに海を越えて半島へも逃げた。黒い貴石の命脈が、再び彼らの命をつないだ。
この頃、長い雌伏の時を過ごしていたコシに奇跡が起きる。コシの海岸に打ち上げられ、波に洗われていた白い貴石、翡翠の発見であった。このクニの数奇な運命は、このときからこの碧や紫をまとう白い貴石に導かれて行くことになる。
灰が雨に洗われ、地が緑を取り戻し始めたころ、人はツクシの島へ、イズモへ それからイヨの二名の島へと戻ってきた。あの二度目の破局のときからすでに数百年が経っていた。暑さは少し緩んだとはいえ、海 は満ちたままで、あの穏やかだった北の内海 も、いまでは冬には荒れ狂う大海となっていた。壊滅したツクシの南へ人が戻ろうとしたとき、そこには見たこともない逞しい体躯を誇る別の者たちが、すでにそこに暮らしていた。その者たちは、かつて時折、ツクシの民が黒曜石をもって彼らの大きく美しい貝の装飾を得、また彼らが石を求めて南の海から来たことのあった竜宮の民であったかもしれない。だが、その記憶は互いにもうない。クマの地もソの地ももはや彼らのものになっていた。ただわずかに、浦島太郎の美しくも悲しい物語として、その名残りを今にとどめるだけである。
遥か北へと逃げた者たちは、その地で大きなクニを造った。とどまったものたちも、あの災厄から復興し、新たな環境に適応するために彼らの技を研ぎ澄ます。
かつて灰と波に埋もれた大地の泥を再び捏ね、火を入れてより強固な器を焼き上げ、荒れ果てた山々から最高の木材を切り出す。彼らの弛まぬ営みが、この島国を支える。
後に、姶良やアカホヤほどの巨大噴火ではありませんでしたが、高天原にもほど近い三瓶山が噴火し、高天原にも被害が及びます。神話は、これをスサノオの狼藉と語り、スサノオは高天原を追放されるのです。イズモが独自の道を歩み始める、そのきっかけとなったのは、この噴火であったのかもしれません。




