策動 ―海峡の夜は更けて③ー
策動 ―海峡の夜は更けて③ー
「アナトの隠し子と言ったな、ムナカタ殿。あながち見当違いではない。我らがこの地から瀬戸内の富を流通させてきたこの絆そのものが、東の地で新しく産み落としたヤマトの雛形なのだ。アキ殿は、ツクシが自壊することを端から見越していた。そこに我らが畳みかけ、半島の主導権を握る。その布石として、次の我らの中心となるべき處を、東の奥地のまだ誰の手垢もついていない地に仕込んだのだ。」
それまで黙して聞くだけだったキクが、ようやく合点がいったというように身を乗り出した。
「なるほど……。アワが丹を出したという噂は聞いておったが、誠であったか。そして、そのためのヤマトか。」
「そうだ。」
ウサが強く頷く。
「ヤマトは、まだ、何もなかったところに作り始めたばかりの東のハリボテに過ぎん。だからこそ、我々が新たに集うところとして選ばれた。が、いま肝心のこちらからの入り口を封じる馬鹿者がおるのだそうだ。アキ殿は、このヤマトという器を完成させるため、我らにその馬鹿者を誅せよと言ってきたのだ。」
「つまるところ、我らにも兵を出せということか?」
ムナカタの目に落胆の色がありありと浮かぶ。
「いや、ヤマトへは我らウサだけで行く。ここにも連れてきておるが、この息子たちを行かせる。」
「しかし、それで足るのか?」
「アキ殿に抜け目はない。あちらでは、はや皆が手ぐすね引いて待っておるそうじゃ。」
「ナニワの津を塞がれておる程度なら、アワジだけでも相手になろうが、キビもハリマもついておるのであろう?わざわざウサ殿が参らずとも良さそうなものだが。」
「それが、なかなか強いのだそうだ。それに近すぎるのもな、あとあと宜しくないのだと。」
兵を出さずに済んだという安堵も手伝って、半ば呆けかけていたムナカタもアナトも、ふと我にかえる。
「いや、忘れるところであった。」
キクが後の言葉を継ぐ。
「我らにはどうせよと?ウサ殿も、ただ我らに留守居を頼むと言いに来たわけでもあるまい。」
ウサはフウウと長い溜息を吐いた。
「ご一同には、我らに呼応して、まずツクシの難民どもを流せと言われた。」
突拍子のないこの話の展開についていけず、ムナカタが目を白黒させている。
「特に、我らが同胞でないものを選んで生口とし、瀬戸の人住まぬ島に連れて行けとのことじゃ。」
キクもアナトも開いた口がふさがらず、ただウサを遠い目で眺めている。
ウサはまた、今度は短い溜息をつくと、こう続けた。
「ツクシには、難民どもは我らが引き受けてやるゆえ、矛を収めよと。イトを間に立ててな。使いには我がヒメを出す。そなたたちが護って送り届けてやってほしい。」
アキの目の底に宿る冷徹な光を思い出し、みなそのまま押し黙った。
海峡の夜は更けゆき、波しぶきが月明りに煌めいている。




