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第31話 対面 - Confrontation -

 ヴィクター・ケインは静かにリビングを見回した。

 ソフィアとエミリアが育った家。

 そして、自分がジェイク・ウォーカーを殺人犯へ仕立て上げるための映像を作った場所でもある。

 窓の外では鳥の鳴き声が聞こえる。

 現実では今の時間は夜なのに、ここでは暖かな日差しがリビングへ差し込んでいた。

 だがヴィクターの表情は硬い。

「ジェイクは来ていないんだな?」

 エミリアはソファへ腰掛けたまま答えた。

「何度も確認するのね」

「重要だからな」

「来てないわ」

 ヴィクターはしばらく部屋を見回した。

 システムログも確認済みだ。

 接続者は一人。

 ソフィアのIDだけ。

 少なくともシステム上はそうなっている。

「そうか」

 ヴィクターは小さく息を吐いた。

 そして向かいのソファへ腰を下ろした。

「証拠を渡してもらいたい」

 エミリアは即答した。

「嫌よ」

 ヴィクターは苦笑する。

「昔から頑固だったな」

「姉さんにも同じことを言った?」

 ヴィクターの笑みが消えた。

 短い沈黙。

「言った」

 エミリアは何も言わない。

「何度も説得した」

「公表しないでくれと頼んだ」

「だがソフィアは聞かなかった」

「だから殺したの?」

 静かな声だった。

 ヴィクターは視線を落とした。

「事故だった」

「口論になった」

「私は押しただけだ」

「でも姉さんは死んだ」

「そうだ」

 エミリアの拳がゆっくり握られる。

「それで?」

「次はジェイク?」

 ヴィクターは首を振った。

「違う」

「彼は運が悪かっただけだ」

「運が悪かった?」

 エミリアの声が低くなる。

「前日に荷物を届けていた」

 ヴィクターは続ける。

「缶コーヒーを飲んだ」

「DNAも指紋も残っていた」

「だから利用した」

「利用?」

「そうだ」

 ヴィクターはあっさり認めた。

「彼を犯人にした」

 エミリアはしばらく黙っていた。

 まるで、その言葉を噛み締めるように。

「じゃあ認めるのね」

「認める」

「姉さんを殺したことも」

「ジェイクへ罪を着せたことも」

「認める」

 リビングに静寂が落ちる。

 ヴィクターは疲れたように息を吐いた。

「だが仕方なかった」

 エミリアの眉が動く。

「仕方ない?」

「EDENは人類を変える技術だった」

 ヴィクターは真っ直ぐ前を見た。

「医療を変えた」

「教育を変えた」

「福祉を変えた」

「軍事訓練も」

「更生システムも」

「全てだ」

 その目に狂気にも似た熱が宿る。

「もしあの時、ソフィアが公表していたら」

「全て終わっていた」

「数千万人の利用者」

「数百万の患者」

「助かった命」

「失われた家族との再会」

「全部消えていた」

 エミリアは冷たく言った。

「だから子供たちを犠牲にしたの?」

 ヴィクターは答えない。

「答えて」

沈黙。

ヴィクターは目を閉じた。

「犠牲ではない」

「何ですって?」

「彼らは人間ではない」

「仮想人格だ」

 エミリアの目が細くなる。

「だから?」

「だから現実の人間と同じではない」

「そう」

 エミリアは小さく頷いた。

「やっぱり変わってないのね」

 ヴィクターは眉をひそめた。

「何がだ?」

「義兄さん」

 エミリアが立ち上がる。

「あなた、本当に何も分かってない」

 その瞬間だった。

「俺もそう思う」

 男の声。

 ヴィクターが振り返る。

 ソファの裏から、一人の男が立ち上がっていた。

 ヴィクターの顔色が変わる。

「ジェイク・・・」

 男はゆっくり歩き出した。

 そしてヴィクターの前で止まる。

「はじめまして」

 静かな声だった。

「あなたのおかげで三十年間もクソ刑務所で過ごしてきたジェイクです」

 そこには三十年分の憎しみが宿っていた。

「・・・」

「何か言うことはないか?」

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