再起
再起
イワレがハッと目を見開く。
「うぬらはなぜそんなことを知っておるのか?そのような話、信じてよいのか?」
アワの密使が、口角を歪めてつと下を向く。
「われら、とおからそこで生き血を啜っておりますからには。」
何を嗤うか、とイワレが気色ばむ。
「何を言っておるのだ、まじめに話せ。」
「やれ、言うなと言われておったのですが、こうなっては隠し立てもできますまい。」
アワの密使は困った風でもなく、涼しい顔で続ける。
「此度のおでまし、先に願ったのは実は我らなのです。」
「なんだと!」
イワレだけでなく、アキもキビもみな口を揃えてアワを問い糺す。
「おのおのがた、丹のことはお聞き及びでございましょう?」
「アワでしかとれぬと聞いておるが、それが裏口と何の係りがあるのだ?」
「生き血を啜っていると申したのは、すでに彼の地でも採り始めているということなのでございます。しかもあちらはアワよりもはるかに多く、しかも採り易い。」
「なんと!」
「ヤマトを仕立てたのは、丹の屯倉とするため。そしてそこよりさらに東にもまだ丹はあると踏んでおるからでございます。」
「よくもぬけぬけと、うぬら我らをたばかったか。」
「何をおっしゃいますやら。これほどの丹を得ても、我らだけではさばききれぬから、アキ殿にご相談いたしましたところ、こうするがよいと。故に、こうして皆様方にお集まりいただいているのではありませぬか。ヤマトを仕立てる案にしても、すべてアキ殿の差配でごさいます。」
「いや、待たれよ、そうするとアキ高天原の真意も、もとよりそこにあるということか?」
「そのとおりでございます。イズモはコシの翡翠を使って、ふんだんに鉄を得ていると聞いております。しかし、丹ならばいかほどか。さらに先の大国こそ欲しがるというではありませぬか。一すくいの丹がどれほどの鉄となるか。翡翠の比ではございますまい。」
「なるほど、読めた。ヤマトが干上がれば、丹をあのナニワの津の輩に奪われ、奴らから流れでていってしまうということなのだな。」
「はい。すべてはそれを阻止せんがため、みなまで由を明かさずお集まりいただいたことについては、申し訳なく思いますが、彼の大国も韓の半島も遠く、それに我ら戦人ではありませぬゆえ、お力におすがりするほかはなかったのでございます。」
「ならば征かねばならぬな。」イワレがつぶやく。彼の目に光が戻る。
「裏口とやらの話、聞かせてもらおう。」
鳴門海峡は潮が渦巻く難所で、舟で渡ることも、ましてや抜けていくことなどできない。しかしその内側には、波も静かな停泊地としても良好なヨシノ海そしてウチノ海を抜けていくことができる。そこは、もともとサヌキとアワがひた隠す海路である。だがこの大船団が抜けていけるほど大きな海ではない。しかも対岸は河口で、そこからさらに上流奥深くまでさかのぼっていかなければならず。皆が入りこんで身動きがとれるような場所はない。
「イワレどの、我ら裏口はお教えすることはできるが、戦の民ではない故、最後までお供することはできますまい。そもそも急流を遡上するのであれば、大軍勢を連れて行くわけにもいかぬ。そこはどうなさる?」
「キビとアキの軍勢は連れては行かぬ。かの者たちには、時折ナニワの津を覗いて、闘わずに帰ってきてもらいたい。」
「なるほど、こちらに気づかせぬための陽動というわけですな。」
「そうだな。それもあるし、彼らにこのままお引き取りいただくわけにもいくまい。」
「彼の地の丹の採掘場には我らの手のものがおりますので、道すがらはその者たちをお尋ねくださいませ。他にはクマノの森の民がおります。彼らは我々とよしみを通じて、いまでは麓での稲作なども始めております。彼らをお使いになるのがよろしいかと。ただし、彼らがあなた方を信用すればということになりますが。」
「なるほど、黙ってついてきてくれるという都合の良い話ではないということだな。」
「はい。さようでございます。では、われら紀ノ川の河口まではお送りいたしますので、その後のご武運をお祈り申し上げます。」
「ありがとう。では征こうか。」
ウサの精鋭だけを引き連れて、イワレたちは淡路を出立する。




