↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想古事奇譚  作者: 土師 陵生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/55

波乱の幕開

波乱(はらん)の幕開(まくあけ)


 天国(あめくに)排開(おしひらき)広庭尊(ひろにわのみこと)(欽明天皇(きんめいてんのう))が群臣(ぐんしん)を前に開陳(かいちん)したのは、百済(くだら)から届いた金銅(こんどう)の釈迦如来像(しゃかにょらいぞう)と、幾巻(いくかん)もの経典(きょうてん)であった。


「この見事(みごと)な御姿(おすがた)……我が国でこれを礼拝(らいはい)すべきか否(いな)か、汝(な)らどう思(おも)う。」


 待ち望んだ時がついにきた。大臣(おおおみ)蘇我稲目(すがのいなめ)は静(しず)かに目(め)を輝(かがや)かせた。二上山(ふたかみやま)の麓(ふもと)で土と水を操(あやつ)り、屯倉(みやけ)を広げていく稲目(いなめ)には、それは単(たん)なる美(うつく)しい塑像(そぞう)ではなかった。人があるべき姿、人がそうありたいと願う姿の映(うつ)し絵がそこにある。それは、確固(かっこ)たる拠(よりどころ)を持たないこの寄せ集めの国に一本の心柱(しんばしら)を通すのに、何よりふさわしいと思われる。


「礼拝(らいはい)すべきです。西の国々はみな従(したが)っております。」

稲目は進み出て奏す。

 だが、大連(おおむらじ)物部尾輿(もののべのおこし)は憮然(ぶぜん)として言う。

「我らはそれぞれのクニの神を均しく祀ってきた。そうでなければ国が荒れる。それを異国(いこく)の神(かみ)を入れるなど、その国の臣下(しんか)に成り下(さ)がるということではないか、そのようなこと決してあってはならぬ。」


 稲目を除(のぞ)けば、神と仏の違(ちが)いも判(わか)らぬのである。話がかみ合わないのも無理はなかった。真っ二つに割れたそれぞれの主張がまとまる見込みがないことを悟(さと)ると、大王(おおきみ)は、苦肉の策として判断を先送りする。

「では、稲目に授けて、試みに礼拝(らいはい)させてみよう。皆それでよいな。」

 私人(しじん)としての密(ひそ)かな研究が、公認(こうにん)されたのである。稲目は、悦(・)び(・)て(・)これを引き受け、自らの家を浄めて最初の寺とした。


 だが、稲目にも予想もしていなかった事態(じたい)が起きる。百済(くだら)から持ち込まれたものであろうか、都に凄まじい疫病(えきびょう)が流行り、民は肌に瘡(できもの)を発(はっ)し、高熱に爛(ただ)れて次々と倒れていく。

「それ見よ!妖しき 異国のものを軽々に持ち込むからこういう始末になるのだ!」


 執拗(しつよう)に排仏(はいぶつ)を迫(せま)る物部尾輿(もののべのおこし)に対(たい)して、大王(おおきみ)もやむなく排仏の詔(みことのり)を与え、尾輿はこれ幸(さいわ)いと、蘇我(すが)の寺(てら)へと闖入(ちんにゅう)する。尾輿の手勢(てぜい)は仏像を容赦(ようしゃ)なく叩き壊し、ナニワの堀江(ほりえ)へと投げ捨てる。それはあまりに粗略(そりゃく)な暴虐(ぼうぎゃく)であった。再び仏教は、稲目の密かな研究の対象へと戻る。

 そして時が流れ、代は蘇我馬子と物部守屋へと移ってゆく。


これは、外交と内政の方針を巡る高度な政治的対立でした。明治期ならいざ知らず、国家神道などというものの存在しないこの時代に、宗教戦争などという概念などありません。ですが、仮にこれが仏教ではなく、キリスト教であったら、稲目は歯牙にもかけなかったでしょうし、尾輿の反応が正しいと誰もが認めたことでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。