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幻想古事奇譚  作者: 土師 陵生


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朝堂にて

朝堂(ちょうどう)にて 


 朝堂は、重苦しい空気で満たされていた。

 本来であれば、大連(おおむらじ)物部守屋がにいるはずの上座(じょうざ)の一席は、空(あ)いたままである。守屋は都を離れ、河内国渋川の私邸(してい)へと引き払ってしまい、それ以来、合議(ごうぎ)の場にすら出てこない。

 大連(おおむらじ)不在のまま、次の大王を決める合議《ごうぎ》が始まる。


「この大変な時勢(じせい)、若輩(じゃくはい)では務(つと)まらぬ。齢(よわい)からしても、正統(しょうとう)である押坂(おしさかの)彦人(ひこひとの)大兄(おおえ)を措(お)いてあるまい」

「いや、軍事(ぐんじ)に明るい難波皇子(なにわのみこ)もおられるぞ」

「順でいえば、泊瀬部(はつせべの)皇子であろう、大臣もそうお思いではないのか」

群臣たちの間で様々な思惑が飛び交い、誰が次期大王にふさわしいかをめぐる議論は完全に紛糾していた。


 大臣(おおおみ)|蘇我馬子は、上座でじっと目を閉じたまま、微動(びどう)だにしない。

 今ここで自分が特定の皇子を強く推せば、群臣の反発を招くだけだと分かっている。大臣はただ、辛抱強く、群臣たちにそれぞれの意見を吐き出させていった。誰がどの皇子と結びついているのか、誰が日和見(ひよりみ)なのか。目を閉じながら、朝廷内の勢力図を頭の中で描き直している。


 決め手を欠く議論が何時間も続き、堂内が疲弊と焦燥感に包まれた頃、一人の老臣がため息混じりに声を上げた。

「……これほど意見が割れては、埒(らち)があかぬ。大連を欠いたままでは、いかなる決定であっても納得せぬものが残ろう。やはり、ここは一度大連を呼び戻し、その意見も聞くべきではないか」

 その言葉に、それまで言い争っていた群臣たちが、一斉に頷(うなづ)く。

「そうだ、守屋殿の意見を抜きにしては、諸豪族(しょごうぞく)も納得(なっとく)すまい」

「一度使者を送り、大連の意向を確かめるべきだ」

 混沌(こんとん)とした紛糾(ふんきゅう)の果てに、朝堂(ちょうどう)は、やはり大連を呼び戻して合議をやり直すべきだという空気に支配されていく。


「……我もそれがよろしいと思う。」

 それまで沈黙を守っていた大臣(おおおみ)が、静かに目を開けた。

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