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幻想古事奇譚  作者: 土師 陵生


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蠢動

蠢動(しゅんどう)


 夕暮(ゆうぐ)れ、礎石(そせき)を運び、柱を組む槌音(つちおと)が響(ひび)く。

 アスカの地への入り口を塞(ふさ)ぐかのように、広大な敷地(しきち)を持つ寺(てら)が造営(ぞうえい)されようとしている。


 仏(ほとけ)の導(みちび)きで、守屋(もりや)を討(う)ち、丁未(ていび)の乱(らん)が大火(たいか)となることなく幕(まく)を下ろしたという風聞(ふうもん)が、まことしやかに広まっていた。多くのものがこの寺の造営に喜んで参加し、順調に工事が進んでいく。


「大王、これが成りました暁(あかつき)には、宮(みや)をお移りになられませ。仏を祀(まつ)るその足元で政(まつりごと)を執(と)り行う。良い考えとは思われませぬか?亅

「我に仏に下(くだ)れと申すか?それにこれは大臣の私財(しざい)で建てておるというではないか?そのようなところで公事(こうじ)を執り行えなどと、クニを我が物とでも思うておるのか?」

「何をおかしな事を、大王になられましたのは仏の導きと皆(みな)が申しております。それに、大王は我らの血筋(ちすじ)ではありませんか。我らが寄進(きしん)は当たり前のこと。それよりも、倉梯(くらはし)のような寂(さび)れた地に居(お)られましては、不自由も多いことでございましょう。こちらにお移りになられれば、皆も喜びましょう。」

「ふん、仏に祈ったのは厩戸(うまやと)ではないか。ならば、厩戸を立てれば良かったのではないのか?」

「厩戸皇子は未だ若輩(じゃくはい)、無邪気(むじゃき)に仏に縋(すが)ったに過ぎません。やはり守屋を引き出したのは、ひとえに仏の手配(てはい)にございましょう。」

「どうであるにせよ、われは何もしておらぬ。」

「誰よりも先に説得に立たれた、それで十分ではありませぬか?」

 守屋の後釜(あとがま)を狙(ねら)って、誰が誰を担(かつ)ごうとしているのか、あの渋川の地で大臣は見抜いていた。


「確かに……これほどの見事な宮は見たことがない。だが、これが宮だと知れば、民(たみ)は何と思うであろうか?むしろ人心(じんしん)が離(はな)れていくのではないか?」

「民が望むのは安寧(あんねい)と平穏(へいおん)でございましょう。此度(こたび)仏が乱を鎮(しず)め、平穏を導いたとはもっぱらの噂。仏の加護(かご)に感謝し、大きな寺を立て、大王が率先(そっせん)してそれを祀られるのであれば、民ぐさも大王をほめ称(たた)えるでありましょう。」

「ものは言いようだな。全て大臣の描く筋書(すじが)きのとおりということか。」

「私(わたくし)は、成(な)すべきことを為(な)す、そのことのみにございます。」

 泊瀬部(はっせべ)の腹(はら)にどす黒いものが湧(わ)き上がってくる。


 大王などなってみたところで、実際には何事もこの男と額田部(ぬかたべの)皇女(ひめみこ)が決め、我はそれを御簾(みす)の裏(うら)で聞かされておるだけ、籠(かご)の鳥に過ぎぬ。忌々(いまいま)しいのはあの女だ。先の皇后(こうごう)というだけで、一体何の権原(けんげん)があるというのか?仏を祀ると言うならいっそ尼(あま)にでもなればよいというのに。あれがいなければ、この大臣とて先ず我に持ちかけねば何事も決められまい。

 だが、大臣は成すべきことを為すのみと言った。では、成すべきこととはそもそも何だ?我にあるのは…


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