朱の蜃気楼
朱の蜃気楼
ニギハヤヒがヤマトに恭順し、ツクシが治まってから、さほども時を経ずして、半島からの急報がもたらされる。
「楽浪郡も帯方郡も、魏の手に陥ちたとのことでございます。」
報せを聞くアキの目にちらりと稲妻が奔る。
「馬韓はどうしておる。」
「帯方郡がまだ混乱しております故、この機に乗じて辰韓に攻め入っております。」
「カヤはどうじゃ。まだ無事か?」
「馬韓は辰韓に執着しており、まだカヤには及んでおりません。」
馬韓が弁韓をおいて、まず辰韓を攻めるのは、辰韓のほうが憎き漢人に近い血を持っているからである。弁韓の民は、ほとんどが異民族の倭人であり、また海の向こうにその本元が大きく控えていることも知っている。その馬韓も、南では倭人と混ざりあって暮らしており、実のところその境界にも確たるものがない。
魏は半島をどう御していくつもりか?アキの思索を遮って使者が続ける。
「帯方郡からは、難を逃れたものたちが、すでにこちらに向かっておるようでございます。どうなさいますか?追い返しますか?」
「漢人ならばまずは丁重にもてなせ。使えるものはヤマトへ連れて行け。使えぬものは生口の島へでも送ってやればよい。」
「イトとムナカタに伝えまする。」
ツクシへの入り口に構えるイトとムナカタ。そしてイトは、かつてより倭の交易の窓口のような役割を果たしている。
「イトに伝えることがもう一つある。」
「帯方郡に使者を送れと、その先、行けるなら魏まで行けと。いや、何としても魏までたどり着け。ただし、ヤマトからの使者としてな。それから、土産は生口じゃ、奴らの下っ端を突き返してやれとな。」
「御意」
彼の大国の目に、我らは一つにみえなければならない。いやいずれ、一つでなければ、あの大国を動かすことはできない。そのためのヤマトなのだ。




