策動 ―海峡の夜は更けて②ー
策動 ―海峡の夜は更けて②ー
「しかし、此度の話、それとどうつながっておるのじゃ。まさか我らに半島へ征けということではあるまいな。我ら衛るだけで手一杯なところ、どこにそんな余裕があるとおもうておるのじゃ。」
「半島へ行けというのは、まあ当たっていなくもないが。」
「何を!アキ殿もついに狂うたか!」護れと命じておいて、今度はさらに攻めよとまでいうか、とムナカタの顔色が変わった。
「まあ、落ち着かれよ。半島へ行くのは、一仕事終えてからのことじゃ。此度のこの談義は、その一仕事の相談じゃ。まあ、アキ殿の考えは我らには及びもつかんがの。」
その唇が微かに震え、灯火の影が揺れた。その想いの外の躊躇に、アナトが鋭い視線を投げ、ムナカタはぐっと睨み据えて次の言葉を待った。部屋の空気が一瞬で氷結する。ウサの首領は地図のさらに東、ハリマを越えたその先を指差した。
「アキ殿が降りてこられたのだ。それもヤマトを連れてな。」
一同の息が止まった。ヤマトとは何だ?そもそもアキの首領がわざわざ自ら山を下りてくるとはどれほどの大事か。
「ヤマトだと? それは……何者だ?」
ムナカタが声を荒らげる。
「ヤマト」という名に、部屋の空気はさらに困惑と警戒の色を深めていく。まだこの時、アナトもキクも、ウサが何を言いだすのか、その壮大すぎる全貌を測ることすらできない。日々の防衛戦に追われる彼らには、はるか東の動向に目を向けているゆとりなどなかった。
アナトが、訝しげにウサを睨みつけ、低く問う。
「それで、アキ殿が何と言ってきたのだ? それにヤマトとは何だ? 我らアナトに、いつの間にか子でもできたか?」
アナトの問いには、前線を血を流してあの波をくいとめている自負と、決して表にでることのないアキへの皮肉が混じっていた。自分たちがあの流民の波をくいとめている間に、背後のアキが勝手に得体の知れない勢力と通じていることへの不信もある。
その不穏な空気を察し、闇で目を光らせていたムナカタが、静かにアナトを諭すように口を開いた。
「アキこそ高天原ぞ。我らの御祖なのだ。……まあ、ヤマトとは我らも知らぬが、アナトの隠し子というのもあながち外れではないかも知れぬがな。」
ムナカタの言葉に、アナトは眉をひそめた。アキは、自分たちにとって、神聖なる石の源流であり、命の根幹であった高天原そのもの。そこからの誘いを無下にすることはできない。ムナカタは薄く笑みを浮かべ、ウサへと視線を戻した。
「アキ殿は全てを見通しておるのだな。それで、ヤマトとは……?」
ウサが、ゴトリと真っ赤な丹の器を地図の上に置いた。そこは、アワジでもキビでもない、イヨの島の東アワ、そしてそのさらに東にある広大な盆地の東の端だった。
「ヤマトとはな、アキが選り出だした、我らの次の依り代なのだそうだ。」
ウサが、唖然とする一同を見まわして一気に語り始める。




