↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想古事奇譚  作者: 土師 陵生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/55

潰走

潰走(かいそう) 


「兄上!」

 イワレが目を血走(ちばし)さらせ、泥をかきわけて兄のもとへかけよる。周(まわ)りではキ(・)ビ(・)から託(たく)された兵たちが次々と討(う)ちとられ、陸(おか)にあがる機会すらもはや完全に潰(つい)えていた。これ以上そこにふみとどまっても、全軍が水漬(みづく)く屍(しかばね)となり果てるのみだった。イワレは右腕から血を流して倒れ伏すイツセを両腕で抱きかかえ、歯をくいしばりながら全軍へ撤退(てったい)を叫ぶ。


「引け! 皆船へ戻るのだ!」

 統率の差という残酷な現実を突きつけられ、イワレは負傷したイツセを船板(ふないた)に横たえながら、遠ざかるイ(・)コ(・)マ(・)の峰を睨(にら)みつけた。どれほど周到(しゅうとう)に練(ね)った筋書(すじが)きであっても、どこか大軍に甘(あま)える緩(ゆる)みがあったのであろう。傷ついた兄を労(いたわ)る、イワレの目から涙がこぼれ、その眼は光を失っていった。


 ナ(・)ニ(・)ワ(・)の津から、血と泥にまみれながら潰走するウ(・)サ(・)・ア(・)キ(・)・キ(・)ビ(・)の船団(せんだん)が、ほうぼうの体(てい)でア(・)ワ(・)ジ(・)の港(みなと)へと逃げ戻っていく。血の色に染まる水際(みずぎわ)に残されたのは、攻め寄せた側(がわ)の兵たちの無残(むざん)な骸(むくろ)と、放たれ地に落ちたおびただしい数の矢だけだであった。

 ナガスネヒコの兵たちは、退(ひ)いていく船団を追いもせず、ただ思い思いに鬨(かちどき)を上げ、得物を掲げて歓喜に沸いている。これまでみたこともないほどの大軍勢(だいぐんぜい)を陸(りく)に揚(あ)げることなく水際で一網打尽(いちもうだじん)にし、完膚(かんぷ)なきまでに叩き落としたのだ。

 だが、その背後から一部始終(いちぶしじゅう)を観(み)る冷静な眼があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。