↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想古事奇譚  作者: 土師 陵生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/55

煩悶

「守屋を連れ戻した者を、次の大王とする。ただし、失敗すれば直ちに討つ」

額田部皇女が下した冷徹な決断は、朝堂に集う皇子たちの前に、あまりにも巨大で危険な賭けとして示された。大王の座という至高の栄誉の裏には、失敗すれば即座に命すら危ういという、底知れぬ深淵が口を開けている。


 煩悶


 誰が立つか。皇子たちの間で緊迫した駆け引きが始まる。


 難波皇子(なにわのみこ)が動く。敏達朝を支え、若き武才を謳われた彼は、血気盛んに一歩前へ踏み出した。

「物部の大連は、我が兄敏達の大王の御代においてともに武を担った男。なれば、この私が自ら渋川へ赴き、大王の遺徳をもって説得いたしましょう! 大連とて、私の言葉を無下にすることはできぬはず!」

 難波皇子の言葉には自信がみなぎっていた。守屋を動かすには、同じく武を重んじた敏達朝の血統にこそ利があると踏んだのだ。推す臣たちも、さすがは次期大王の器とばかりに昂然と胸を張る。


 その熱を冷ややかに遮る男がいた。異母兄である泊瀬部(はつせべの)皇子である。

 泊瀬部皇子はふっと鼻で笑うと、難波皇子を鋭く睨みつけた。

「ふん、若気の一至だな、難波よ。そなたが行けば、守屋は、敏達の世の排仏の詔を忘れたかとそなたを言いくるめ、むしろそなた自身が奴に取り込まれるのが関の山。大連が恐れるのは、武の通じぬ相手、そしてこの国の真なる血統よ。欽明の大王の正統なる血を引くこの私が赴(おもむ)いてこそ、守屋は己の傲慢さを恥じ、跪(ひざまず)くであろう。」


 この二人を、静かに見つめている本命がいる。

 大王の座に最も近いと目(もく)される敏達帝の長子、押坂彦人大兄皇子である。

 彦人大兄皇子は、二人が言い争う様子をじっと見つめながら、深く思考に沈んでいた。

 かつて自分を中臣に呪詛させていたのは、守屋ではなかったか、そのような者をなぜ説得して連れ戻す必要があるのか。勝海を屠(ほふ)ったように、守屋も誅すればよいだけではないか。ー我は許さぬー

 彦人大兄皇子はすっと息を呑み、静かに身を引いた。

「……私は行かぬ。ただ、征(ゆ)かれる皇子たちを守り、不首尾(ふしゅび)の砌(みぎり)には守屋を誅するに腕の確かな者を就けましょう。」

 彦人大兄皇子の表明に、この皇子を推すものは落胆の色を隠せない。だが、かつて己を呪詛までした相手を説得するなど、大王の座を捨てても許すことのできない皇子の気持ちは痛いほどわかる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。