密約
密約
人跡を拒むイツキシマの入江。その静かな波間に揺蕩う船上で、歴史の流れをくつがえす計略が、夜の闇に紛れて密かにうちあけられていた。
集まったのは、ヤマトからの使者、アキ高天原の首領、そしてウサの首領である。
「ヤマトを救わねばならん。」
アキの首領は、卓の上に広げられた海図を指先で叩きながら、ウサの首領に向かって厳かに言い放った。ウサの首領はその言葉に、激しい動揺を隠せなかった。
「われらに征けというのか! 我らは今背後に争乱のツクシを抱えている。われらが動けばムナカタも緩み、奴らがわれらの海になだれ込むぞ!」
「そうはならぬ。まあ、こちらに来るといえば来るかもしれぬが。」
アキの首領は冷酷に笑った。その目は、情勢を読むのに長けた狡猾なものであった。
「凍える寒さは止まず、水田は枯れ、洲中で餓えた者たちが土地を奪い合っている。ツクシの奴らは半島からの難民を抱えきれず、隣同士で奪い合っているだけだ。むしろかわいそうな奴らよ。それに。」一息ついて言葉を継ぐ。
「あれを収める手は打ってある。」
「な……っ!それはどういうことか?そもそもムナカタにさせているのは、難民がこちらに来ず、ツクシにしか行けぬようにせよということではなかったか?」
「まこと、そうよのう。このまま放っておけばツクシは内側から崩壊する。我らのことだけを考えれば、放っておくのが一番良い。じゃが、ちいと風向きが変わっての。ナニワの津を塞いでおる馬鹿者がおるのじゃ。奴らは摂津も押さえて、向こうの川から流れてくる荷が増えたことで、膨れ上がっておる。それをやっかんで、たびたび襲撃されておるという言い訳で武装し、いまでは逆にアワジにまでちょっかいを出して来よる。」
「われらの荷も奪われておるのか?」
「いや、アワジで留め置いておるから、がめられてはおらんがの。そこから先に進めんのじゃ。よってヤマトが干上がっておる。」
アキの首領はあきれたといった風で、ふうと息をつく。
この頃、大きなクニはヒメヒコ(ヒミヒコ)制という、統治形態を持っていました。アキ高天原がその代表格だったのかもしれません。イツキシマ(厳島)に若い女性たち(ヒメ)を集め、その敏感な身体感覚をもって、天候を読み、暦を繰っていたのかもしれません。そして、弥山の山頂で舞い、遠く高天原へそれを伝えていた。そんな美しい妄想を抱かせるほど、かの島は美しく、その姿を横たえています。
一方のイズモは、オオビコ(オオナモチ)とスクナビコという、正副の体制でした。現代企業でいう、CEOとCOO(CIO)のような役割分担であったことが想像できます。
そして、瀬戸内文化圏が仕立てたヤマト、これはクニグニをまとめる連邦政府とでもいうべき存在です。近代では、アメリカ合衆国におけるワシントンD.C.の立ち位置によく似ています。国際感覚、統治形態いずれも、数千年前にそうであったとはにわかには信じがたいものがあります。現代のほうがこういった感覚が劣化しているようにさえ思えます。
いずれにしても、この国の奥深さを物語る一面であるといえるでしょう。




