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幻想古事奇譚  作者: 土師 陵生


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突入

 アキ、タケリの宮での軍略指南、イズモへの挨拶、そしキビ高島の宮での演習を経て、アワジの東岸の備えも固め終え、大軍を仕立てた万全の態勢で、意気も揚々とナニワの津へと向かうウサの若き王子たち。

 だが、そこには百戦錬磨のナガスネヒコの軍が、手ぐすねを引いて彼らを待ち受けていた。

突入(とつにゅう)

 

 イ(・)コ(・)マ(・)の山肌(やまはだ)から吹き下ろす冷たい風が、ナ(・)ミ(・)ハ(・)ヤ(・)の水際(みずぎわ)を埋(う)めた泥(どろ)と血(ち)の臭(にお)いをかき消していく。ウ(・)サ(・)、ア(・)キ(・)、そしてキ(・)ビ(・)という西から結集(けっしゅう)した大軍勢(だいぐんぜい)。その先頭に立ってナ(・)ニ(・)ワ(・)の津へ突入したのはウ(・)サ(・)の王子(おうじ)たち、イツセとイワレの兄弟(けいてい)であった。彼らの背後(はいご)にはキ(・)ビ(・)の最新鋭(さいしんえい)の鉄器(てっき)と製塩(せいえん)がもたらす豊富な物資(ぶっし)があり、ア(・)キ(・)の軍略(ぐんりゃく)があり、ウ(・)サ(・)の腕力(わんりょく)があった。しかし、どれほど個々の力が優(すぐ)れていようとも、寄せ集めの急造軍(きゅうぞうぐん)が持つ最大の弱点がそこにあった。

 統率(とうそつ)の欠如(けつじょ)である。そもそも彼らは生まれて初めて、戦(たたか)いというものに投(とう)じられているのだ。どれほどの練兵(れんぺい)を重(かさ)ねたとて、初めて見る相手を、あれが敵(てき)だ、さあ殺せと力の出るはずもない。


 彼らは、それぞれに、ただやみくもに水際(みずぎわ)へ押し寄せた。対するナガスネヒコ率(ひき)いる兵(つわもの)は、続く冷害(れいがい)の不作(ふさく)からついに野盗(やとう)と化して、貯(たくわ)えのあるこのナ(・)ニ(・)ワ(・)の津を襲(おそ)う窮乏(きゅうぼう)の民からそこをまもり続(つづ)け、あまつさえ野盗を出したムラを潰(つぶ)しにいきさえもする筋金(すじがね)入りの軍(ぐん)であった。地の利を完全に把握(はあく)し、どこに罠(わな)を張(は)り、どの間合(まあ)いで矢を放(はな)ち、いかに高所(こうしょ)から敵を分断(ぶんだん)するか。経験(けいけん)と統率(とうそつ)の点において、ナガスネヒコらは明らかにイツセたちの雑多(ざった)な兵たちを圧倒(あっとう)していた。


 先陣(せんじん)を切って津の水際(みずぎわ)へ突入した兵(へい)たちは、まさに袋(ふくろ)の鼠(ねずみ)となった。足を取られて乱(みだ)れたところを、山の斜面(しゃめん)から放(はな)たれる無数(むすう)の矢が容赦(ようしゃ)なく降(ふ)り注(そそ)ぎ、わずか数刻(すうこく)のうちに壊滅(かいめつ)した。勇(いさ)んで遮二無二前進(しゃにむにぜんしん)を命(めい)じたイツセ自身も、敵の放った鋭(するど)い矢に右腕(みぎうで)を深く射抜(いぬ)かれ、浅瀬(あさせ)へと崩(くず)れ落ちる。


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