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幻想古事奇譚  作者: 土師 陵生


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試金石

試金石(しきんせき)


 抗戦の構えを見せる大連の説得に皇子たちを競わせる。


 朝堂(ちょうどう)の空気が、一瞬で凍(こお)りついた。あまりに突拍子(とっぴょうし)もない、しかしあまりにも理(り)にかなった提案(ていあん)だったからである。大臣(おおおみ)は昂然(こうぜん)と言葉を続けた。

「大連(おおむらじ)を動かすほどの交渉力、そしてあの頑(かたくな)なな守屋を跪(ひざまず)かせるだけの徳(とく)。それらを示してみせる皇子(みこ)ならば、誰(だれ)もが文句のつけようもなく、その御方を次なる大王として仰(あお)ぐにふさわしいであろう。」


 群臣たちの間に、驚きと同時に「それならば誰も異論はない」という納得のさざ波が広がっていく。

 自らは何も主張せず、群臣に意見を出させ続けた果てに、大臣は大連の召還という難題を、本旨である大王候補の皇子たちへの試題(しだい)にすり替えてみせたのである。


 御簾(みす)の奥でこの一部始終を聞いていた額田部(ぬかたべの)皇女(ひめみこ)は、大臣のこの建言(けんげん)に、一も二もなく賛同の意を示す。

「大臣(おおおみ)の言う通りである。大連を従える器(うつわ)の持ち主こそが、この動乱の天下(あめのした)を治めるにふさわしい。流石(さすが)である。」


 しかし、額田部皇女はただ大臣の提案に乗ったわけではなかった。彼女の瞳には、為政者(いせいしゃ)としての決意が宿(やど)っていた。皇女は座から群臣たちを見下ろし、張り詰めた声で宣(せん)を発(はっ)する。

「ただし――付け加えておく。皇子たちが誰を送り、いかに尽くそうとも、もし大連の説得に失敗したならば、その時は直ちに物部守屋を朝敵として討て。この朝廷を二度までも愚弄(ぐろう)し、引き下がらぬ不届き者を生かしておくわけにはいかぬ。これは大王の座をかけた試練であると同時に、物部守屋への最後通牒(さいごつうちょう)である!」

「……御意」

 朝堂は皆深く平伏した。彼らの眼には、もはやこの二人こそが真の王であるかのように映っていた。


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