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幻想古事奇譚  作者: 土師 陵生


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拒絶

拒絶(きょぜつ)


 使者たちが河内国渋川に着くと、そこはもはや砦と化していた。

 屋敷の周囲には、稲束がうず高く積まれ、内では奴婢(ぬひ)たちが、弓矢の腕を試している。

 館の奥、薄暗い広間で使者たちを迎えた大連(おおむらじ)は、昂然(こうぜん)と座(ざ)している。その佇まいとは裏腹に、その心の内は穏やかではない。


 使者が声を震わせながら、合議での決まりごとを伝える。

「大連、宮廷では次の大王の座をめぐり、議論が紛糾いたしております。群臣は、貴方様の意見を聞かねば決められぬと申しております。どうか、都へお戻りくだされ……」

 使者の言葉を、守屋は微動だにせず聴く。そして、言い澱む使者たちを見返しながら、掠れた声で訊く。

「要件はそれだけか。」

「はい、一刻も早くお戻りいただきたい、そのことのみにございます。」

「大臣はなんと申した。」

「大臣は、何も申されませんでした。ただ、臣たちの求めに応じられただけにございます。」

ー相変わらず腹のうちの読めぬ男よ、いったい何を狙っておるのだ-

覚悟していたのは、懲罰のための召還を宣する令状であった。にわかには信じがたい理由であった。


「戻ってほしくば、しかるべき者が会いに来いと伝えよ。」

守屋は、最後に馬子と話してみたいと思った。伝手(つて)を捥(も)ぎられ、孤立した自分が朝廷に復(ふく)する望みなどあろうはずもない。決して自らは先んじて動かず、何かを画策(かくさく)する風(ふう)でもない。それなのに気が付けば敵対するものが悉(ことごと)く自滅(じめつ)していく。力を頼(たよ)りとするものにとって、それは理解しがたい何かであった。


 使者たちが渋川から持ち帰った返答。それを聞いた群臣たちは、大連(おおむらじ)の言うし(・)か(・)る(・)べ(・)き(・)者(・)とは、やはり大臣(おおおみ)のことであろうかと密(ひそ)めきあう。

「やはり、守屋殿は戻られぬか……」

「嶋(しま)の大臣(おとど)は行かれるのかのう、まさかとは思うが。」

「行くわけがなかろう、きっと差し違えでもするおつもりなのじゃ。」

「ではやはり戦(いくさ)になるか」


 混迷が極まり、誰もが絶望的な沈滅に沈んだその時、群臣のざわめきを受け流していた大臣(おおおみ)が、ゆっくりと立ち上がった。泰然(たいぜん)としたその顔には、焦(あせ)りの色など微塵(みじん)もない。

 大臣は、震える群臣たちを見回し、厳(おごそ)かに意(い)を述べる。

「皆々方、大連が来いというならば、しかるべき者を送ろうではないか。ここに集われし皇子たち――押坂彦人大兄、泊瀬部、難波……このなかで、見事、大連を説得してこの都へ呼び戻せた御方を、次の大王といたす、というのは如何(いかが)か。」

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