↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浮世英伝 ―大正ウキヨ英士伝―  作者: 本堂ポンタ
第九章 赤坂旧龍穴(後編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/78

選択の果て

挿絵(By みてみん)

 ——絶対的な白。

 そんな世界の全てを呑み込むような閃光が、萎むように消え、暗さを取り戻すと、俺は見覚えのある場所に立っていた。

 赤坂旧龍穴。

 三つに分かれた、あの分岐路だ。

「……どうしたんだい、急に固まったりして。」

 隣から、応為の怪訝そうな声が聞こえる。

 振り返ると、彼女が俺の顔を心配そうに覗き込んでいた。

 俺は、弾かれたように顔を上げる。

(……戻ったのか……!?)

 左の坑道からは、歌麿の華麗な龍輝の気配が感じられた。

 そして、右の坑道からは、清長の怒りに燃える龍輝が。

(歌麿は、まだ生きてる……! 清長も、まだ戦ってる……!)

 俺は、胸にかけられた鏡のペンダントを、強く握りしめた。

 冷たい金属の感触が、俺の震える手に食い込む。

 こいつが、俺を過去に、この分岐点まで戻してくれたのか。

「……なんでもねえよ。」

 込み上げてくる記憶——歌麿の鮮血に染まった陣羽織、掠れた歌麿の叫び声——を必死に抑え、応為に笑ってみせる。

「少し、考え事だ。」

 理由は分からない。だが、俺はこの奇跡を無駄にするわけにはいかない。

(歌麿を、助けられる!)

 頭の中で、これまでの事が走馬灯のように蘇る。

 応為が隣にいるってことは、俺は今、仮面の男に敗れた後なのだろう。

 仮面の男に敗れた後、俺は応為と一緒に、清長たちと別れたこの分岐路まで戻って、歌麿が向かった左の道を選んだ。

 坑道の先では、歌麿は何者かと刃を交えていたが、俺たちの叫び声があいつの剣舞を乱し、紫の刃に貫かれてしまった……

 そうだ。

 あの時、俺たちが声を潜めていれば、歌麿が追い詰められることもなかったはずだ。

 でも、本当にそうか?

 声を潜めていても、その場に俺たちが居れば、同じ結果になる可能性はゼロじゃない。

 なら、どうする?

 答えは一つだ。

「応為、こっちだ!」

 俺は、戸惑う応為の腕を掴み、前回とは逆の道——清長が進んだ右の坑道へと向かう。

「ちょ、あんたね!」

「声出すな! いいから黙って来い!」

 歌麿、清長——

 ただ一心に、皆の無事を祈りながら、俺たちは暗い坑道を駆け抜けた。

 坑道は、相変わらず不気味なほど静かだった。

 湿った岩壁に、俺たちの荒い息遣いと二人の足音だけが反響する。

(頼む、正解であってくれ……!)

 焦る心を抑え、俺は慎重に歩を進めた。

 闇の奥から漂ってくるのは、二つの強大な龍輝がぶつかり合う凄まじい気配。

 間違いない。

 この先で、清長が何者かと死闘を繰り広げてる。

 無意識に顔がこわばる。

「写楽……」

 応為の声が震えていた。

「間違いない。清長と、敵の気配だ。……ここからは、息を殺せ。いいな」

 彼女はこくりと頷き返し、恐怖を押し殺すように唇を噛む。

 その瞳には、恐怖と俺への信頼が入り混じっていた。

 俺たちは音を殺し、光のまたたく方へと進む。

 すると坑道の曲がり角の先に戦場が姿を現した。


 戦場では、赤と紫、二条の閃光が、闇の中で激しく火花を散らしていた。

 赤い刃は、まるで業火のように荒々しく唸り、対する紫の刃は、蛇のように冷たく襲いかかる。

 俺と応為は物陰に身を隠し、息を殺してその光景を見つめていた。

(歌麿の時のようなマネは二度としねえ)

 俺は、胸のペンダントを強く握りしめ、静かに機を窺っていた。

 闇の中で激しく火花を散らす、赤と紫、二条の閃光。

 清長の剣は、怒りに燃えているはずなのに、その太刀筋は驚くほど冷静だ。

 無駄な動きが一切ない。

 最短距離で、的確に相手の急所を狙っていく。

 あれが、浮世組の古株の剣か。

 だが、相手の男は、その全てを紙一重で愉しげにいなしていく。

「ククク……変わらんな、清長! その、面白みのない剣!」

「黙れ、裏切り者が!」

 男は、清長の猛攻をまるで弄ぶかのように受け流しながら、その紫の刃を蛇のようにしならせた。

 予測不能な軌道を描くその刃が、清長の陣羽織を掠める。

「正義だの、規律だの、そんなものに意味があるのか? 見ろ、この力を!」

 男の体から、禍々しい龍輝が溢れ出す。

「力こそが全てだ! 力があれば、欲望のままに全て塗り替えることができる!」

「その歪んだ信念、この手で断ち切ってやる!」

 清長の踏み込みが、さらに鋭さを増す。

 だが、男は笑みを崩さない。

 二人の剣が交錯するたびに、闇が震え空気が悲鳴を上げた。

(……やべえ。清長の奴、押されてやがる)

 一見、戦いは互角に見える。

 だが、俺の目には明らかに清長が押されているのが分かった。

 打ち合えば打ち合うほど、清長の剣から冷静さが消えていく。

 それと比べて、相手の男の動きには、終始底知れぬ余裕があった。

 まるで、この死闘そのものを、心の底から愉しんでいるように。

 とにかく男の剣は、不気味だった。

 どこまでも歪で、予測ができない。

 まるで、闇そのものが刃となって襲いかかってくるかのようで、清長も苦戦している。

「ククク……どうした、清長! もう終わりか? その程度では、俺は楽しめんな!」

「貴様……!」

 男の挑発が、清長の剣筋を乱していくのが見て取れた。

 焦りが太刀筋を鈍らせる。

 その生まれた一瞬の隙を、男は見逃さない。

 紫の刃が、蛇のようにしなり、清長の陣羽織を深く切り裂いた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

次回は8月22日(土)19時に更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。