↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想古事奇譚  作者: 土師 陵生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/55

第一部 神話のはじまり ー石の時代―

第一部 神話のはじまり ー石の時代―


石のまほろば


 まだ世界のほとんどが氷に覆われていたころ、生きる糧(かて)を求めて人は北の極寒の地から、南へと歩き、それから海を渡ってこの最果ての地へとたどり着いた。

 この地は東の最果て、この地より先にはただ茫洋(ぼうよう)たる海原(うなばら)が広がるばかりである。人々はあるいは楽園を目指し、あるいは安住の地を追われ、生きる糧を求めてここにたどり着いた。果てしなく広がる大地を歩き、そして波頭(はとう)を越えて。


 ツ(・)ク(・)シ(・)の東、白き原のその向こう、ア(・)キ(・)の河原に転がる黒い石を辿って行き着く、高き山の南に広がる高原にそれはあった。そこは、砕けばすばらしい切れ味を持つ石器となる安山岩(あんざんがん)の巨石が眠る石の聖地であった。

 万年の時を経てなお、いくたびも人はそこに集まり、そこで石を穿(うが)ち、それぞれの営みの地へとまた散っていった。眼下に果てしなく広がる盆地の平原には、獲物が闊歩(かっぽ)し、山麓(やまふもと)の森は豊かに果実の恵みを与えた。そしてそこには多くのムラができた。また北の山を抜けると穏やかな内海があった。そのはるか先にもまた人々の営みがあった。

 のちの世に、人々はこの石の聖地を、神の降り立った地、高天原(たかまがはら)と呼んだ。歴史の始まりの、そのはるか昔の神話の時代の記憶として、どことは知れず、しかし確かに語り継がれてゆく。


 人々はここからその石の刃をもって各地へと広がっていった。平原の東の山のまたその先の平原を越えていった者たちはやがて、白く輝く山肌を誇る双子の頂を持つ山の麓で、この安山石よりもさらに固く鋭く、そして叩けば美しい音を響かせる石を見つけ出す。それは遥(はる)かのちの世にサヌカイトと名付けられることとなる奇跡の黒石であった。そこがまた新たな聖地となった。  

西から流れ出る川 が両側の山を門のように見せるこの地の奥を、のちの人々はヤマトと名付けた。

 しばらくのちに彼らは少し西に引き返したところ、今はサ(・)ヌ(・)キ(・)と呼ばれる南の台地で、やはり白い岩肌をもつ山から同種の黒石が見つかる。ここから産出される膨大な量のサヌカイトは、その圧倒的な力を示して瞬く間にこの平原を、さらにその先までをも埋めつくす。

 この黒き貴石(きせき)たちの縁が、万年の時を経(へ)てのちに、この島を統べる地の礎(いしずえ)となっていくことを、まだ誰が知る由(よし)もない。


 同じころ、ツ(・)ク(・)シ(・)の西のヒ(・)の深山に分け入った者たちが、また別種の、しかしやはり黒い貴石を見出していた。その混じりけのない漆黒に輝く石はさらに鋭く、細かく最強の鏃を生み出した。人はこの貴石に熱狂し、それは遥か南西の海をそして北の海を越えてまで行き渡ることになる。  この広大な縁がのちにこの島国を翻弄(ほんろう)する火種(ひだね)となることもまた、予見(よけん)するものなどまだどこにもいない。


 高天原から尾根(おね)を伝い、そこから川を下って北東の海に抜けると、その先の沖に張り出した半島があり、そこにも白く輝く山があった。そこからも、また美しい黒石が掘り出される。のちに沖の島となる隠岐(おき)の黒曜石である。


 またそれは天の意思か、不思議なことにちょうど同じころ、大地溝帯(だいちこうたい)によって完全に分断されていたために、彼らがまだ出会わぬ、この島の東の民もまた、海の沖に白く輝く島から黒い貴石を得る。のちに神津島(こうづしま)と名付けられるその島まで、太平洋の、黒潮(くろしお)の波頭を越えて彼らはこの石を求めたのである。そしてその海とは逆に山に入った者たちも、シ(・)ナ(・)ノ(・)の霧降る峰の平(たいら)に無数に星屑(ほしくず)のごとく散らばる黒石を見出す。ここはのちに、この島最大の黒曜石(こくようせき)産地となる。


 コ(・)シ(・)ではそこかしこに露出する珪質頁岩(けいしつこうがん)が、シ(・)ナ(・)ノ(・)の黒曜石に取って代わられる以前には、ケ(・) からム(・)サ(・)シ(・) に至るまでの広大な東の地を席巻(せっけん)していた。不思議なことに、分断された西であるはずのオ(・)ウ(・)ミ(・)やタ(・)ン(・)バ(・)は、後の時代までサヌカイトではなくこの石を使い続けている。川よりも海が、彼らの活動を支えていたからなのかもしれない。


 そして西からも東からも分断された、はざまの地ヒ(・)ダ(・)には、サヌカイトにも少し似た性質のやはり黒い石があった。のちに下呂(げろ)石と呼ばれるこの石はオ(・)ウ(・)ミ(・)やタ(・)ン(・)バ(・)とも繋(つな)がりながらこの地に根付いていった。


 これらに遅れて最後に、ウ(・)サ(・)の沖合に白く輝く姫島から、珍しい灰色をした黒曜石が現れる。この石は後に瀬戸内の黒曜石のシェアを奪い、腰岳(こしだけ)産の黒から灰色に塗り替える最後の貴石となったが、それは遥かのちに現れる瀬戸内海の水運の盟主として、ウ(・)サ(・)の地位を盤石(ばんじゃく)なものとする要石(かなめいし)となった。


 これらの貴石は、瞬(またた)く間にこの島に行き渡り、石の縁(えにし)が、後にこの島のそれぞれのクニの礎(いしずえ)となっていく。


石の里から、人々はそれぞれに散って行き、また石器の補充に戻ってくる。そうして、少しずつその範囲を広げながら、新たな石の里を中心にまたそこから広がってゆく。石器の原産地は、人の集うところであり、命の源を与えてくれる聖地でした。

白く輝く山から産み出される漆黒の貴石、この得も言われぬ美しいコントラストが、後の古墳の威容に繋がっていったといえるのかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。