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幻想古事奇譚  作者: 土師 陵生


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勝者の眼

勝者(しょうしゃ)の眼(まなざし)


 イ(・)コ(・)マ(・)山(やま)の頂(いただき)から冷徹(れいてつ)に視(み)る男がいる。ナガスネヒコというつわものを仕立(した)てて、ナ(・)ニ(・)ワ(・)の津の一帯(いったい)をおさえ、セ(・)ッ(・)ツ(・)からイ(・)ズ(・)ミ(・)までをその掌中(しょうちゅう)におさめる長(おさ)であった。

「確かに勝った。しかし……」

 眼下(がんか)の勝利(しょうり)の勝鬨(かちどき)とはうらはらに、その男の呟(つぶや)きにはどこか陰鬱(いんうつ)な響(ひびき)きがある。彼の冷徹(れいてつ)な眼指(まなざ)は、目前(がんぜん)の勝利の裏(うら)にある、恐るべき企(たくら)みの潜(ひそ)みを見抜(みぬ)こうとしていた。


「あの大軍は尋常(じんじょう)な規模(きぼ)ではない。キ(・)ビ(・)の軍だけではないはずだ。船の組み方、漕ぎ手の身のこなし……先鋒(せんぽう)はウ(・)サ(・)だった。それに、ハ(・)リ(・)マ(・)が封(ふう)じるはずのア(・)カ(・)シ(・)の海峡(かいきょう)を素通(すどお)りできたということは、ハ(・)リ(・)マ(・)が裏切(うらぎ)ったか、動(うご)けぬ事情(じじょう)があったのか?」

 ニギハヤヒの脳裏(のうり)に、ハ(・)リ(・)マ(・)の不気味(ぶきみ)な沈黙(ちんもく)が浮(う)かぶ。ハ(・)リ(・)マ(・)が目の前を悠々(ゆうゆう)と行く船団(せんだん)をただ見送(みおく)り、一歩も動けなかったとすれば、理由は一つしか無(な)い。


「……南(みなみ)か。ア(・)ワ(・)ジ(・)が、ハ(・)リ(・)マ(・)を張(は)り付けにしたか。ならば、来てはおらぬがサ(・)ヌ(・)キ(・)も裏(うら)で動いているということに相違(そうい)あるまい。あ奴(やつ)ら、どこまで繋(つな)がっているのだ……」

 そこまで思索(しさく)を進めたとき、ニギハヤヒの背筋(せすじ)に、これまでにない冷たい戦慄(せんりつ)が奔(はし)る。

 奴らは何のためにここへ来た。ただ我らを潰(つぶ)しに来たわけではないのやも知れぬ。

「であれば果たして、これで戦(いくさ)は止(や)むのか?」

 ナガスネヒコがいくら歴戦(れきせん)のつわものとはいえ、あの大軍が上陸戦(じょうりくせん)の不利(ふり)を乗り越えてくるとすれば、数の力の前に勝ち目はどれほどあるか?

奴らが再びナ(・)ニ(・)ワ(・)の津に力づくで攻(せ)めてくるか、このまま尻尾(しっぽ)を巻(ま)いて逃げ帰(かえ)るか、どちらとも到底(とうてい)思えない。正面(しょうめん)のナ(・)ニ(・)ワ(・)の津が駄目(だめ)ならば、奴らは次、どんな手を打ってくるか?

 

 ー読めぬ。ーニギハヤヒは、眉を顰めた。

 眼下に止(や)まぬ鬨(かちどき)が、まるでこれからはじまる崩壊(ほうかい)を告げる号砲(ごうほう)のように山麓(やまふもと)に響(ひび)いていた。


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