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幻想古事奇譚  作者: 土師 陵生


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豊葦原に潮満ちて

豊葦原(とよあしはら)に潮(しお)満ちて


 さらに万年の悠久(ゆうきゅう)の時が過ぎ、今度は寒さなどもはやとうに通り越して、むせかえるような暑さが続く。地表の氷は解けて海に流れ込み、海を膨(ふく)らませる。  


 北の低地は徐々に沼地へとかわり、大河は運河となった。海の向こうの半島も、平地は海に呑まれてほとんどが沼地と山へと変わり果てる。穏やかだった北の内海は、南北から激しい潮流の流れ込む荒々しい海へと変貌し、高天原の東の麓に遥かに広がっていた豊かな葦の平原もまた、少しずつ沼地に呑まれていき 、ぶよぶよとしたヒ(・)ル(・)コ(・)の様相(ようそう)を呈(てい)した。それもしまいには完全に海に飲まれ、切り立った岩肌をさらす海岸線をつくった。ア(・)ワ(・)ジ(・)もア(・)ヅ(・)キ(・)もキ(・)ビ(・)のコ(・)ジ(・)マ(・)も、そしてイ(・)ヨ(・)も悉(ことごと)くみな、島になった。


 ツ(・)ク(・)シ(・)の西に遥か見渡す先まで広がっていた西の黄海(こうかい)平原も、南から徐々に水につかり、ついにそのすべてを海に飲み込まれる。そこから人がこの島へも逃げてくる。

 広がる海は、人に新たな活路(かつろ)を与える。重い荷を負っては到底(とうてい)歩いては行けぬ距離を、潮(しお)の流れが瞬(またた)く間に運んでくれる。これまで交わることがほとんどなかったこの島の西と東の民を海がつないだ。

 そして海は、かつての平原から人を追いやったが、それぞれの岸に逃れたものたちは、今度は海を渡って縁(えにし)を繋(つな)ぐ。


 この海から、そして国生(くにう)みの神話が始まる。

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