果てなき争乱
奇跡の邂逅
言葉も通じず、生活様式も何から何まで異なる多民族を内外に抱え、統一しようとすれば武力によるしかなかった征服と同化を繰り返す中華から、初めてそこを統一したはずだった巨大な帝国 があっけなく崩壊した後の、新たな戦乱を逃れて、二つの塊が半島へとたどり着く。
北には燕から逃れた一団が、そして西からはおそらくかつての斉辺りから逃れた一団が。
北から来た一団は、厳しい寒さが彼らにそうさせてきたとおり、ここでもまたすべてをなぎ倒し、奪いつくして、そこに彼らの新たな国をつくる。彼らの手に余るところは、武力をもって威嚇し、それを服従させる。
西から来た一団 は、豊かだった地から来た文人たちで、それぞれの身を守る小刀しかもっていなかった。力もなく使い道もない彼らの受け入れを、半島の住人たちは拒絶し、彼らを東南のはずれの地へと追いやった。そこは倭人の住むところだった。
そこは、膨大な量の鉄を隠し持った宝の山だった。
この出会いを奇跡というほかにはない。常に外圧に晒されて半島の中に閉じこもるしかなかった半島の民は、それゆえ西から来た亡命者を受け入れなかった。そして彼らが流れ着いたのは、遥か昔から海を野を縦横無尽に駆け回ってきた広い世界の住人たちの住む地であった。倭人と鉄を自在に操る知識を持ち合わせた西からの亡命者との出会い。そして彼らの到来を待っていたかのように、その地に眠る鉄の潜み。
この天の戯れ が、歴史の歯車を大きく音を立てて激しく回し始めた。
果てなき争乱
北つ海を隔てたところ、大陸から近づくように手を伸ばす半島もまた、大小さまざまなムラがひしめき合う地であった。だがそこは、陸続きの北から、そしてすぐ海の向こうの西から常に圧力をかけられ続け、東と南は倭に塞がれて、出口のないのが倭とは決定的に違っていた。
その半島の北の地は、かつて秦に滅ぼされた燕からの亡命者によって征服された、植民地となっていた。これをさらに前漢の武帝が滅ぼし、楽浪郡を置いてから、はや四百年が経とうとしている。ここの主は次には魏に変わり、南が分裂して帯方郡となる。
「どうやら、やつらの主がまた変わったらしい。」
「こんどは魏とかいう国らしいが……」
「まあ、いずれにしても我々には好機だな。ドサクサに紛れて攻めてみるか?」
これまでさんざんいいように弄ばれてきた恨みは、簡単におさまるものではない。
これまでの内輪揉めの矛先が、一斉に帯方郡へ、そして楽浪郡へと向かい、戦乱の火の手は、さらに勢いを増す。
彼らを煽動するのは、最強の伯済国の首長、辰王を称して実質的に半島を束ねる男王である。中華の主が代わるたびに、そこから零れ落ちてくる人や富、そして彼らに入り込んだ北の騎馬民族の血が、漢江の地の利を得て、群を抜く力を彼に与えていた。
伯済国が興隆するまで、馬韓のムラムラは、大きな事があれば集まって話し合い、互いの収穫を分かち合って生きてきた。しかし今、北の漢江流域から現れた伯済国(のちの百済)という新興のクニが、彼らの連帯を根底から覆しつつあった。
伯済国の王は、閉鎖的な組織の中では、序列というものが意味を持つことを学んでいた。中華の残党たちが、彼らにその甘い毒を注ぎ込んでいった。
より多く組織に与し、献身すればするほど、報酬が増える。額に汗して働くよりも、人に先んじて、組織の中で功をなし、覚えがめでたければ、より大きな見返りが期待できる。欲望を掻き立てて人を支配するこの毒は、人の思考を奪い、隷属への道と人を誘う。
組織への従属は、そのまま権利の剥奪を意味した。組織の意図に沿わないもの、私的なものは、悉く排除される。毒を飲んだものがそれに気づいて後悔しても、後の祭りである。
かといって、毒を飲まないものには、苛烈な暴力による制裁が待ち受けている。
力あるものに対して、弱きものが抗う術はもう残されていなかった。
こうして遂に馬韓は統一され、半島は一つの強国になるかと思われた。




