天の蹂躙と石の命脈
天の蹂躙と石の命脈
遥かに時は下って、水が悉く凍りつき、海が退いてこの平原にも巨獣が闊歩し始めたころ、ツクシの南で大いなる山が咆哮する。 人が逃げる間もなく、地は裂け、火砕流が瞬く間にすべてを飲み込んでゆく。ツクシの南は瞬時に壊滅した。ツクシの西で生み出され始めた黒曜石の山も分厚い灰に埋もれて、もはやその在り処すらわからなくなるほどであった。イヨも広大な盆地平原も分厚く灰に埋もれ、人の営みを拒絶した。かろうじて生き残った人たちは、北へ東へと逃れていく。しかし東の地ですら、水源を失い、灰にまみれて営みを止め、人はさらに東へ北へと去るほかはなかった。西の地からはほぼ人の姿が消え、東の地も光を失い、この島に長い沈黙のときが訪れた。
逃げる者たちは、かつて鋭い刃となる特別な石を求めてやってきていたものたちや、その石を分け与えてくれたものたちの縁を頼った。灰と波に追われた難民たちが頼る先には、石を分け合った同胞がいた。彼らははるかな先祖から受け継いだ石の道を辿って、世界の終わりから奇跡的に生き延びた。逃げた先でもまた、残されたものも、暗く灰色に覆われて晴れることのない空を見上げてただ祈るほかはなかった。人は火を噴く山を畏れ、太陽の光の復活を待ち望んで祈った。
その祈りもむなしく、追い打ちをかけるように、地球規模の更なる極寒が襲う。噴火の被害が少なかった東の地でも、森が消え、川は凍り付いた。豊かな森がツンドラへと姿を変えたことで、せっかくの発明だった木を切るための磨製石斧の技術は、その用を失って歴史の舞台から完全に消滅する。さらに、森の消滅とともに大型の獣が消え、すばやく逃げ回るイノシシやシカを狩る、失敗の許されない過酷な狩りを強いられることになる。そのために人は弓矢を発明するが、矢の先端につける鏃に求められたのは、頑丈さではなく、極限まで軽い剃刀のように鋭いものであった。
この需要の変化のために、カミソリの替刃システムのように使える細石刃や弓矢用の小さな鋭い鏃を容易く作ることのできるシナノ(霧ヶ峰・和田峠)や、海を渡った神津島で採れる最高級の黒曜石へと需要が集中する。これまで北関東の市場をほぼ独占していたコシの珪質頁岩は完全に時代遅れとなり、それまで隆盛を誇っていたコシ長い、暗い没落の時代を迎えることになった。また同じころ、ヒダの石も、退いた海のためにその行き場を失っていた。
それからまた、千年もの、気の遠くなるほどの長い年月を経て、ようやく寒さが少し緩みはじめ、緑が戻り始めると、驚くべきことに人々は遠い祖先の記憶をたどって、また彼らのそれぞれのはじまりの地へと戻ってくる。そうして西の地にも再び人の営みが戻った。




