序
歴史とは、それが本質として悲劇であるがゆえに美しく語り継がれる。
永遠に失われたものへのいくばくかの哀悼と寂寞の念を、そして再び繰り返されぬようにと祈るがごとく。
魂がこの世から去り、その肉体は朽ち果てて異形となり果てる様をみて、ひとは恐れ、恐れるがゆえに祀る。祟りを畏れ、怨みを鎮めんとするがゆえに。奉り、語り継ぐのである。
然し、祟るのは亡者ではない。それは残る者の心中にあり、彼の非道が彼の内よりその所業を苛むのである。そうであるが故に悲劇をこそ美しく語る。
これは東の最果ての地、ある島国の悠久の物語である。
この国の島々には、多くのクニがあった。いや、クニというよりも少しばかり大きな集落というべきかもしれない。かつて眼下に広がった広大な平原も、今は海の底に沈み、残った島々もそれぞれ海に囲まれて、山がちなこの島々には、広々とした平地というものがもうほとんど残されていない。
それゆえ、山の民、海の民が幾多の小さな集落に分かれて狩猟採取の暮らしを営みながら、いくつかあるだけの山間の水辺で細々と畑を耕して暮らすのみであった。
彼らの命の源は、山間を縫って流れる真水と鋭い刃を生み出す黒き石であった。その石を求めて、はるか遠くからも彼らは集った。
長く続いた平穏ののち、暑さとともに海が寄せてきた。鬱蒼とした森へと姿を変えつつあったあの広大な平原は、あれよという間に海の底に沈んでいった。人々は岸辺に、山に上がって難を逃れたが、それぞれ小島や岸辺へと散り散りとなった。それで、人は船を造り、行き来するようになる。陸路を行くより海路を行くほうが速く、むしろ人々の行き来はそれまでよりも活発になった。
また、高き山は多くの恵みをもたらしたが、ときにそれは地を揺らし、火を吹いて禍々しき災厄をもたらした。
その時、多くの民が犠牲となったが、海の民の中に、かろうじて難を逃れた者たちがいた。彼らは遠く様々な地へと逃れ、行き着いた地で新たな営みを始めたが、人の思念というのは不思議なことに忘却を拒絶し、やがて彼らの知り得ぬかつての出自の地へと帰郷の念を高じさせたのである。
こうして人々はさらに交わり、人の営みの術の高まりはその歩みを早めていった。




