東遷
東遷
「いま孤立したヤマトを救わねば、我らこそさらに東への足掛かりを失うどころか、瀬戸の内海に閉じ込められて野垂れ死にじゃ。イズモがかっさらっていく前に、われわれが半島への確かな足掛かりを作っておかなければ、いずれ取り囲まれて踏み殺される未来が、うぬらにも見えないわけではあるまい。――それに」
アキの首領は、南西の海の闇をじっと見つめ、喉を鳴らすようにして声を低めた。
「そもそも、その先のシラが危うい。」
その一言に、ウサの首領は背筋が凍りつくのを感じた。シラが滅びるほどであれば、カヤがもちこたえられるとはとても思えない。
―だからといって、海を統べよといわれた我らに、今度は陸を統べよというのか―
ウサの首領が怒りに震え、拳を握りしめたその時、沈黙を守っていたヤマトの使者が、ひそと囁く。
「ウサの首領よ。まだ雛鳥のごとき我らの力では、瀬戸からの入り口を塞ぐものどもには太刀打ちできぬ。もし貴殿らがこのヤマトのために奴らを誅し、我らと瀬戸の内海を繋いでくださるというならば、我らは相応の礼を尽くす。事成しえたあかつきにはヤマトへ来られよ。貴殿らがヤマトで、われらの王となっていただく訳にはまいらぬか。」
「我らをヤマトの王にだと……」
「そうだ。」
唖然として二の句を告げないでいるウサの首領に目を細めながら、アキの首領が言葉を継ぐ。
「その訳はな、そなたらに新たな荷を運んでほしいからじゃ。そのために、そなたの筋から、のちにヤマトを導き、そして我らがこの大八洲を統べる王を出すのだ。」
最大の後ろ盾であるアキの冷厳なる宣告、読めないアキの腹のうち、そしてヤマトがもち出した、途方もない誘い。
ウサには、しかし選択の余地は残されていなかった。生き残るためには、彼らはその誘いに乗る決断を下すほかはなかった。いや、それはアキとて同じ。鉄こそが力の源となった今、ヤマトの死は、石の時代に栄華を誇った瀬戸内海経済圏の死を、少なくとも没落を意味していた。
ウサはヤマト救援の先鋒を引き受け、瀬戸内の海を繋ぐ物流をもって、半島や大陸から届く鉄や文化の伝手をヤマトへと送ることを約束する。
その胸の内を察して、アキの首領がウサの首領に耳打ちする。
「運ぶは丹じゃ。ヤマトはそのための布石よ。」




